著者
竹野 幸夫
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

一酸化窒素(NO)は、ヒトの気道において重要な生理機能や炎症制御に深く関与している。またヒト鼻副鼻腔は生理的に重要なNO産生の場であり、鼻アレルギーや副鼻腔炎などの疾患において病態診断のパラメータとしての有用性が期待されている。今回の研究において我々は、誘導型NOS (iNOS)とその発現制御に深く関わっている転写因子であるNF-κBに関して、iNOSにより産生されたNOが、病態の遷延化と副鼻腔の生理機能の維持にどのように関与しているかの解析と、副鼻腔粘膜における転写因子の活性化と局所サイトカインネットワークとの関連性との検討を行った。そして、 1)iNOS発現細胞の同定と疾患による変動、炎症性サイトカインの影響:ヒト鼻腔粘膜擦過細胞を用い、NOS isoformの発現を蛍光免疫染色、RT-PCR法にて解析した。さらにNO産生の状態を、NO蛍光測定試薬であるDAF-2 DAを用いリアルタイム下に観察した。そして、鼻アレルギーにおいて上皮細胞のiNOSの発現亢進がその重症度に応じて認められること、炎症性サイトカイン(TNF-α、IFN-γ)による発現誘導を確認した。2)副鼻腔粘膜におけるNF-κBの発現と活性化を、RT-PCR法および蛍光二重染色にて解析し、活性部位の局在を同定した。さらにNF-KB活性化率とIL-8、IL-16、eotaxin mRNA発現との間で有意な相関が認められ、組織における好酸球浸潤機構に果たす本転写因子の役割が判明した。3)副鼻腔粘膜培養細胞を用いたNF-κB活性化実験と外用ステロイドの抑制効果:培養上皮細胞に対するTNF-α刺激により著明なNF-κBの活性化率の増強が観察された。さらにfluticasone propionateは濃度依存的にその活性化を抑制し、臨床的に難治性の副鼻腔炎への臨床効果が期待された。
著者
松原 篤 坂下 雅文 後藤 穣 川島 佳代子 松岡 伴和 近藤 悟 山田 武千代 竹野 幸夫 竹内 万彦 浦島 充佳 藤枝 重治 大久保 公裕
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.485-490, 2020-06-20 (Released:2020-07-01)
参考文献数
6
被引用文献数
13 34

近年になり, スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の増加が指摘されている. 馬場らが中心となって1998年と2008年に全国の耳鼻咽喉科医師ならびにその家族を対象としたアンケートによる鼻アレルギー疫学調査が行われ, 有病率の推移が詳細に報告されている. 今回われわれは,前回の調査から11年後の2019年に同様の調査を行い, スギ花粉症, 通年性アレルギー性鼻炎ならびにスギ以外の花粉症の有病率を同定した. アレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%, スギ花粉症単独の有病率は38.8%と前回調査に比べ大きく増加していた. さらに10歳代でスギ花粉症が著明に増加していることも明らかとなった.
著者
竹野 幸夫 平川 勝洋
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.225-229, 2013 (Released:2013-09-27)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

呼気中の一酸化窒素 (NO) の測定は,測定方法の標準化ガイドラインが近年確立され,呼吸器領域の新しい診断マーカーの可能性と治療への応用の道が開かれてきている。一方で,ヒト鼻副鼻腔は生理的に重要なNO産生の場であると同時に,1) その複雑な解剖学的構造,2) NOが有する生理的恒常性の維持と炎症性メディエーターという二面性,3) 生体組織中へのNOの再吸収現象,など測定の標準化には解決すべき問題が残っている。鼻アレルギーでは過剰産生されたNOが,炎症細胞を介した非特異的免疫応答の増強や,活性酸素種との反応を介した細胞障害作用を引き起こし,アレルギー性炎症の病態増悪の一因になっていると考えられている。我々の検討でも,通年性HD鼻アレルギー症例における鼻呼気FeNO値の測定は病態把握に有用な指標となることが示された (cut off値 70 ppb,敏感度 59.3%)。一方で,慢性副鼻腔炎では罹患した副鼻腔洞においてNO濃度の低下が認められており,粘液線毛輸送機能の低下による排泄機能障害と密接に関連している。副鼻腔炎加療による粘膜再生過程では,線毛細胞に局在するiNOS由来のNO産生により鼻腔NO濃度が上昇する。また好酸球性副鼻腔炎 (ECRS) では,局所好酸球浸潤に一致したNO酸化代謝産物の沈着が顕著であることより,炎症細胞も加えたiNOS誘導を背景とするNO産生代謝機構は非好酸球性のそれと異なっており,これらの面からもFeNOモニタリングは有用な指標となると思われる。
著者
藤枝 重治 坂下 雅文 徳永 貴広 岡野 光博 春名 威範 吉川 衛 鴻 信義 浅香 大也 春名 眞一 中山 次久 石戸谷 淳一 佐久間 康徳 平川 勝洋 竹野 幸夫 氷見 徹夫 関 伸彦 飯野 ゆき子 吉田 尚弘 小林 正佳 坂井田 寛 近藤 健二 山岨 達也 三輪 高喜 山田 奏子 河田 了 寺田 哲也 川内 秀之 森倉 一朗 池田 勝久 村田 潤子 池田 浩己 野口 恵美子 玉利 真由美 広田 朝光 意元 義政 高林 哲司 富田 かおり 二之宮 貴裕 森川 太洋 浦島 充佳
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.728-735, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2 7

