著者
山田 昌彦 山根 弘康 佐藤 明彦 平川 信之 岩波 宏 吉永 勝一 小澤 俊治 三谷 宣仁 白石 美樹夫 吉岡 美加乃 中島 育子 中野 正明 中畝 良二
出版者
農業技術研究機構果樹研究所
巻号頁・発行日
no.7, pp.21-38, 2008 (Released:2010-07-07)

1. ‘シャインマスカット’は、果樹試験場安芸津支場(現 農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点)において、1988年に安芸津21号に‘白南’を交雑して得た実生から選抜された、肉質が崩壊性で硬く、マスカット香を持つ黄緑色の大粒ブドウである。1999年よりブドウ安芸津23号の系統名を付けてブドウ第9回系統適応性検定試験に供試し、全国30か所の国公立試験研究機関において特性を検討した。2003年9月に農林水産省育成農作物新品種命名登録規程に基づき、‘シャインマスカット’と命名、ぶどう農林21号として登録された。また、2006年3月に種苗法に基づき登録番号第13,891号として品種登録された。2. 樹勢は強い。長梢剪定では花穂の着生は良く、平均1.6花穂/新梢着生した。短梢剪定においても花穂着生率が高かった。満開時と満開10~15日後にジベレリン25ppmに花(果)穂を浸漬処理することにより無核化生産できる。開花前にストレプトマイシン200ppmを散布すると、無核化はさらに安定する。無処理の有核栽培では、満開時に花穂整形すると、長梢・短梢剪定樹とも新梢の強さにかかわらず結実が良く、適度に着粒した。花穂整形労力は‘巨峰’なみ、摘粒労力は‘巨峰’に近い程度と評価された。3. 果実成熟期は‘巨峰’とほぼ同時期である。果粒重は有核栽培では10g程度であるが、満開10~15日後にジベレリン25ppmに果房浸漬処理を行うと、1g程度増大する。また、育成地における無核化栽培では、有核栽培と比べて2.4g増大し、平均12.4gであった。裂果性は非常に低く、系統適応性検定試験では‘巨峰’よりやや裂果しにくかった。‘巨峰’より脱粒しにくく、日持ちも長かった。糖度は‘巨峰’と同程度であり、育成地で18%程度であった。酸含量は‘巨峰’より0.1g/100mLあまり低く、育成地では0.4g/100mL程度であった。果肉特性は崩壊性で、噛み切れやすくて硬く、マスカット香を呈し、食味が優れる。渋みは一般に感じられない。4. 東北以南の‘巨峰’栽培地域における栽培に適する。耐寒性は‘巨峰’なみと評価された。べと病・晩腐病・うどんこ病については、ある程度の抵抗性があり、‘巨峰’を対象とした防除により栽培可能と見込まれる。しかし、黒とう病には強くないため、降雨の多い地域では簡易被覆またはハウス栽培が望ましい。
著者
守谷(田中) 友紀 岩波 宏 花田 俊男 本多 親子 和田 雅人
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.283-289, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
15
被引用文献数
2

リンゴの主要4品種において,摘果期間早期の落果量を増加させる摘花剤がもたらす摘果期間全体での省力効果および果実肥大促進効果を検証し,各品種における効率的な薬剤摘花・摘果の方法を検討した.頂芽果落果率や腋芽の結実花そう率の違いから,薬剤摘花・摘果の効果は品種により異なった.‘つがる’および‘ジョナゴールド’では,摘花剤単用は腋芽の結実花そう率が高いために腋芽果の摘果に時間を要し,省力につながらなかった.果実肥大を考慮すると,両品種においては摘花剤と摘果剤の併用が最も効果的であった.‘シナノスイート’では,薬剤摘花・摘果による摘果作業の省力効果はなかったが,果実肥大が促進されることから摘花剤散布が有効であった.‘ふじ’では,人工受粉によって果実重と種子数が増加するため,人工受粉をしたうえで摘花剤と摘果剤を併用することにより,摘果作業を大幅に省力しつつ果実肥大を期待できる.摘花剤単用は摘果剤単用より省力効果があった.
著者
岩波 宏 守谷 友紀 花田 俊男 阪本 大輔 馬場 隆士
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.79-85, 2021 (Released:2021-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

