著者
荻野 雅史 稲岡 忠勝 渡邊 彰 米田 光宏 佐々木 和人 浅野 賢 鈴木 英二
出版者
社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
埼玉理学療法 (ISSN:09199241)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.10-13, 1996 (Released:2003-07-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1

健常中高年女性63名を中年群,高年群の2群に分類し,骨密度に関連している因子の検討を体重,BMI,体脂肪率,体脂肪量,除脂肪量,握力について行った。その結果,各々の平均値では,骨密度,握力において高齢群で有意に低値を示した。骨密度との相関関係について,骨密度と体重,BMIとの関係では,両群ともに有意な相関が認められた。しかし,骨密度と体脂肪率とでは,両群ともに有意な相関は認められなかった。骨密度と体脂肪量との関係では,両群ともに有意な相関は認められたが,骨密度と除脂肪量とでは,中年群でのみ有意な相関が認められた。骨密度と握力との関係では,中年群でのみ有意な相関が認められた。骨密度は,体脂肪率といった体組成の割合による影響は認められず,体重,体脂肪量などその重さ(絶対値)が関係していた。また,筋力も重要な因子であることが確認できた。正しい体重管理,スポーツ,運動による筋力の向上などの外的因子を考慮した生活習慣の管理・指導が骨粗鬆症には重要であることが示唆された。
著者
荻野 雅史 岡田 章吾 内海 哲史
雑誌
インターネットと運用技術シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.32-39, 2021-11-18

インターネットアプリケーションの多様化に伴い,端末間通信は高スループット,低遅延がますます求められるようになってきた.一方,ネットワーク機器に搭載されるバッファメモリのサイズの増加と,ロスベース輻輳制御機構の利用に起因し,バッファリング遅延が増大する現象である Bufferbloat が問題視されている.バッファリング遅延を抑える輻輳制御機構として,BBR が Google 社より発表され,のちに,MIT コンピュータサイエンス・人工知能研究所により Copa が発表された.本稿では,TCP 輻輳制御機構としてもっともシェアが高い,ロスベース輻輳制御機構である CUBIC と,バッファリング遅延を抑える最新の輻輳制御機構である Copa との競合時,及び,バッファリング遅延を抑える輻輳制御機構同士である Copa と BBR の競合時における性能評価を行う.
著者
新岡 大和 成尾 豊 山口 大輔 若井 陽香 上野 貴大 荻野 雅史 鈴木 英二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101399-48101399, 2013

【はじめに、目的】ボツリヌス療法(botulinum toxin therapy;以下、BTX)は筋弛緩作用のあるボツリヌス毒素を痙縮筋へ直接注射することにより筋緊張の緩和を図る治療法である。脳卒中治療ガイドライン2009では痙縮に対する治療として推奨グレードAとされており、標的筋への直接投与による局限的効果とその手技の簡易さ、副作用の少なさから現在広く普及し始めている。しかしながら効果は可逆性で、個人差はあるものの薬剤効果は3ヶ月程度とされていることから、痙縮抑制効果の持続のためには反復投与が必要といった側面がある。木村らはBTXのみによる痙縮改善効果を報告しているが、一方でイギリスの内科医師ガイドラインではBTXはリハビリテーションプログラムの一部であるとされ、中馬はBTXと併せたリハビリテーションの重要性を指摘している。しかし、海外においてはBrinらがBTX後の適切なリハビリテーションの実施による薬剤効果の長期化を報告しているものの、国内では継続したリハビリテーションによる効果報告が少ない状況である。当院では維持期脳卒中患者へBTXを実施した後、薬剤効果の消失期限とされている3ヶ月間にかけて、理学療法を継続して併用介入しながら効果判定を行っている。今回、その効果判定結果より若干の知見が得られたので報告する。【方法】対象は2012年6月より2012年11月の間に、当院で脳卒中後の下肢痙縮に対してBTXを実施した43名のうち9名(男性7名、女性2名、平均年齢60.4±9.4歳)であった。対象者の下肢痙縮筋(腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋)にGlaxo Smithkline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって医師とともに判断した。