著者
竹本 浩太 竹野 幸夫 大谷 厚子 高原 大輔 西田 学 石野 岳志
出版者
JAPAN SOCIETY OF IMMUNOLOGY AND ALLERGOLOGY IN OTOLARYNGOLOGY
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.233-239, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
39

一酸化窒素(NO)は気道防御における恒常性の維持と同時に,炎症性メディエーターとしても機能している。ヒト鼻副鼻腔は生理的に重要なNO産生の場であると同時に,呼気中NO(FeNO)濃度の変化が副鼻腔炎における病態診断や治療効果判定に役立つ可能性を有している。また好酸球性気道炎症のバイオマーカーとしても近年注目を集めている。生体におけるNO産生は3種類のNO合成酵素(NOS)isoform活性やNOS基質であるL-arginineの利用環境に影響を受けている。近年,本邦では好酸球性副鼻腔炎(ECRS)の疫学的増加が報告されている。慢性副鼻腔炎においては含気腔におけるnasal NO濃度は低下するとの報告が大多数を占めている。また好酸球性副鼻腔炎においては非好酸球性と比較して下気道FeNOが高値であり,かつNOS2の発現が亢進している。一連の研究により,鼻副鼻腔におけるNO産生の主体を占めているNOS isoformは誘導型(NOS2)と内皮型(NOS3)であるとされており,両酵素ともジェノタイプとして遺伝子多型と炎症性疾患の病態との関連性が指摘されている。NOS2ではマイクロサテライトのひとつであるCCTTT反復数が多いほうがより高い転写活性を有することが知られている。気管支喘息患者においてCCTTT反復数がFeNOレベルと有意に正の相関を示していたという報告もある。今後鼻腔NOの機能的役割についてもこれら喘息患者と同様の解析が待ち望まれる。またNOS3遺伝子多型と鼻副鼻腔疾患との関連性についても,今後のさらなる展開が望まれる。
著者
服部 貴好 石橋 卓弥 高原 大輔 石野 岳志 竹野 幸夫
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.196-202, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
10

嗅覚障害診療ガイドラインが発刊され,嗅覚障害に対する概念や分類,原因,診断,治療に対する知識が広がりつつある。今回我々は,鼻腔所見から原因不明の嗅覚障害が疑われたものの,鼻腔CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖が原因であると診断できた気導性嗅覚障害例を経験した。症例1は24歳の女性。基礎疾患にアレルギー性鼻炎があり,CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,鼻処置にて同部位を開大すると嗅覚の改善が得られた。症例2は50歳の女性。好酸球性副鼻腔炎に対し他院にて手術を施行されていたが,術後の嗅覚は不安定で高度の変動を認めた。CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,嗅裂の状態で嗅覚の変動が認められた。症例3は17歳の男性。基礎疾患に慢性副鼻腔炎があり,近医耳鼻咽喉科を不定期受診していたが嗅覚は改善しなかった。CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,嗅裂の形態改善目的で中鼻甲介開窓術を行い嗅覚の改善が得られた。3症例はともに鼻腔CTで,上鼻甲介レベルの嗅裂の狭小化を認め,両側の上鼻甲介がそれぞれ鼻中隔側に向かって内反して閉塞した所見を認めた。本所見を基に同部位の開大を行ったところ全例において嗅覚の改善が得られたため,これら症例においては嗅裂の形態が病態形成の主要な要因であると考えられた。本病態においては鼻腔CTによる嗅裂形態の確認が重要であるとともに,恒久的な構造の改善のために内視鏡下鼻内副鼻腔手術による中鼻甲介開窓術が有効であると考えられた。