著者
石田 修一
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.139-166, 2020 (Released:2020-04-01)

「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が平成30年12月に文化庁から示された。このガイドラインが示されたことによって,現場の指導者たちから「これでは今までの演奏レベルを維持することができない」と心配する声が聞こえてきた。 管打楽器は楽器を持ったその日からメロディーを演奏することや,友人と合奏の喜びを味わうことはできない。楽音が出るまで地道な努力が必要である。そのためにはある程度の時間が必要である。その時間が「ガイドライン」によって短縮され,「演奏のレベルダウンはしかたがない」とあきらめてしまう指導者が増えてきた。 本報告・資料は「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」に基づいて、限られた時間を有効に使い,今までより短時間で子どもたちが演奏技術を習得し,成長する新しい指導法について小学校,中学校,高等学校各吹奏楽部で試行した結果をまとめたものである。
著者
田口 祐子
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.87-98, 2019 (Released:2019-04-08)

戦後の高度経済成長期を境に、人生の節目に行なわれてきた多くの儀礼が、それまでの儀礼の担い手であった地域共同体の手を離れ、「家」の外で行なわれるようになった。外部のサービスを利用して、儀礼が執り行われるようになったのである。サービスの利用は、儀礼を実施する際の一部にとどまらず、儀礼のすべてにかかわる利用の場合もみられる。このような状況は、現代の代表的な子どもの儀礼である七五三においても同様であり、現在貸衣装とヘアメイク、写真撮影といった子どもの七五三を祝うために必要な多くのことを、総合的に提供する「こども写真館」がもてはやされ、高い利用率を誇っている。しかし、このこども写真館登場前に七五三を全国に浸透させる役割をスーパーが担っていたことは、あまり知られていない。 本稿では、これまで整理されてこなかった七五三における戦後の儀礼産業の動向を、主にサービス関係者やその利用者への調査結果から明らかにしていく。そのことを通じて、七五三の実態や意義について検討し、現代における人生儀礼のあり様を研究する上での一つの切り口を提示したいと考えている。
著者
鳥越 淳一
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.111-120, 2020 (Released:2020-04-01)

本論は拒絶感受性(RS; rejection sensitivity)に関する,近年の海外の研究動向をレビューし,今後日本における RS の研究展望について明確にすることを目的としている。RS は拒絶の手がかりに対して,不安気に予測し,すぐに知覚し,強烈に(否定的に)反応する傾向と定義され,この20 年間,海外では様々な視点から研究がなされてきた。しかし,心理学的研究のデータベースで確認する限り,日本ではさほど多くの研究はなされていない。アメリカを中心とする海外では,近年,神経画像研究の進歩も相まって,RS は特定の精神疾患や精神障害の中核特性として研究され,高RSを有する人と低RS を有する人では脳の機能の仕方が異なっていることが分かってきている。そのような違いは,精神病理間の質的な違い,ひいては,効果的な治療計画,治療過程(治療的介入),治療結果(予後)を検討する重要な指標となると考えられる。たとえば,非定型うつ病の一種である,いわゆる“新型うつ”と呼ばれる難治性のうつ病にはパーソナリティ障害が関与していると考えられており,うつ病およびその亜型とも目される境界性パーソナリティ障害を通して確認できる RS を治療ターゲットとすることで,新たな理解が生まれるかもしれない。また,RS の変容プロセスは,治療プロセスにとっても示唆深く,技法や理論にも新しい視点が導入されることが期待される。このように,精神病理のリスク因子,治療評価,予後の予測因子として幅広く検討が可能な RS が,今後,日本においても有用な臨床概念の指標として研究され,活用されていくことが期待される。
著者
遠藤 真司
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.125-132, 2018 (Released:2018-03-01)

小学生用の国語の教科書には、説明的な文章と文学的な文章の2つの文種がある。説明文を読む時、私たちは記述をもとに筆者の考えを理解する。一方、文学的な文章を読む時には、想像力を駆使する。教員志願者にも現職教員にも、この2つの読み方の違いを教えていく必要がある。
著者
菅原 祥
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.5-17, 2016-03-01 (Released:2017-11-20)