投与後より3ヶ月間、週1~2回、各40分程度の理学療法を外来通院にて行った。理学療法プログラムは各種物理療法(電気刺激療法、温熱療法)、関節可動域練習、筋力強化、歩行練習などを実施した。また、対象者に対してBTX施行前、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は足関節底屈筋群の筋緊張検査としてModified Ashworth Scale(以下、MAS)、足関節背屈の関節可動域検査としてROM検査(以下、ROM)、歩行能力検査として10m歩行時間とした。統計学的手法にはSPSS for Windows10.0を用い、Friedman検定、wilcoxon検定を行い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】調査にあたって対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し、研究参加への同意を得た。【結果】対象者の疾患内訳は脳出血7名、脳梗塞2名であり、発症からBTXまでの経過年数は8.3±4.0年であった。MAS、ROMに関しては、施行前と比較して、1週間後に有意な改善を認め、以後1ヶ月後、3か月後では有意な差を認めなかった。歩行時間に関しては、施行前、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後の順に有意に改善が認められた。【考察】BTX施行1週間後では、施行前と比べて全ての評価結果の向上を認めた。BTXによる効果は1週間程度で最大となるといわれており、この改善は主にBTXによる効果と考えられた。その後、1ヵ月後、3ヶ月後の評価においては、筋緊張、関節可動域はBTX施行1週後の状態が維持されており、歩行能力に関してはこの間も経時的に改善を認めていた。これはBTXの後療法としての理学療法の併用と継続介入の有用性を示唆していると考える。理学療法介入効果について検討すると、筋緊張に関しては、姿勢や動作の改善、拮抗筋の活動性向上といった筋緊張亢進を抑制する因子に介入できたことが推察された。関節可動域に関しては、筋緊張が改善された状態を維持したことに加え、継続した介入により筋の柔軟性向上が促されたことが推察された。歩行能力に関しては、筋緊張と関節可動域が改善している状況下での動作練習により、運動学習が促され、ADL上の動作能力改善に繋がったことで3ヶ月間改善し続けたものと考えられた。これらの効果が維持期脳卒中患者において得られたことは有意義といえる。今回の研究では理学療法の継続介入が効果的であることは示唆できたが、理学療法の介入手段までは詳細に規定できていない。よって、今後はどのような理学療法の介入手段が有用なのか、また歩行動作がどのように変化するのか検証していくことが必要だと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は我が国ではまだ報告の少ない維持期脳卒中患者の下肢痙縮に対するBTXの後療法としての理学療法の併用、及びその継続介入の有用性を示唆できたことに意義があると考える。
著者
森田 直明 荻野 雅史 上野 貴大 戸塚 寛之 強瀬 敏正 高木 優一 須永 亮 佐々木 和人 鈴木 英二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1345-DbPI1345, 2011

【目的】高齢者の廃用症候群は多岐にわたり、筋力低下や可動域制限のみならず呼吸機能の低下も認め容易にADLの低下に繋がってしまう。呼吸機能の低下は、予てから体幹筋力、胸郭可動性等の体幹機能低下の関連性が示唆され、その重要性は周知の通りである。朝倉らによると、肺弾性収縮力の低下、呼気筋力、気道抵抗の増加、声門閉鎖不全及び中枢気道彎曲や偏位によって高齢者の咳嗽力が低下するとされている。よって、加齢による呼吸機能低下に加え、脳血管疾患等の疾病による身体機能低下が加わった高齢者においては、より呼吸機能の低下を生じ易い状況となる。このような例に対する理学療法介入をより効果的に行うために、特にどのような体幹機能に関連性が強いかを検討する必要がある。これについては過去にいくつかの報告を認めるが、依然として検討段階にある課題と考える。Kang SWらによると最大咳嗽力(Peak Cough Flow以下PCF)160ℓ/min以下では普段でも排痰困難や誤嚥を認め、それによる誤嚥性肺炎、急性呼吸不全、窒息の危険性を呈するといわれている。よって今回はPCF160ℓ/minを境界として、体幹可動域、筋力等の体幹機能の差について検討したので報告する。<BR>【方法】対象は、平成20年3月1日から平成21年2月28日までの期間で当院に入院しリハビリテーションを施行した70歳以上の脳血管疾患の既往を有する例のうち廃用症候群を呈した19例(男性7例、女性12例、平均年齢81.5±6.9歳)とした。