著者
高野 良一
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.65-89, 2014-05-31 (Released:2015-06-03)
参考文献数
37
被引用文献数
2

日本でも学際的に社会関係資本の研究が進み,研究は中間総括期に入っている。本稿もささやかな知的企てを通して,この中間総括の一端を担いたい。その企てとは,社会関係資本の理論的な原型といえる言説を取り上げて,その理論装置を分解し組み立て直すことだ。パットナム,ブルデュー,コールマンの言説を理論的原型と見なすことに,異議は出ないだろう。だが,彼らの理論装置を比較し,その交錯(共通点と対立点)を整理する知的作業は皆無に近い。小論では,資本の性格付け(捉え方・扱い方),社会関係資本の位置付け(外延),構成要素(内包)の諸点からその装置を解析し,彼らの理論的特質の抽出を図った。その結果,コールマンを物象的親ネットワーク論と,ブルデューをハビトゥス「再生産」ゲーム論,パットナムを参加・互酬・信頼「三位一体」論であると総括した。加えて,ヒューリスティックな言説分析の中から,エートス,ハビトゥスや心の習慣という一群の理論的・思想的カテゴリーを再発見した。エートスの社会存在論は,教育目的,教育実践や教育改革の根幹である主体像を問い直し再構築を迫る。ハビトゥスは教育分野でも旧知に属するイシューであるが,エートス論と交差させれば脱構築への道も開ける。社会関係資本とエートスは,教育の社会理論を進化させる「可能性の中心」となる光源に他ならない。