20世紀後半のポーランドを代表する作家スタニスワフ・レムは、自身の作品の中で一貫して人間の認知の問題、とりわけ理解不能な「他者」を前にしたコンタクトの可能性について考察してきた作家である。こうしたレムの問題関心は、現代の多くの社会学的問題、例えば認知症患者のケアの現場などにおける介護者-被介護者の相互理解の問題などを考える際に多くの示唆を与えてくれるものである。本稿はこうした観点から、スタニスワフ・レムの短編『テルミヌス』を取り上げ、理解不可能な存在を「受容する」ということの可能性について考える。『テルミヌス』において特徴的なのは、そこに登場するロボットがまるで老衰した、認知症を患った老人であるかのように描かれているということであり、主人公であるピルクスは、そうしたロボットの「ままならない」身体に対して何らかの応答を余儀なくされる。本稿は、こうしたレム作品における不自由な他者の身体を前にした人間の責任-応答可能性について考えることで、介護に内在する希望と困難を指摘する。
著者
得丸 智子
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.37-56, 2019 (Released:2019-04-15)

近年、教育機関に依らず独力で日本語を学ぶ独習者が増えている。本研究では、独習者の学習法と学習観を探ることを目的とし、ある韓国人日本語学習者にインタビューをおこない、質的研究法TAE(Thinking At the Edge)で分析した。 彼は、中学時代の3年間に、インターネットで日本語アニメを視聴することを通じ日本語を学んだ独習者である。アニメをみながら韓国語で音を拾い辞書を引き日本語の意味を調べるという方法で日本語を学んだ。この経験から、外国語学習は多く聞くことが大切だとの学習観を持っている。大学生になり日本留学を果たしてからは、周囲で話されている日本語の音を拾い辞書を引く学習法を実践している。辞書が引けない状況の場合は、自宅に帰ってすぐに調べることが習慣となっている。彼は、日本語学習は何かのためにおこなうものではないという学習観をもっていた。本研究により、従来の教室での学習とは異な流学習法、学習観が浮き彫りになった。
著者
北村 克郎
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.123-162, 2017 (Released:2017-11-20)
参考文献数
20

国際バカロレアの四つの教育プログラムはアクティブ・ラーニングを基にしている。その中でも、初等教育プログラムには最もよくアクティブ・ラーニングの性格が表れている。 初等教育プログラムと他のアクティブ・ラーニングとの一番大きな違いは、教科の枠を超えたテーマについての探究と、概念的な学びである。特に概念的な思考と学びをアクティブ・ラーニングに活用するための可能性を探究することは、アクティブ・ラーニングを発展させることに大きく貢献すると考える。 ところで、初等教育プログラムの概念的な学びに用いられる八つの概念は、対象の本質の把握に向かって深化していく認識の、どの段階に相当するかが明らかではない。八つの概念は単に羅列されているに過ぎない。そこで、私はヘーゲルの論理学の推理論に依拠しつつ、各概念の妥当性と限界性を明らかにしようと考える。そして、各概念を用いて、「教科の枠を超えたテーマ」のセントラル・イデアに向かってどのような概念的思考が可能かを具体的に考察するつもりである。 翻って、各概念的認識には、どのような要件が必要かも併せて明らかになるはずである。
著者
清水 聡
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.5-16, 2021 (Released:2021-03-15)

本稿では、1968 年のチェコスロヴァキアにおける政治危機の原因について、「ソ連・東欧圏」の経済改革と 1960 年代のドイツ政治外交に焦点を当てて分析した。 1968 年の危機は、約 10 年間におよぶ「ソ連・東欧圏」における経済改革の結果であった。経済改革は度重なる抵抗を受けた。経済相互援助会議(コメコン)の機構改革においては国益をめぐる論争が激化し、国内経済改革の過程においても保守派による抵抗が繰り返された。 この結果、チェコスロヴァキアでは政治改革の気運が高まり、「プラハの春」が開始された。しかし、チェコスロヴァキアへの接近を模索する西ドイツが「プラハの春」の展開に影響を与え、民主化運動は急進化した。当初、チェコスロヴァキアにおける経済改革に理解を示した東ドイツのウルブリヒトは、チェコスロヴァキアと西ドイツとが接近するシナリオを警戒し、軍事介入を支持する決断へと至った。ワルシャワ条約機構軍による軍事介入により「プラハの春」は終焉し、それとともに、「ソ連・東欧圏」では「統制」に基づく体制が強化された。こうして、「プラハの春」に対する軍事介入は、冷戦史における転換点の 1 つとなった。
著者
得丸 智子 清水 順子 吉田 美登利 渡邉 泰久
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.35-49, 2021 (Released:2021-03-15)