対象に対し、胸椎、胸腰椎の屈曲、伸展可動域、体幹屈筋群と体幹伸筋群の筋力、PCFの測定を行った。測定は、それぞれ3回施行し、最大値を採用した。体幹の可動域は、Acumar Technology製、ACUMAR DIGITAL INCLINOMETERを使用し胸椎(Th3~Th12)の屈曲、伸展可動域、胸腰椎(Th12~S1)の屈曲、伸展可動域測定を自動運動、他動運動共に施行した。体幹筋力は、オージ-技研社製、MUSCULATORを使用し、椅子座位にて大腿部と骨盤帯を固定し、足底が浮いた状態での筋力測定を行った。PCFは、松吉医科機器株式会社製、Mini-WRIGHT Peak-flow Meterを用いて測定した。対象をPCFの結果から160ℓ/min以上をA群、160ℓ/min以下をB群に分類し、各群間での各体幹機能について比較検討をした。統計的検討にはSPSS for windows10を用い、Mann-WhitneyのU検定を行い、有意水準5%とした。<BR>【説明と同意】対象またはその家族に研究の趣旨を説明し、同意を得た上で検討を行った。<BR>【結果】各群の内分けは、A群10例(男性6例、女性4例、平均年齢82.8±7.9歳)、B群9例(男性1例、女性8例、平均年齢80.0±5.7歳)であった。各測定結果は、以下に示す。PCFでは、A群280.0±90.2ℓ/min、B群97.8±22.8ℓ/min、可動域測定では、胸椎自動屈曲、A群10.9±7.8°、B群18.2±21.0°、胸椎自動伸展、A群10.0±8.3°、B群17.3±21.2°、胸腰椎自動屈曲、A群11.7±8.5°、B群17.0±16.5°、胸腰椎自動伸展、A群12.8±8.8°、B群15.3±7.7°、胸椎他動屈曲、A群13.3±7.4°、B群18.3±20.0°、胸椎他動伸展、A群18.8±14.9°、B群25.0±17.9°、胸腰椎他動屈曲、A群17.1±11.8°、B群18.7±16.7°、胸腰椎他動伸展、A群19.6±5.3°、B群19.7±5.8°であった。筋力測定では、体幹屈筋群、A群3.0±1.1N/kg、B群2.0±0.5N/kg、体幹伸筋群、A群3.6±1.9N/kg、B群3.0±0.7N/kgであった。各群間における測定結果の比較検討では、体幹屈筋群の筋力に有意差を認める結果となった。体幹可動域の屈曲と伸展、体幹伸筋群の筋力には有意差を認めなかった。<BR>【考察】結果より、PCFが160ℓ/min以下の例は160ℓ/min以上の例よりも体幹屈筋群の筋力が低下していることが明らかになった。今回の検討では、対象を脳血管疾患の既往を有する例としたことで、脳血管疾患による咳嗽力の低下を起因として体幹屈筋群の筋力低下をきたしたのではないかと推察される。この体幹屈筋群の筋力低下を生じる可能性は、咳嗽力の強さに由来すると考えられ、その境界はPCF160ℓ/minとなっているのかもしれない。一般的に呼吸機能に対する理学療法介入では、呼吸筋や体幹のリラクゼーション、胸郭の柔軟性向上、腹圧強化、骨盤腰椎の運動が重要と考えられるが、今回の研究結果からは、体幹屈筋群の筋力強化がより重要であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回の研究より、呼吸機能の1つの指標となる咳嗽力が著明に低下している高齢者で、なおかつ脳血管疾患や廃用症候群を呈した例に対する理学療法介入に示唆を与える意味で意義あるものと考える。今後は、更なる可能性の呈示、適応等についての示唆を得るため治療方法等の検討をしていきたいと考える。<BR>
著者
上野 貴大 高橋 幸司 座間 拓弥 荻野 雅史 鈴木 英二(MD) 原 和彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100317, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】大腿骨近位部骨折患者における回復期に生じる疼痛に、筋痛が存在する。過去の報告において、筋痛は代償運動による筋の過負荷が原因とされており、その動作を繰り返すことで慢性痛への移行が危惧されている。しかし、いずれの報告も経験則として述べられるに留まっており、代償運動とその際の筋活動を運動力学的・筋電図学的側面から分析し、筋痛発生原因を示した報告はない。そこで、本研究では立ち上がり動作を運動力学的・筋電図学的に分析し、筋痛の原因となる代償運動とその際の筋活動を明らかにすることで筋痛発生原因を検討した。【方法】対象は当院へ入院された大腿骨近位部骨折患者の中から、除外対象を除いた19名であった。除外対象は認知機能低下を認めた例(MMSE<19pt)、過去に動作能力に大きな影響及ぼす程度の重篤な既往を有する例とした。対象に対し基本特性の調査として、性・年齢・診断名・術式を調査した。