NAC水和剤による摘果効果は年次間差が大きい.そこで,樹体の状態と気象条件から効果に影響を及ぼす要因を抽出し,その要因を用いて,摘果効果(落果率)を予測するモデルを作成するとともに,そのモデルから,年次変動の原因およびその程度を推定した.NAC水和剤処理による‘ふじ’の落下する果実の肥大停止時期は,NAC水和剤を早くに処理しても遅くに処理しても,無処理樹で生理落果する果実が肥大停止する時期と同じ時期であった.NAC水和剤処理による落果率は,処理時の果そう内平均着果数,平均果そう葉数,処理後3日間の平均最高気温,満開後3~4週の平均日射量の4つの要因で概ね推定できた.果そう内着果数と果そう葉数は果そうの栄養状態を表し,果そう内の着果数が多く,果そう葉数が少ないリンゴ樹の果実は落下しやすかった.気象要因である処理後の気温と日射量については,日射量の方が落果率に及ぼす影響は大きく,年次による落果率の違いは,満開後3~4週の平均日射量の年次による違いが主な原因であった.近年はこの時期の日射量が高いため,NAC水和剤の摘果効果が不十分な年が多く,NAC水和剤単独処理では省力化の期待できる落果率80%を安定して達成するのは困難であると推定された.
著者
森谷 茂樹 岩波 宏 古藤田 信博 髙橋 佐栄 山本 俊哉 阿部 和幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.279-287, 2009-07-01
被引用文献数
1 29

カラムナータイプリンゴの育種を進展させるため,ゲノム上の <i>Co</i> 周辺領域について連鎖地図を構築し,実際の育種においてカラムナータイプの実生を正確かつ効果的に選抜できる DNA マーカーを同定した.3つのマッピング集団においてリンゴ第10連鎖群の連鎖地図を構築し,2つの集団,'ふじ' × 8H-9-45 と'ふじ' × 5-12786 において <i>Co</i> がマッピングされた.<i>Co</i> 近傍にマップされた DNA マーカーである SCAR<sub>682</sub>,SCAR<sub>216</sub>,CH03d11,Hi01a03 について,カラムナータイプの33品種・系統と,カラムナータイプではない日本のリンゴ育種における7つの祖先品種のマーカー遺伝子型を決定した.Hi01a03 の 174 bp の増幅断片は全てのカラムナータイプ品種・系統および'旭'で検出されたが,その他の祖先品種では検出されなかった.SCAR<sub>682</sub> の 682 bp,CH03d11 の 177 bp の増幅断片は1系統を除く全てのカラムナータイプ品種・系統および'旭'において検出されたが,その他の祖先品種群では検出されなかった.また,18 交雑組合せから得られたカラムナータイプ個体全 170 個体において,<i>Co</i> 近傍にマップされたマーカーを検出した結果,SSR マーカー CH03d11 の 177 bp のアリルが全ての個体で検出されたことから,CH03d11 が <i>Co</i> と最も近接するマーカーと考えられた.これらの結果より,CH03d11 がマーカー選抜においてカラムナータイプとカラムナータイプでない個体を区別する最も信頼できるマーカーであると考えられた.5-12786 などの,果樹研究所における現在最も改良の進んだ 2 つのカラムナータイプ選抜系統は,いずれもカラムナー性の起源品種'Wijcik'に由来する CH03d11 の 177 bp と Hi01a03 の 174 bp(<i>Co</i> 連鎖アリル)を保持していることから,育種プログラムにおいてこれらの系統をカラムナータイプの交雑親として用いる際は,CH03d11 と Hi01a03 によってカラムナータイプ個体を効率的に選抜することが可能となる.<br>