著者
髙橋 義雄
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.25-35, 2022 (Released:2023-04-26)
参考文献数
23

技術革新の兆候を感じた編集委員会が、『スポーツ社会学研究』第23巻の特集論文で、超人スポーツ委員会についてすでに触れている。それから7年の間に、超人スポーツ協会は法人化し、様々な活動を実施してきた。現在ではヒューマンオーグメンテーション(Human-Augmentation)と呼ばれる技術が急速に発展し、「人機一体」と称されている。脳神経科学や医学などの学際的な知見によるこれらの技術は、工学が社会実装化を試みている。2013年に2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致に成功し、アニメやロボットなどの日本が得意とする分野の科学技術の発展のための関係者間のプラットフォームが構築された。一方で、人間拡張技術によって、人間の「身体所有感(Sense of self-Ownership)」と「運動主体感(Sense of self-Agency)」の研究が進んだ。その結果、近代スポーツ科学が当然のこととして扱ってきた物理的な肉体としての身体の再検討が必要になった。つまり、人機一体化したアバターという機械は、「私」の範囲なのか、それとも「機械」の範囲なのかという認識の揺らぎを生じさせた。さらに、不測の事故が発生した際の責任は人間にあるのか、それとも機械側にあるといったルールの整備、個人の権利や情報保護、科学技術における経済安全保障の議論に照らした身体活動や個人の生理的情報のビックデータの管理が必要になっている。また、人間と機械の変化と適応のなかで、人間を機械依存の最適化方向へ適応させ、自らの心身自体を縮小しスポーツ競技者単体の能力を低下させてしまう危険性も指摘されている。不自由な設定をしてそれを楽しむスポーツの特徴は、人間拡張技術をスポーツに導入しやすくする。そのため、人間拡張技術による「人間像」の議論は、スポーツを通じてこそ可能になるとも考えられる。