発症から2~3週の間に、対象の立ち上がり動作(下腿長の120%の高さに設定した椅子からの支持物を用いない立ち上がり)に対し、三次元動作計測及び筋電図計測を同期計測した。身体運動計測には三次元動作解析装置VICON MX(Oxfordmetrics社製)と床反力計(Kistler社製)を用いた。標点位置は左右の肩峰、股関節、膝関節、外果、第5中足骨の計10点とした。得られたデータは、解析ソフト(Vicon Body Builder)を用いて解析した。解析データは力学データの体重による正規化、時間軸100%正規化を実施した後、床反力鉛直成分、関節運動角度、関節運動モーメントを抽出した。筋電図計測は、筋電計WEB-5000(日本光電社製)を用い、被検筋は左右の大殿筋、外側広筋、大腿二頭筋の計6筋とした。筋電図波形の解析は、解析ソフト(scilab)を用いButterworth filter(10Hz-400Hz)で波形処理し、全波整流の後、筋活動積分値(IEMG)を抽出した。IEMGについて、正規化のために計測した体重の2%の重錘を用いた等尺性収縮時のIEMGで除し、%IEMGを算出した。筋痛の程度・部位の評価は、動作計測時に視覚的アナログスケール(VAS)を用い実施した。術部や骨折部以外に認め、筋の走行に沿った圧痛を伴う痛みを筋痛と規定し、筋痛の有無により筋痛あり群・筋痛なし群へ分類した。調査及び分析結果について、群間で比較検討を実施した。比較検討には、結果の尺度に応じてMann-WhitneyのU検定・χ²独立性の検定のいずれかを用い、有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、研究の主旨等について説明を行い、書面にて同意を得た。本研究は当院及び研究協力機関における倫理委員会の承認を得ている。【結果】筋痛あり群と筋痛なし群は、それぞれ11例(男性4例、女性7例、平均年齢75.1±15.2歳)、8例(男性1例、女性7例、平均年齢70.8±9.8歳)であった。筋痛あり群においては大腿四頭筋8例、ハムストリングス3例にVAS3.2の筋痛を有していた。診断名は、筋痛あり群で大腿骨転子部骨折6例、大腿骨頸部骨折5例、筋痛なし群で大腿骨転子部骨折6例、大腿骨頸部骨折2例であり、各群の特性には有意差を認めなかった。床反力鉛直成分(健側比)では、群間に有意差を認めなかった。関節運動範囲では、筋痛あり群の患側股関節運動範囲が有意に小さかった。関節運動モーメント積分値では、筋痛あり群の膝関節伸展運動モーメント積分値が有意に大きかった。患側股関節伸展運動モーメントを100%とした場合の患側膝関節伸展運動モーメントの割合は、筋痛あり群で有意に大きかった。筋痛あり群の筋活動量(健側比)は、筋痛あり群の外側広筋で有意に大きかった。【考察】荷重量の側面では、両群共に健側下肢で大きく健側下肢に依存した動作様式を取っていた。よって、健側での代償運動は筋痛発生に関与しないことが示唆された。関節運動範囲・関節運動モーメントにおける分析結果を解釈すると、筋痛あり群では、患側股関節運動範囲の低下により患側股関節伸展運動モーメントは低下し、代償的に患側膝関節伸展運動モーメントの増大を認めることが示された。これに筋電図分析結果を加味すると患側膝関節伸展運動モーメントを生成するため、患側膝関節伸展筋の活動増大を生じていることが考えられた。これは筋痛発生筋と一致し、患側股関節への負荷を膝関節が代償する代償運動が筋痛発生原因となっていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】大腿骨近位部骨折患者において慢性痛の原因となる筋痛について、その発生メカ二ズムを客観的データから示せたことは意義のあるものと考える。
著者
荻野 雅史 江連 和己 渡辺 彰 佐々木 和人 鈴木 英二
出版者
社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
埼玉理学療法 (ISSN:09199241)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.20-24, 1995 (Released:2003-08-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

三郷市健康フェアーに参加した一般県民74名(男性31名,女性43名)を対象に,ウエストヒップ比と肥満指標(Body Mass Index,体脂肪率,皮脂厚)及びWBIの関連性について調査検討した。その結果,ウエストヒップ比と肥満指標・WBIとの間には相関関係が認められた。このことから,ウエストヒップ比は,肥満の評価には有用であり,また,筋力低下による下肢痛などの障害発生の一指標になる可能性があると考えられた。
著者
新岡 大和 上野 貴大 戸塚 寛之 宮崎 哲也 山口 大輔 成尾 豊 荻野 雅史 鈴木 英二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bd1463-Bd1463, 2012