本研究では、教師が連携し大学の授業を通じて学生を参加させるインターネット上の作文掲示板「さくぶん.org」(さくぶんおーあーるじー)において、担当教師が授業の中で「さくぶん.org」をどのように活用したかを探った。その結果、「さくぶん.org」には、「心理的交流を実感する場」としての側面の他に、「生の言語資料を展示する場」の側面があることが明確になった。第二の側面はインターネット利用により可能となったものである。授業では主に、この側面が、アカデミック日本語の能力獲得、日本語日本文化に関する知識の獲得等の科目の目的達成のために活用されていた。活用法には、(1)言語文化的側面に着目するもの、(2)文章の書き方に着目するものがあり、それぞれについて①多様な現実を知らせる活用法と②典型例を紹介する活用法があった。インターネット上の「さくぶん.org」の「多様性・真正性」は、教室で展開する学生と教師の対面関係に支えられ保証されることも明確になった。
著者
菅原 祥
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.19-32, 2017 (Released:2017-11-20)

本稿が検討するのは、ポスト社会主義の東欧諸国における社会主義の過去の「文化遺産化」、すなわち社会主義時代の遺物が保存・展示の対象となる「文化遺産」として扱われるようになるプロセスである。とりわけ本稿が着目するのは、そうした現象が地域のローカルなコミュニティの文脈でどのように起こっているのか、人々が自分たちの住む都市環境の中でこうした社会主義の遺物をどのように扱っているのかという問題である。こうした問題を考察するため、本稿ではポーランドの「社会主義都市」ティヒ市を事例として取り上げる。 ノヴェ・ティヒ(「新しいティヒ」の意)の建設計画は1950年に、当時のポーランドにおける「社会主義建設」の一環としてスタートした。1989年の社会主義体制崩壊以降、ティヒはしばしば社会主義体制下におけるモダニズム的都市計画の失敗例として扱われてきた。しかし、2005年のティヒ市博物館のオープン以降、こうした状況は徐々に変わりつつある。人々は、自分たちの都市の歴史やその建築物を、徐々に保存・記念・展示の対象として扱い始めたのである。 上記のプロセスの分析を通じて、本稿が指摘するのは、こうした社会主義の遺物の「文化遺産化」が直接起こるのではなく、むしろさまざまな「迂回路」や「言い訳」を通じて起こっているということである。あるときは人々は、伝統的で正統な「文化遺産」のカテゴリーをどんどん拡大していく中で社会主義の遺物をも「文化遺産」として扱うのであり、また別のときには、社会主義的な彫像を「脱イデオロギー化」することで、すなわちそれらの彫像に別の意味を与えることによって保存を可能にするのである。ここでは人々は逆説的にも、社会主義に直接言及しないことによって、社会主義の遺物を保存する実践を行っているのである。
著者
北村 克郎
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-74, 2016-03-01 (Released:2017-11-20)

国際バカロレア(以下IB)の初等教育プログラム(以下PYP)は「概念-操作」カリキュラムである。PYPの「概念-操作」カリキュラムが、他の構成主義の学びの方法に対してたいへん優れているのは、その道具立てがしっかりしているためである。この道具立ての一つである「概念に基づく学び」(concept based learning)はとりわけ重要なものであるが、八つの「概念」は、相互の間の関係が規定されていない。そこで、諸概念との関係や、その位置づけと役割と限界を明らかにした、ヘーゲルの論理学の「概念論」の「主観的概念」における「判断論」を認識論的に読み直すことにより、PYPの諸概念の役割と限界と相互の関係を認識の深化のプロセスの中に位置づけようと考える。そして、その準備作業として、まず、ヘーゲルの判断論を認識論的に概観してみたい。そのためには、特殊の役割に注目して判断論を理解しなくてはならない。
著者
飯森 豊水
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.5-18, 2017 (Released:2017-11-20)
参考文献数
26

ウィーン古典派の作曲家J. ハイドンの研究においては、20世紀終盤に明確な変化があったことが一部で指摘されている。 ハイドン研究史を概観すると、19世紀後半にC.F.ポールによってハイドンに関する学問的研究が始まり、1930年代のデンマークの研究者J.P.ラールセンを先駆として、戦後には活発な資料研究が展開された。20世紀の後半は、組織的で体系的な資料研究と、その成果としての学問的校訂楽譜による「ハイドン全集」をはじめとする諸資料の刊行が中心的課題となった。その課題が一段落する世紀の終盤になって明確な変化が起こり、新たな研究の地平が拓かれた。しかしその目指すところはまだ明らかとはいえない。小論では、この変化を分析し、従来のハイドン研究にはなかった新しい研究の可能性を検討する。
著者
八尾坂 修
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.75-86, 2020 (Released:2020-04-01)