これまで本邦における慢性副鼻腔炎は好中球浸潤が主体で, 内視鏡鼻副鼻腔手術とマクロライド少量長期投与にてかなり治療成績が向上してきた. しかし2000年頃からそれらの治療に抵抗性を示し, 易再発性の難治性副鼻腔炎が増加してきた. この副鼻腔炎は, 成人発症で, 嗅覚障害を伴い, 両側に鼻茸があり, 篩骨洞優位の陰影があった. 末梢好酸球も多く, 気管支喘息やアスピリン不耐症の合併もあった. このような副鼻腔炎の粘膜には多数の好酸球浸潤が認められていたため, 好酸球性副鼻腔炎と命名された. 好酸球性副鼻腔炎は, 徐々に増加傾向を示してきたが, 好酸球性副鼻腔炎の概念, 診断基準はあまり明確に普及していかなかった. そこで全国規模の疫学調査と診断ガイドライン作成を目的に多施設共同大規模疫学研究 (Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study: JESREC Study) を行った. その結果, 両側病変, 鼻茸あり, CT 所見, 血中好酸球比率からなる臨床スコアによる簡便な診断基準を作成した. さらに臨床スコア, アスピリン不耐症, NSAIDs アレルギー, 気管支喘息の合併症, CT 所見, 血中好酸球比率による重症度分類も決定した. 4つに分類した重症度分類は, 術後の鼻茸再発と有意に相関し, 最も易再発性かつ難治性の重症好酸球性副鼻腔炎はおよそ全国に2万人いることが判明した. 治療法については経口コルチコステロイド以外まだ確立されておらず, 早急なる対応が急務と考えている.
著者
竹本 浩太 竹野 幸夫 大谷 厚子 高原 大輔 西田 学 石野 岳志
出版者
JAPAN SOCIETY OF IMMUNOLOGY AND ALLERGOLOGY IN OTOLARYNGOLOGY
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.233-239, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
39

一酸化窒素(NO)は気道防御における恒常性の維持と同時に,炎症性メディエーターとしても機能している。ヒト鼻副鼻腔は生理的に重要なNO産生の場であると同時に,呼気中NO(FeNO)濃度の変化が副鼻腔炎における病態診断や治療効果判定に役立つ可能性を有している。また好酸球性気道炎症のバイオマーカーとしても近年注目を集めている。生体におけるNO産生は3種類のNO合成酵素(NOS)isoform活性やNOS基質であるL-arginineの利用環境に影響を受けている。近年,本邦では好酸球性副鼻腔炎(ECRS)の疫学的増加が報告されている。慢性副鼻腔炎においては含気腔におけるnasal NO濃度は低下するとの報告が大多数を占めている。また好酸球性副鼻腔炎においては非好酸球性と比較して下気道FeNOが高値であり,かつNOS2の発現が亢進している。一連の研究により,鼻副鼻腔におけるNO産生の主体を占めているNOS isoformは誘導型(NOS2)と内皮型(NOS3)であるとされており,両酵素ともジェノタイプとして遺伝子多型と炎症性疾患の病態との関連性が指摘されている。NOS2ではマイクロサテライトのひとつであるCCTTT反復数が多いほうがより高い転写活性を有することが知られている。気管支喘息患者においてCCTTT反復数がFeNOレベルと有意に正の相関を示していたという報告もある。今後鼻腔NOの機能的役割についてもこれら喘息患者と同様の解析が待ち望まれる。またNOS3遺伝子多型と鼻副鼻腔疾患との関連性についても,今後のさらなる展開が望まれる。
著者
竹野 幸夫
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.109-110, 2021 (Released:2021-04-26)
参考文献数
3
著者
石野 岳志 竹野 幸夫 西 康行 平川 勝洋
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.182-187, 2008 (Released:2009-10-15)
参考文献数
6

