著者
西澤 晃彦 高橋 勇悦
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.40, pp.85-98, 1990-09

本稿では,1990年において墨田区住民を対象として実施されたアンケート調査の結果の分析を通じて,各住宅階層間の地域問題の認識過程の比較検討を行い,地域社会の構造とその変動を明らかにすることを目指す。墨田区社会の構成を概観するならば, 70年以降の新住民の侵入によって二重構造化が進展していると把握することができる。そしてこの二重構造は,住居形態によってセグリケートされ各々のライフスタイルを保持しながら,強化されていると見ることができる。それゆえに,本稿では,住宅階層論を援用して,各住宅階層が,出来事を認知しネガテイブな問題として評価する過程を比較していく。その際,一戸建て住宅や長屋居住者にはいわゆるインナーシティ問題群がより地域の問題として認識され,新住民を中心とするマンションやアパート居住者には,そうした問題は見過ごされる傾向にあることが仮説とされた。分析の結果は,概ね仮説が支持されるものであった。この結果が指し示すのは,インナーシティ問題が,特定の住宅階層の階層的な問題となりつつある傾向である。墨田区におけるインナーシティ問題の重みの低下は,恐らくは新住民の更なる侵入によって,強められていくと考えられる。その一方で,新たな問題群が生成し,行政課題となっていくであろう。しかしながら,このことがインナーシティ問題の消滅を意味している訳では勿論なく,それは地域社会とそこでの問題群の一層の多様化を示すものなのである。