アメリカにおける教育長の養成・研修に着目すると、歴史的に免許資格と養成、更新・上進制の連結が特徴的である。免許資格要件の特徴として以下の点を見出すことができた。①発行される免 許状は包括的な行政免許状あるいは教育長固有の免許状である。②博士号あるいは教育スペシャリスト学位(博士論文を提出する必要のない准博士号)取得の要請。③教職経験や行政経験を要求しているのが歴史的特徴。④インターンシップ充実への州間差異。⑤教育長独自のテストを要求する州の存在。⑥上進制を導入する州(10 州)のなかで更新を認めず上位の免許取得を求める州の存在。⑦伝統的な大学院養成プログラムに対して州教育長会のような専門職団体、民間によるオルタナティブ養成・研修の存在。教育長養成プログラムの課題として、ア.入学募集、選抜、入学、イ.プログラムの目標・哲学、ウ.養成の核となるコースカリキュラム内容、特に実地体験の重視、エ.テニュア教員の存在といった基本的な視点、要素を共通認識して高める質保証が養成関連機関に求められる。
著者
符 儒徳
出版者
Kaichi International University
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.109-126, 2022-03-15 (Released:2022-04-28)

本稿では,システム評価指標(RASIS)とセキュリティ構成要素(CIARA)に着目し,これらの相互関係を可視化するための構造モデルの構築を試みる。その前に,三方陣(3×3 magic square)とプラトン立体(Platonic solids)との関係により,セキュリティ構成要素(CIARA)に関する構造モデルが得えられたが,1次変換(線形変換:linear transformation)を行うことによりシステム評価指標(RASIS)とセキュリティ構成要素(CIARA)とのトポロジカル関係(topological relations)を築くことができ,この関係を利用すれば,システム評価指標に関するバランスの取れた構造モデルが同様に得られる。また,メビウスの帯(Möbius strip/band)を用いることにより,システム評価指標(RASIS)とセキュリティ構成要素(CIARA)を組み合わせた構造モデルを得ることができる。これにより,新しい RAS と CIA を提案することができる。さらに,この組み合わせた構造モデルを簡単に作れる方法も示す。その考察においてはモデルの合理性はあることが示唆された。
著者
大塚 孝夫
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.105-122, 2017 (Released:2017-11-20)

国際社会に於ける国家以外の行為主体(アクター)の代表的存在である、政府間国際組織の典型にして最大の国連に関する研究は、従来から国際機構論としてその目的・構成・機能等に的が絞られており、又その延長線上での「国連改革」であろう。しかしながら「国際関係」の舞台での国連の実相は目的・構成・機能を研究することだけでは探求できない。何故なら国連創設をめぐる諸般の世界情勢に端を発し、以来関係各国の思惑や国際政治力学・経済権益、全人類的課題への取り組み姿勢の相違等々、国際社会の様々な現象が国連諸機関の存在そのものの根源に深い影響を与えているからに他ならない。本稿では従って単なる表面上の事象だけではなく、まず国連創設時の時代背景を観察・分析した上で、国連の本質的側面を分野ごとに責任を持つ国連専門機関、なかでも国連工業開発機関(United Nations Industrial Development Organization – UNIDO「注1」)に焦点を当て、設立に到る経緯、特にその外的要因の分析を経て、担当責任分野であるところの国際経済協力・国際開発援助の主だった視点から国際関係, なかんずく多国間関係の本質を考察する。
著者
中里 弘 田中 友也
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.159-169, 2019 (Released:2019-04-08)

プレイセラピーの中でClは死と再生を繰り返し表現することがあり、死と再生のモチーフは心理療法において重要であるとの指摘がある。本論文ではプレイセラピーにおいてClがどのような過程を経て自身を成長させたかを検討し、自身の問題を乗り越える上で死と再生を繰り返すことの意味について考察することを目的とした。遊びの性質・遊びの流れにおいて重要な点が特に似ているプレイセラピー事例13件を基に架空事例を作成し、①ClとThの関係形成期、②Clが自身の攻撃性・破壊性・グロテスクなものをThに投影し、Thを痛めつけて殺害しては復活させた時期、③ClがThを意のままにコントロールした時期、④ClがThをケアする役割になった時期の4期を提示した。ThがClの死と再生の過程を助ける発想を持ちつつ、プレイセラピー原則の中でClが思いのままに表現できるよう対応することが重要であると考えられた。Thがプレイセラピーの中で死んだままにならず、再生して立ち上がることも肝要である。生物学からの考察では、アポトーシスのような死と再生の働きが心の働きにおいても想定されることを示した。
著者
古賀 万由里
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.83-96, 2022-03-15 (Released:2022-04-28)