真菌の同定が困難であったために, 好酸球性鼻副鼻腔炎として診断されえたが, 細菌検査の工夫により真菌の同定が可能となり, 抗真菌薬が有効であったため, アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎 (AFRS) と診断した2症例について報告した。症例1, 2とも内視鏡下鼻内副鼻腔手術を施行したものの, 経過観察中に症状の再発が認められた。再発時, 院内の細菌検査では真菌感染を認めなかったものの, 培養方法の改善により真菌の同定が可能で, テルフェナビンの投与により病状の著明な改善が得られた。しかし2症例とも抗真菌薬投与終了後約3ヵ月後に再発が認められた。症例1は再発後に抗真菌薬投与を行ったものの病状の改善は不良であったが, 症例2は再度の抗真菌薬投与で寛解を得られることができた。抗真菌薬が有効であったことと上下気道の疾患の共通性から, 難治性副鼻腔炎のうちAFRSと真菌が同定されないため好酸球性鼻副鼻腔炎とされている症例の一部はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症 (ABPA) と発症機序が共通していることが考えられ, 抗真菌薬の変更などABPAの診断, 治療方法を改変して導入することでさらなる診断方法, 治療方法の改善が得られる可能性が考えられた。
著者
濱本 隆夫 平川 勝洋 竹野 幸夫 立川 隆治 樽谷 貴之
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.213-216, 2012 (Released:2012-08-25)
参考文献数
10

近年, 身の回りには種々の化学製品が多くなり, それらに接触する機会が増えるとともに, アレルギー性接触性皮膚炎が問題となっている. 医療分野, 特に歯科治療では金属なくして治療を行うことは考えられず, 用途, 種類も多岐にわたる. 歯科治療に用いられる金属材料は通常生体には問題はないとされていても, その量, 種類によってはアレルギーを引き起こす可能性があることが知られている. 今回耳下腺腫脹の原因検索に難渋し, 歯科金属アレルギーが原因であると推測された症例を経験した. 口腔病変をともなう患者を診察する際には金属アレルギーについても留意を払わねばならないと考える.
著者
服部 貴好 石橋 卓弥 高原 大輔 石野 岳志 竹野 幸夫
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.196-202, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
10

嗅覚障害診療ガイドラインが発刊され,嗅覚障害に対する概念や分類,原因,診断,治療に対する知識が広がりつつある。今回我々は,鼻腔所見から原因不明の嗅覚障害が疑われたものの,鼻腔CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖が原因であると診断できた気導性嗅覚障害例を経験した。症例1は24歳の女性。基礎疾患にアレルギー性鼻炎があり,CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,鼻処置にて同部位を開大すると嗅覚の改善が得られた。症例2は50歳の女性。好酸球性副鼻腔炎に対し他院にて手術を施行されていたが,術後の嗅覚は不安定で高度の変動を認めた。CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,嗅裂の状態で嗅覚の変動が認められた。症例3は17歳の男性。基礎疾患に慢性副鼻腔炎があり,近医耳鼻咽喉科を不定期受診していたが嗅覚は改善しなかった。CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,嗅裂の形態改善目的で中鼻甲介開窓術を行い嗅覚の改善が得られた。3症例はともに鼻腔CTで,上鼻甲介レベルの嗅裂の狭小化を認め,両側の上鼻甲介がそれぞれ鼻中隔側に向かって内反して閉塞した所見を認めた。本所見を基に同部位の開大を行ったところ全例において嗅覚の改善が得られたため,これら症例においては嗅裂の形態が病態形成の主要な要因であると考えられた。本病態においては鼻腔CTによる嗅裂形態の確認が重要であるとともに,恒久的な構造の改善のために内視鏡下鼻内副鼻腔手術による中鼻甲介開窓術が有効であると考えられた。