著者
増野 雄一 三好 麻希 前田 明信 福本 和生 髙石 義浩
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.627-634, 2015 (Released:2015-11-27)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

慢性維持透析患者の高齢化, 透析期間の長期化が進んでおり, 透析患者の健康状態の維持・向上させるための一つの手段として運動療法の重要性が高まっている. 一般的な血液透析の場合, 透析日は時間的制約や透析後の疲労感により身体活動量が低下するため, 透析施行中の運動療法の必要性は高い. 透析施行中の自転車エルゴメーターやゴムチューブなど運動器具を用いた運動療法により透析患者の運動機能やquality of life (QOL) が向上すると報告されている. 本研究では当院外来血液透析患者23名を対象とし, 運動器具を用いない簡便な方法で下肢の筋力強化運動をセルフトレーニングにて12週間実施し, 移動能力・QOLの効果を検討した. 歩行・立ち上がり能力, 膝伸展筋力の向上など移動能力が改善し, 日常役割機能の向上やQOLの改善を認めた. われわれが施行した運動療法においても移動能力やQOLの向上が示唆された.
著者
増野 雄一 三好 麻希 田頭 勝之 髙石 義浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100251, 2013

【はじめに、目的】 加賀谷は、「足部アーチ機能の働きをする長腓骨筋(以下PL)は、母趾内転筋(以下AH)斜頭の深層を通るため、AH斜頭の伸展性低下はPLの滑動性を低下させる」と述べているが、AH伸張の効果に関する報告は少ない。我々は、第47回日本理学療法学術大会においてAH伸張が変形性膝関節症を有する患者(以下膝OA群)の転倒予防に効果的であることを報告した。今回の研究の目的は、健常成人を対象としたAH伸張の即時効果を検証するとともに、膝OA群を対象としたAH伸張の即時効果と比較検討することにある。【方法】 対象は、下肢に機能障害を認めない健常成人23名(男性10名、女性13名、平均年齢30.7±4.9歳)の利き足(以下、健常群)とし、AHの伸張を行った。AH伸張は膝OA群と同様に、加賀谷が提唱する「両手で第1趾および第5趾の中足骨から趾節部を把持し、上下に揺する感じで開排伸張する」方法を2分間行った。また、膝OA群は、第47回日本理学療法学術大会で報告した32名(男性6名、女性26名、平均年齢78.2±4.6歳)とした。 評価項目は、運動能力テストとしてSide Hop Test(以下SHT)・片脚幅跳び、バランス能力テストとして重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-10による総軌跡長・外周面積・矩形面積)・Functional Reach Test(以下FRT)、足部の評価として足アーチ高率・足趾の開排自動運動時の足趾末梢部横幅(以下、末梢幅)・MP関節部横幅(以下、MP幅)をノギスにて測定し、AH伸張前後を比較分析した。また、健常群と膝OA群における同一評価項目であるFRT、末梢幅、MP幅については、AH伸張後の値をAH伸張前の値で除して100を積した変化率とし、両群間を比較分析した。 統計処理は、統計解析ソフトSPSS PASW Statictics17を使用した。健常群の分析については、対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付順位和検定を用い、両群の比較については二元配置分散分析を用いた。また、分析に用いた測定値の検者内信頼性については、級内相関係数ICC(1,1)により検討し、危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、本研究の趣旨を十分に説明した後、署名にて同意を得た。【結果】 今回、分析に用いた測定値の検者内信頼性は、ICCが0.81~0.97と良好な再現性を示した。健常群においてAH伸張後に有意差(p<0.05)を認めた項目は、SHT(介入前:8.7±1.4秒→介入後:8.2±1.4秒)、総軌跡長(43.1±9.7cm→37.0±8.8cm)、FRT(37.9±5.0cm→39.6±4.1cm)、末梢幅(95.3±12.6mm→97.9±12.4mm)、MP幅(86.5±7.1mm→87.6±7.8mm)であった。また、二元配置分散分析により両群を比較した結果、末梢幅およびMP幅は、両群ともAH伸張により有意な増大(p<0.05)を示したが、交互作用は認めなかった。FRTは、両群ともAHの伸張により有意な増大(p<0.05)を示した。また、両群におけるAH伸張後のFRTを比較した結果、膝OA群は健常群に比べ有意に高値(p<0.05)を示し、さらに交互作用を認めた(F値=7.47 p<0.05)。【考察】 本研究では健常群に対しAH伸張を行った結果、SHT、総軌跡長、FRT、末梢幅、MP幅に改善を認めた。吉田らは、「SHTにおいて、表面筋電計を用いてPLを計測した結果70-120%MVCの高い筋活動を示し、外側方向の接地期で最大となる筋活動パターンが得られた。」と報告しており、今回、SHT において改善を認めたのは、AH伸張によりPLが賦活した可能性が考えられる。また、総軌跡長、FRTの改善においてもPLの賦活化により、足関節の外反、底屈の運動調節機能が向上し、バランス能力が改善したものと推察される。両群の末梢幅、MP幅の増大に関しては、AH伸張によりAHの柔軟性が増加したものと考える。 両群の比較分析の結果、AH伸張後のFRTにおいて膝OA群は健常群に比べ有意に高値を示した。膝OA群の足部機能は健常群より低下していることが考えられ、機能低下した足部に対するAH伸張の効果がより顕著に認められたものと推察される。さらに健常群では、AH伸張によりFRTおよびSHTの改善がみとめられたことから、運動開始前にAH伸張を行うことにより即時的なパフォーマンス向上に繋がる可能性が示唆された。 今後は、他の運動器疾患に対するAH伸張の即時効果・長期効果についても検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】 今回、健常群に対してAH伸張を行ったことにより運動機能、バランス能力等に即時効果があることが示唆された。また、膝OA群および健常群の年齢は22~86歳であり、AH伸張は幅広い年代に効果的であることが示唆された。