著者
露崎 浩 武田 和義 駒崎 智亮
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.345-350, 2000-09-05
参考文献数
9
被引用文献数
1

オオムギが主食として栽培されているチベット高原の東部地域(標高2670m~3550m)において, オオムギの栽培, 生育状況を収穫期に調査した.さらに, その場で収集したオオムギ在来品種333系統を日本で栽培し, 出穂期や収量関連形質などを調べた.栽培されていたオオムギのほとんど(収集系統の99%)が六条・裸性であった.粉食をするチベット民族が製粉の容易なハダカムギを好んで栽培していると推察される.穎や穎果が紫や青色を呈する系統が多数認められた.オオムギ栽培は, 河岸段丘や山腹の小規模な畑で行われていた.ヤク(牛の一種)を使う耕起の他は, 全て手作業で栽培が行われていた.元肥として, 主に有機質肥料が使われていた.播種様式は散播が最も多かった.春播き栽培されており, 播種期(3月中旬~4月上旬)と収穫期(8月上旬~下旬)が標高により異なった.収穫物は架掛けや屋根の上で乾燥された後, 踏みつぶしや唐竿により脱穀されていた.収穫時の生育状況(草高および被度)に, 大きな圃場間差が存在した.日本での出穂期に1ケ月近くの系統間変異が認められ, 標高2900~3100mから収集した系統に出穂の遅いものが多かった.このような出穂期の遺伝的分化には, 栽培標高帯の気象条件や播種, 収穫期の早晩が関わっていると思われた.収集系統の千粒重は, 世界各地の六条・裸性品種と比べ明らかに大きかった.最後に, 現地での多収化を計る上での栽培上の視点を提示した.