【はじめに、目的】 ボツリヌス療法(以下、BTX)は筋弛緩作用のあるボツリヌス毒素を痙縮した筋へ直接注射することで筋緊張の緩和を図るもので、世界70カ国以上で痙縮に対する治療として用いられている。本邦でも2010年よりA型ボツリヌス毒素製剤が脳卒中における上肢痙縮、下肢痙縮に対する効能、効果として厚生労働省より適応追加の承認を得ており、脳卒中治療ガイドライン2009においても痙縮に対する治療として推奨グレードAとされている。一方で、脳卒中の上肢痙縮、下肢痙縮改善の目的は単なる痙縮の改善だけではなく、痙縮の軽減による機能及び能力の改善にある。そのためにはBTXとリハビリテーションの併用の重要性がいわれており、先行研究においてもBTXと理学療法を併用した結果、歩行能力が有意に改善したという報告がある(Giovannelliら:2007)。当院ではBTXが上肢痙縮、下肢痙縮に対して承認されてから、痙縮が認められる維持期脳卒中患者に対してBTXを行い、理学療法介入を併用してきた。今回、症例を重ねる中でBTXの後療法としての理学療法の有用性を確認でき、若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は2011年3月より2011年9月の間に当院で脳卒中下肢痙縮に対してBTXを実施した12名(男性10名、女性2名、年齢64.2±10.0歳)である。対象者の下肢痙縮筋(股関節内転筋群、大腿二頭筋、下腿三頭筋、後脛骨筋など)にGlaxo Smithkline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって判断した。投与後より1ヶ月間、週2~6回、各60分程度の理学療法を行った。理学療法プログラムは、各種物理療法、関節可動域練習、筋力強化、歩行練習などが行われた。また、対象者に対してBTX施行前、1週間後、1ヵ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は、筋緊張検査として足関節背屈Modified Ashworth Scale(以下、MAS)、関節可動域検査として足関節背屈関節可動域(以下、ROM)、歩行検査として10m歩行検査、QOL検査としてSF-8をそれぞれ実施した。統計学的手法としてはSPSS for Windows10.0を用い、Friedman検定を行い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はさいたま記念病院倫理委員会にて承認を得て実施した。調査にあたっては、対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し、研究参加への同意を得た。【結果】 対象者の疾患内訳は、脳出血7名、脳梗塞3名、脳腫瘍2名であり、発症年齢は57.2±8.2歳で、発症からBTX施行時までの経過年数は7.0±3.8年であった。MASに関しては施行前より1週間後、1ヵ月後の順で有意に数値が減少した。ROMに関しては施行前より1週間後、1ヵ月後に有意に数値が増大した。10m歩行検査においては歩行時間が施行前より1週間後、1ヵ月後の順に有意に数値が減少した。歩数は施行前より1週間後、1ヵ月後に有意に数値が減少した。SF-8に関しては施行前より1週間後、1ヵ月後に有意に数値が減少した。【考察】 BTX施行より一週間後において、ほぼ全てのケースで筋緊張、関節可動域、歩行能力が改善されていた。また、BTX施行より1ヶ月後においても更なる改善を認め、先行研究の内容を裏づける結果となった。運動機能が固定されるケースが多い維持期脳卒中患者に対して、このような結果が得られたことは有意義といえる。今回、BTXを施行した多くの対象者は痙縮の改善後も以前の運動パターンが残存していた。筋緊張、関節可動域など改善された機能に見合った動作へ導くためには、正しい運動学習が必要となる。つまり、BTX後の治療の有無が重要ということになる。効果が1ヶ月ではあるが、持続ばかりか向上していた今回の結果は理学療法介入の必要性を示唆するものと考える。しかし、今回の研究は理学療法介入群のみのものなので、今後この点を課題として理学療法介入の有無によるRandomized Controlled Trialでの効果検証が必要だと考える。現在、諸外国ではBTXの後療法としてどのような理学療法介入が効果的か検討されている。今後は当院においても症例を重ねる中で、先行研究をもとに、より効果的な介入方法を検討し、その可能性を提示していくことが重要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究は我が国ではまだ報告の少ない維持期脳卒中患者の下肢痙縮に対するBTXの後療法として、理学療法の有用性を示唆できたことに意義があると考える。