マレーシアのエスニシティについて語る際、「マレー人」、「華人」、「インド人」という分類がよくなされる。これは政府が政策上分けたものであり、フォーマル・エスニシティといえる。インド人コミュニティは、出身地別、宗教別、カースト別に細分化されており、多数のサブ・エスニック集団が存在する。代表的な事例として、タミル人、テルグ人、マラヤーリ人、スリランカ・タミル人、ヒンドゥー教徒、ムスリム、シーク教徒、チェッティアールとサービス・カーストをとりあげた。結論として、マレーシア全体のエスニシティは、1)マレーシア人であるというナショナル・エスニシティ、2)インド人であるというフォーマル・エスニシティ、3)タミル人やテルグ人といった文化エスニシティから構成されるといえる。誰しもが二重、三重のエスニシティを持っている中で、時と場に応じてエスニシティが揺れ動いている。またエスニシティの複雑性は、各々の文化維持を可能にしているのと同時に、インド人として団結できない要因となっている。
著者
土屋 陽介
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.41-54, 2018 (Released:2018-03-01)

本稿では、今般の道徳教育の拡充において主要な授業方法の改善案として掲げられている「考え、議論する道徳」を取り上げ、「考え、議論する」ことは道徳教育にとってなぜ必要なのかを明らかにする。本稿の議論によれば、「考え、議論する」ことは、「道徳性」を構成する三要素の一つである「道徳的な判断力」の教育に特に寄与する。本稿では、このことを、古代ギリシアの哲学者アリストテレスが提起したフロネーシスの概念と、それをめぐる徳倫理学上の議論を参照することによって明らかにする。 本稿では、まず、道徳的な判断とはどのように下されるものであるかを検討することで、適切な道徳的判断を下すためにはフロネーシスと呼ばれる知性の働きが不可欠であることを明らかにする。次に、フロネーシスとは正確にはどのような種類の知性の働きであるかを明らかにする。その上で、私たち人間はフロネーシスをどのように獲得するのかについて、アリストテレスはどのように考えていたのかを明らかにする。最後に、子どもの哲学の創始者であるMatthew Lipmanの議論を参照して、哲学対話を通した「考え、議論する」教育が、フロネーシスの教育(すなわち、「道徳的な判断力」の育成)にとって理想的な方法であることを明らかにする。
著者
西山 渓
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.65-76, 2022-02-15 (Released:2022-04-28)

現代選挙制度と代表制民主主義その正統性は、いわゆる「民主主義の危機」と呼ばれる一連の議論から大きな疑問を投げかけられている。本論文では、こうした現代選挙制度と代表制民主主義の改善策あるいはオルタナティブとして近年注目を集める、籤引きを用いた民主主義の構想であるロトクラシー(Lottocracy)に着目し、その展望と課題をそれぞれ考察するものである。ロトクラシーはこれまで「選挙制度と比べてどの点で優れているか(あるいはいないか)」という点に焦点が当てられ議論されることが多かったが、本論文ではロトクラシーの 3 つのシナリオ(二院制、法案拒否権に限定した市民院、選挙なきロトクラシー)同士を比較・検討することでロトクラシーの可能性と限界を論じていく。これらの 3 つのシナリオの比較を通し、ロトクラシーの理論上の魅力を出来る限り保ちつつも、実現可能性のあるロトクラシーのあり方を考察する。
著者
符 儒徳
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.59-70, 2021 (Released:2021-03-15)

本稿では,情報セキュリティの構成要素に焦点をあてて,情報セキュリティの特性などを踏まえつつ,要素間の相互関係を見える化できるような構造モデルの構築を試みる。そのために,情報・セキュリティ・文化という視点から情報セキュリティ対策を見直し,情報システムの RASIS を参考に中核的な要素を抽出した。その結果,三方陣とプラトン立体との関係によりバランスのとれた構造モデルと要素間の相互作用サイクルが得られた。その考察においてはモデルの合理性はあるということが示唆された。