著者
高橋 智聡 シャムマ アワド
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

Rbヘテロ型マウスは、甲状腺C細胞において、正常アレルの欠損により、腺腫を生じる。このマウスでN-ras遺伝子を追加欠損すると、Rb欠損C細胞腺腫が悪性転換する。RbN-ras二重ヘテロ型マウスに生じたC細胞腫では、Rb正常アレル欠損に続いて、N-ras遺伝子座のLOHと悪性化が観察される。N-ras野生型Rb欠損C細胞腺腫を詳細に解析したところ、多種のDNA損傷応答因子と、セネセンスマーカーの発現を観察した。N-rasホモ型マウスから生じた腫瘍において、これらはことごとく、発現消失した。RbN-ras両欠損C細胞株に野生型N-rasを導入すると、DNA損傷、セネセンスが誘導され、ヌードマウス皮下移植腫瘍は良性組織型を示した。この細胞では、導入野生型N-Rasが等分子数活性化型(V12)の約5分の1程度活性化され、p130がヒストンメチル転移酵素と結合していた。V12導入細胞では、セネセンスは誘導されず、このような結合も見いださなかった。次に、Rb欠損時のN-Ras活性の亢進の機構を調べるために、RbN-ras両欠損マウス由来C細胞株にRbを急速導入、細胞周期変化が誘導される前にmRNAを回収、マイクロアレイ解析を行った。その結果、Rasの活性調節に直接に関わるあるファミリーがRbによる発現抑制を受けることが判明した。これらのプロモーター領域に、E2F結合配列とともに、E2Fの影響を受ける転写因子の結合配列を多数見いだし、ChIP解析、ルシフェラーゼ解析により、これらが、発見した遺伝子群の転写制御に必須であることを確認した。さらに、Rbヘテロ欠損と同時に、p16Ink4a,p19ARF,ATM,Suv39h1のいずれかをホモ型欠損する二重ノックアウトマウスコホート群を作製し、腫瘍表現型を解析した。以上により、我々は、Rb失活細胞の癌化を阻止する重要な生体防御機構を見つけた。
著者
シヤムマ アワド 高橋 智聡
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

がん抑制遺伝子RBは多くのクロマチン修飾因子と結合し、その機能を制御する。このようなRBによるエピジェネティック制御機能を解明するために、我々はRB欠損モデルマウスとヒト原発がん組織を使い、RBとATMの相互作用がDNAメチル化酵素DNMT1の安定性を制御すること、また、DNAマイクロアレイ解析から数百のがん関連遺伝子のDNAメチル化状態が、RB-ATM-DNMT1の相互作用により調節されていることを発見した。