- 著者
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森田 直明
荻野 雅史
上野 貴大
戸塚 寛之
強瀬 敏正
高木 優一
須永 亮
佐々木 和人
鈴木 英二
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.DbPI1345-DbPI1345, 2011
【目的】高齢者の廃用症候群は多岐にわたり、筋力低下や可動域制限のみならず呼吸機能の低下も認め容易にADLの低下に繋がってしまう。呼吸機能の低下は、予てから体幹筋力、胸郭可動性等の体幹機能低下の関連性が示唆され、その重要性は周知の通りである。朝倉らによると、肺弾性収縮力の低下、呼気筋力、気道抵抗の増加、声門閉鎖不全及び中枢気道彎曲や偏位によって高齢者の咳嗽力が低下するとされている。よって、加齢による呼吸機能低下に加え、脳血管疾患等の疾病による身体機能低下が加わった高齢者においては、より呼吸機能の低下を生じ易い状況となる。このような例に対する理学療法介入をより効果的に行うために、特にどのような体幹機能に関連性が強いかを検討する必要がある。これについては過去にいくつかの報告を認めるが、依然として検討段階にある課題と考える。Kang SWらによると最大咳嗽力(Peak Cough Flow以下PCF)160ℓ/min以下では普段でも排痰困難や誤嚥を認め、それによる誤嚥性肺炎、急性呼吸不全、窒息の危険性を呈するといわれている。よって今回はPCF160ℓ/minを境界として、体幹可動域、筋力等の体幹機能の差について検討したので報告する。<BR>【方法】対象は、平成20年3月1日から平成21年2月28日までの期間で当院に入院しリハビリテーションを施行した70歳以上の脳血管疾患の既往を有する例のうち廃用症候群を呈した19例(男性7例、女性12例、平均年齢81.5±6.9歳)とした。対象に対し、胸椎、胸腰椎の屈曲、伸展可動域、体幹屈筋群と体幹伸筋群の筋力、PCFの測定を行った。測定は、それぞれ3回施行し、最大値を採用した。体幹の可動域は、Acumar Technology製、ACUMAR DIGITAL INCLINOMETERを使用し胸椎(Th3~Th12)の屈曲、伸展可動域、胸腰椎(Th12~S1)の屈曲、伸展可動域測定を自動運動、他動運動共に施行した。体幹筋力は、オージ-技研社製、MUSCULATORを使用し、椅子座位にて大腿部と骨盤帯を固定し、足底が浮いた状態での筋力測定を行った。PCFは、松吉医科機器株式会社製、Mini-WRIGHT Peak-flow Meterを用いて測定した。対象をPCFの結果から160ℓ/min以上をA群、160ℓ/min以下をB群に分類し、各群間での各体幹機能について比較検討をした。統計的検討にはSPSS for windows10を用い、Mann-WhitneyのU検定を行い、有意水準5%とした。<BR>【説明と同意】対象またはその家族に研究の趣旨を説明し、同意を得た上で検討を行った。<BR>【結果】各群の内分けは、A群10例(男性6例、女性4例、平均年齢82.8±7.9歳)、B群9例(男性1例、女性8例、平均年齢80.0±5.7歳)であった。各測定結果は、以下に示す。PCFでは、A群280.0±90.2ℓ/min、B群97.8±22.8ℓ/min、可動域測定では、胸椎自動屈曲、A群10.9±7.8°、B群18.2±21.0°、胸椎自動伸展、A群10.0±8.3°、B群17.3±21.2°、胸腰椎自動屈曲、A群11.7±8.5°、B群17.0±16.5°、胸腰椎自動伸展、A群12.8±8.8°、B群15.3±7.7°、胸椎他動屈曲、A群13.3±7.4°、B群18.3±20.0°、胸椎他動伸展、A群18.8±14.9°、B群25.0±17.9°、胸腰椎他動屈曲、A群17.1±11.8°、B群18.7±16.7°、胸腰椎他動伸展、A群19.6±5.3°、B群19.7±5.8°であった。筋力測定では、体幹屈筋群、A群3.0±1.1N/kg、B群2.0±0.5N/kg、体幹伸筋群、A群3.6±1.9N/kg、B群3.0±0.7N/kgであった。各群間における測定結果の比較検討では、体幹屈筋群の筋力に有意差を認める結果となった。体幹可動域の屈曲と伸展、体幹伸筋群の筋力には有意差を認めなかった。<BR>【考察】結果より、PCFが160ℓ/min以下の例は160ℓ/min以上の例よりも体幹屈筋群の筋力が低下していることが明らかになった。今回の検討では、対象を脳血管疾患の既往を有する例としたことで、脳血管疾患による咳嗽力の低下を起因として体幹屈筋群の筋力低下をきたしたのではないかと推察される。この体幹屈筋群の筋力低下を生じる可能性は、咳嗽力の強さに由来すると考えられ、その境界はPCF160ℓ/minとなっているのかもしれない。一般的に呼吸機能に対する理学療法介入では、呼吸筋や体幹のリラクゼーション、胸郭の柔軟性向上、腹圧強化、骨盤腰椎の運動が重要と考えられるが、今回の研究結果からは、体幹屈筋群の筋力強化がより重要であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回の研究より、呼吸機能の1つの指標となる咳嗽力が著明に低下している高齢者で、なおかつ脳血管疾患や廃用症候群を呈した例に対する理学療法介入に示唆を与える意味で意義あるものと考える。今後は、更なる可能性の呈示、適応等についての示唆を得るため治療方法等の検討をしていきたいと考える。<BR>