著者
花塚 優貴 清水 美香 高岡 英正 緑川 晶
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第31回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.88-89, 2015-06-20 (Released:2016-02-02)

鏡に映った像を自身の像と認識する能力、すなわち自己鏡像認知はヒトやチンパンジー、オランウータンなど限られた種でのみ認められる。しかし2秒遅れて同期する自己像を呈示される条件では、自己鏡像認知が可能なヒト幼児でも自身の像として認識することが困難になることが報告されている。つまり自己像を認識するうえで、自己の運動とその視覚的なフィードバックが時間的に一致していることが重要であることが示唆されている。本研究ではヒトに近縁なオランウータンを対象とし、オランウータンが遅延呈示される自己像を自己の運動と同期しない自己像と区別できるか検討することで、自己像の時間的な遅延が自己像認知に及ぼす影響の進化的な起源について明らかにすることを目的とした。対象は東京都多摩動物公園にて飼育されている3頭のオランウータン(推定59歳のメス、49歳のメス、29歳のオス)とした。まずオランウータンがモニタに映し出された自己像を認識できるかを確認するため、自己の動作と遅延なしで同期する自己像と、別の日に撮影され今現在の自己の運動とは同期しない自己像を対呈示し、それぞれに対する注視時間を指標として両者を区別できるか検討した。結果、3頭のオランウータンは同期する自己像を同期しない自己像よりも有意に長く注視することが示され、オランウータンはモニタ上でも自己の動作を検出することができることが確認された。続いて2秒遅れて同期する自己像と同期しない自己像を対呈示し、両者を区別できるか検討した。結果、推定59歳のメスを除く2個体において、2秒遅れて同期する自己像を同期しない自己像よりも有意に長く注視することが明らかになった。以上の結果から、オランウータンは2秒遅れて呈示する自己像を同期しない自己像と区別できることが示され、オランウータンは少なくとも2秒遅延して同期する自己像を、自己の動作と因果的に認識できる可能性が示唆された。