著者
駒井 睦子
出版者
日本イスパニヤ学会
雑誌
HISPANICA / HISPÁNICA (ISSN:09107789)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.56, pp.159-181, 2012-12-25 (Released:2014-03-27)

1926年までのアルフォンシーナ・ストルニの詩には、女性の一人称を語り手としたものが数多くあり、その中には男性に従順さをアピールしつつ愛を求める女性もいれば、反対に男性優位主義社会を批判する女性が描かれてもいる。このような女性の語り手の作品は、これまで多くの研究で「作者の感情を投入した、主観的な作品」とみなされ、男性の愛を求める女性と、批判をする女性という2つの対比される女性像があると指摘されてきた。しかし本稿において、内容表現だけではなく詩作上の工夫にも着目しながら作品を分析した結果、それぞれの女性像には微妙な揺らぎがあり「恋する」、あるいは「批判する」だけではないことが見出された。また、語りの調子を和らげたり、語り手自身の矛盾を追及したりする効果を生んでいる構造、構成上の工夫にも言及し、これまで見過ごされていた女性の「私」が有する語りの多彩なトーンや構造による複雑さを明らかにした。