著者
髙羽 里佳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.979, 2022 (Released:2022-10-01)
参考文献数
5

最近の報告から,マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分であるシロシビンを治療抵抗性うつ病患者に投与したところ,2回の投与で,投与1週間後に患者の抑うつ症状が減少し,この作用は6か月間持続したことから,シロシビンが即効かつ持続的な抗うつ作用を有することが明らかとなった.その結果は,その後の臨床研究からも支持され,アメリカ食品医薬品局は,シロシビンがうつ病の画期的治療薬に成り得ると報告した.シロシビンをはじめとしたセロトニン作動性の幻覚薬が,うつ病のみならずアルコール依存症,不安障害,心的外傷後ストレス障害などに治療効果を示すとして,徐々に注目されはじめている.しかしながら,これらの薬物は,大脳皮質のセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2AR)を刺激することにより,幻覚作用も誘発してしまうことがわかっている ため,治療薬としての応用には課題がある.本稿では,Gタンパク質共役型受容体の結晶構造を活用したリガンド探索により,マウスにおいて幻覚作用を示さずに,抗うつ様作用を示すリガンドの合成に成功したことを報告したCaoらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Carhart-Harris R. L. et al., Lancet Psychiatry, 3, 619-627(2016).2) U. S. FOOD & DRUG. Breakthrough therapy, 2019年1月4日.3) Michaiel A. M. et al., Cell Rep., 26, 3475-3483(2019).4) Cao D. et al., Science, 375, 403-411(2022).5) Thomas E. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 94, 14115-14119(1997).