- 著者
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鳴子 博子
- 出版者
- 経済研究所
- 雑誌
- 経済研究所年報 (ISSN:02859718)
- 巻号頁・発行日
- no.53, pp.487-508, 2021-10-05
本稿はレヴェイヨン事件,ヴェルサイユ行進,エタンプ事件という3 つの生存をめぐる民衆の直接行動とそれらの事件への為政者・中央権力の対応とを捕捉することを通して,フランス革命期の社会の矛盾・分断は何によってもたらされたのかを分析する。筆者はコルポラシオン(同業組合)を禁止して経済的自由を促進する1791年6 月制定のル・シャプリエ法に着目する。本稿が射程に収めるのは,93年憲法の採択された1793年6 月までであるが,萌芽的であるとはいえ生存権規定を含む93年憲法をなぜジャック・ルーは断罪したのか。91年憲法は失効したにもかかわらず,91年憲法体制を支えたル・シャプリエ法はなぜ1 世紀近くも存続したのか。『人間不平等起原論』でルソーが行った富者主導の国家のカラクリの暴露と,『社会契約論』で真の人間解放論としてルソーが提示した,すべてのassocié の生存を確保する新国家の構想とを分析視座に据えた本稿の分析によって,ル・シャプリエ法は「富者の正義」の法に他ならないこと,富者が中間団体否認論をルソーの意図に反して「巧みな簒奪」に利用したことが明らかにされる。現代の私たちの最大の社会課題は格差社会からの脱却にあろう。とすれば,この難問に挑むために私たちはルソーの残した政治構想を真剣に受け止める必要がある。