- 著者
-
高木 正稔
- 出版者
- 順天堂医学会
- 雑誌
- 順天堂医学 (ISSN:00226769)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.2, pp.167-179, 1998-09-28 (Released:2014-11-18)
- 参考文献数
- 37
目的: 毛細血管拡張性運動失調症Ataxia Telangiectasia (AT) は神経変性・免疫不全を主徴とする遺伝性疾患である. また高率に白血病・悪性リンパ腫など悪性腫瘍を合併することが知られている. ATにおける高発癌性の分子生物学的機構を明らかにするため, DNA損傷による細胞周期調節機構・アポトーシス誘導機構について検討を行った.
対象: 正常人, ATM (ATmutatedgene) 遺伝子にホモの変異をもつ患者 (2例), およびヘテロの変異をもつ保因者 (2例) よりEpstein-Barrウイルス (EBV) を用いて細胞株を樹立し, 比較検討を行った.
方法: 放射線照射・H202・C2-ceramideによるアポトーシス誘導能をPropidium iodide (PI) 染色によるsubdiploid集団を指標としてflow cytometryにより評価した. 細胞周期調節機構はflow cytometryを用い, PI染色によるDNA核量から評価した. アポトーシスおよび細胞周期関連蛋白をウエスタンブロット法を用い, Stress activated proteinkinase/jun kinase (SAPK/JNK) 活性をin vitro kinase assayを用いて検討した. 放射線感受性をclonogenicassayにより検討し, アポトーシス誘導能と比較した.
成績: AT細胞株は放射線照射によるp53の蓄積およびそれに伴うp21Cip1/WAF1転写の活性化が障害されていた. これらの障害はG1/S期での細胞周期調節機構の障害を伴っていた. またmitotic/spindle (M/S) チェックポイントも障害されていた. AT細胞株は放射線高感受性を示すにも関わらず, 急性のアポトーシスに対しては抵抗性であった.
結論: AT細胞株は放射線による急性のアポトーシスに耐性である一方でclonogenic cell survival活性が低い特徴を有していることが明らかになった. またG1/SおよびM/Sチェックポイントが障害されていた. 今後ATの患者において変異しているATM蛋白の働きを明らかにするため, これらの細胞生物学的特徴の分子生物学/生化学的な基盤に関する検討が必要と考えられた.