著者
上野 貴大 荻野 雅史 高橋 幸司 強瀬 敏正 森田 直明 戸塚 寛之 高木 優一 嶋 悠也 佐々木 和人 鈴木 英二 原 和彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI1306-CbPI1306, 2011

【目的】運動器疾患の早期退院を目指した術後歩行練習介入の主な目標は、円滑な歩行獲得を目指した歩容改善と、適切な荷重制御歩行の獲得である。そこで、歩容改善を意識した歩行練習をより円滑に施行するための治療用Ankle Foot Orthosis(以下AFO)を用いた歩行練習を考案した。治療用AFOの有用性は、主に脳卒中に対する理学療法介入検証で報告されている。近年の機能的AFOは、装具が生み出す足関節底背屈の制御モーメントが歩行時の足関節機能を代償するように考案されており、装具を用いた正しい姿勢、関節アライメント下での歩行練習により、正しい筋活動を促す効果が期待される。しかし、運動器疾患の歩容改善に対して、これら治療用AFOによる効果の有用性を示す報告は少ない。当院にて、歩行不安定要素を有する股関節機能障害を呈した術後患者に対して、試行的にAFOを用いた歩行練習を行ったところ、膝への関連痛軽減や歩容改善につながった臨床適応例を数例認めた。そこで本研究はAFO装着が歩行機能に及ぼす影響や治療用装具としての適応の可能性について検証を行ったので報告する。<BR>【方法】対象は、運動器疾患により当院に入院し、股関節及び膝関節内固定術、人工骨頭及び人工膝関節置換術を施行された例の中で、平成22年8月14日から平成22年10月30日までに、監視下で6分間の連続歩行が可能となった10例(男性2例、女性8例、平均年齢76.4±14.5歳)とした。対象に対し、装具なし、ありでの歩行について、それぞれ10メートル歩行、6分間歩行距離の測定を行った。装具は、パシフィックサプライ株式会社製GAITSOLUTION Designを使用し、油圧ダンパーの強さ設定を一律1.5とした。10メートル歩行は直線歩行路を用い3回施行し、歩数、歩行時間を測定した。6分間歩行距離は円形歩行路を用い1回測定した。測定は、装具なしでの歩行、装具ありでの歩行の順に行い装具使用下での歩行による運動学習効果の回避に努めた。また、各測定の間にはバイタルチェックを行いながら十分な休息時間を取った。得られたそれぞれの測定結果について、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い、比較検討を行った。その際、10メートル歩行については3回中1番良い結果を採用した。加えて装具を用いた歩行の前後で感想を聴取した。各測定結果の統計的検討にはSPSS for windows10.0Jを用い、有意水準5%とした。<BR>【説明と同意】対象またはその家族に対し研究の趣旨を説明し、同意を得た上で検討を行った。<BR>【結果】対象の疾患内訳は、大腿骨頚部骨折3例、大腿骨転子部骨折2例、大腿骨基部骨折2例、脛骨高原骨折2例、慢性関節リウマチ1例であった。手術方式の内訳は、股関節内固定術6例、人工骨頭置換術1例、膝関節内固定術2例、人工膝関節置換術1例であった。測定結果について、中央値と四分位数偏差を用い以下に示す。10メートル歩行結果は、装具なしでは歩数19.5±4.1歩、歩行時間13.8±5.6秒、装具ありでは歩数17.5±4.4歩、歩行時間11.7±5.4秒であった。6分間歩行距離は、装具なしでは214.0±68.0m、装具ありでは247.5±73.8mであった。それぞれの測定結果の比較検討については全てにおいて有意差を認め、装具使用により各測定値の向上を認める結果となった。装具使用前後の感想については、使用前は抵抗感や疑問を訴える例が多かったが、使用後は楽に歩けた、痛みが消えた、足がしっかりした、速く歩けた等の前向きな感想が多かった。<BR>【考察】今回の測定結果では、疾患、手術部位、発症から測定までの時期が異なる中、ほぼ全例でAFO装着下での10メートル歩行速度、6分間歩行距離が、AFOなしでの歩行に比べて大きく、有意差を認めた。結果から、歩行に装具を用いたことで、踵接地後の衝撃吸収と適度な足部踏み返しを代償するAFOの油圧制御機能が歩容改善を促し、より歩幅が大きく、術側下肢から健側下肢へのスムーズな体重移動のある歩行が可能となったと考察された。装具使用後の感想からも、歩容改善について実感を得られたと思われる例が多く、装具装着に対する患者満足度が高いことから、装具適応の可能性を示していた。<BR>【理学療法学研究としての意義】過去に報告のない運動器疾患術後患者に対する治療用AFOを用いた歩行練習の可能性について示唆を得たことは、今後の運動器疾患分野での理学療法において意義があると考える。今後は、更なる可能性の提示、適応等についての示唆を得るため症例数を増やし検討していくべきと考える。<BR>