著者
上田 哲男 中垣 俊之 中垣 俊之 高木 清二 西浦 廉政 小林 亮 上田 哲男 高橋 健吾
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

巨大なアメーバ様細胞である真正粘菌変形体の特徴を活用し、細胞に秘められたる計算の能力を引き出す実験を行うと共に、その計算アルゴリズムを細胞内非線形化学ダイナミクスに基づいた数理モデルを構築し、解析・シミュレーションした。(1)粘菌による最短経路探索問題(スタイナー問題、迷路問題)の解法:粘菌を迷路内に一面に這わせ、2点(出入り口)に餌を置く。粘菌は餌に集まりながら迷路内に管を形成するが、迷路内の最短コースを管でつなぐ(迷路問題を解いた)。粘菌を限られた領域内で一様に広がらせて、何箇所かに餌を置き、領域内部での管パターンの形成を見る。2点の場合、最短コースで結ぶ管が、3点の場合、中央で分岐したパターンが、4点の場合、2箇所で3つに分岐するパターンというスタイナーのミニマム・ツリーが形成された。(2)粘菌における最適ネットワーク(最短性、断線補償性、連絡効率)設計問題:粘菌の一部を忌避刺激である光で照射し管形成をみた。粘菌は危険領域を短くし、丁度光が屈折(フェルマーの定理)するように、管を作った。このように管パターン形成には環境情報をも組み入れられている。複数個に餌を置くと、最短性のみならず、一箇所で断線しても全体としてつながって一体性を維持する(断線補償性)という複数の要請下で管形成をすることがわかった。(3)管構造の数学的表現と粘菌の移動の数学的表現:振動する化学反応を振動子とし、これらが結合して集団運動する数理モデルを構築した。全体の原形質が保存されるという条件、粘菌の粘弾性が場所により異なるという条件を入れることで、粘菌の現実に合うような運動を再現することができた。(4)アルゴリズム:管は、流れが激しいとよりよく形成され、逆に流れが弱いと管は小さくなっていく。この管形成の順応性を要素ダイナミクスとして取り入れ、グローバルな管ネットワーク形成の数理モデルを構築した。迷路問題、スタイナー問題、フェルマー問題等実験結果のダイナミクスまでもシミュレートできた。