著者
小澤 薫
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.49, pp.227-239, 2017-10-10

本研究では,生活保護ケースワーカー,査察指導員の業務とそれへの意識から福祉事務所が直面している課題を明らかにすることを目的としている。研究対象は,新潟県内の福祉事務所で,生活保護業務を担当する現業員と査察指導員の全員とし,郵送で調査を行った。「担当ケース数」「所持資格」「経験年数」「訪問計画通りの訪問」「仕事への意識」などの項目から分析を行った。「希望の部署でなかった」「早く異動したい」という現在の職場・仕事に対して否定的な回答が多かった。その背景として,過重な業務量,専門性の欠如,指導支援体制の未確立という点が挙げられた。住民の福祉を守る最前線としての福祉事務所において,生活保護業務の意義を確認し, 1 人ひとりの住民,利用者に向き合う体制,組織として課題に取り組む体制が求められている。あわせて,国の決定だけでなく,自治体として住民の福祉を支えていく体制の在り方を見直していく必要がある。
著者
前原 正美
出版者
経済研究所
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.53, pp.155-182, 2021-10-05

本論文全体の主張論点としては,石田三成の旗印「大一大万大吉」には《「愛」の政治理念》が示されていること,を明らかにする。本論文の独自の視点としては,第1 に,石田三成が依拠した道教=神道では,地上(天下)の世界は天上の世界の映し絵である,という論点を提示する。宇宙(天上)では「大」=「太」=「天」=「神」は,北極星=宇宙上の中心に位置する「神」であり,その周りを「八」つの「神」が支えている。地上(天下)では,「大」=「太」=「天」=「神」は伊勢神宮に祀られる天照大神であり,道教=神道は,北斗八星信仰=アマテラス信仰=伊勢(神宮)信仰を創りだした。第2 に,三成の九曜文の中央の大丸は北斗=北極星,八つの丸は北斗=北極星の周りの八星を示しており,いいかえれば中央の大丸は天照大神,八の丸は「八百万の神」を示している。こうした北斗八星信仰は,道教=神道を基礎とした平和国家を構築するための政策となった。第3 に,三成は,「一」は常に「万」人=「他」者=「多」者とつながっている,と考えた。そのかぎり人間各人は「愛」に生きるしか幸福になる道はない。かくて三成は,《隣人「愛」=人間「愛」》に基礎づけられた天下国家を実現できれば,「道徳的世界」と「政治的世界」と「経済的世界」とが調和した「最大数の最大幸福」を実現できる,と考えた。
著者
前島 賢土
出版者
経済研究所
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.53, pp.133-154, 2021-10-05

新聞を資料として用いて,食品会社社員の偽計業務妨害という職務犯罪を考察した。食品会社社員の職務犯罪は,「給与などが不満で会社や工場長に怒りがあった」という食品会社社員の正当化によって促進された。この正当化は,自らが資本家や経営者によって搾取され,また,資本家や経営者によって指揮されていると考えている労働者階級の意識や観念,言説である労働者階級のイデオロギーをよりどころとした。労働者階級のイデオロギーは,労働者階級が資本家や経営者によって搾取され,また,資本家や経営者によって指揮されているという労働者階級の実在条件によってもたらされた。労働者階級の実在条件,労働者階級のイデオロギーは,正当化を通して,自他からの制裁という犯罪の統制要素を弱めた。
著者
土方 直史
出版者
経済研究所
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.53, pp.579-596, 2021-10-05

これまで多くの研究者は、ジェレミー・ベンサムの功利主義を「エピキュリアン伝統」との連結性の中で理解してこなかった。F・ローゼンは、ベンサムの功利主義思想を17世紀以降のエピキュリアン伝統の中に位置づけて理解することを提起している。しかし、ベンサムが自身の哲学を、エピクロスの哲学から導いたわけではない。むしろ、本稿で紹介する女性哲学者フランシス・ライト著『アテネの数日』(A Few Days in Athens)を読む以前に、彼がエピクロスの哲学に関心を持っていたとは言い難い。さらに、快楽主義と幸福の実現という主題の下、エピクロスとゼノンの論争を物語形式で展開したこの哲学的小説の思想史的評価は、ベンサムにエピクロスの哲学の紹介をした、というものにとどまらない。この作品においてライトは、後にW・トンプソン、R・オウエン、J・S・ミルらが主張するフェミニズム論の原型、すなわちエピクロスの哲学とベンサムの功利主義思想を哲学的基礎とする女性論を示したと言えるだろう。
著者
宮寺 良光
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.49, pp.175-202, 2017-10-10

近年の生活保護受給者増加の背景には,高齢者の生活困窮化が影響している。世帯類型別にみると「高齢者世帯」が生活保護受給世帯全体の半数程度にまで増加しており,このことが生活保護費の増加を懸念する材料になっている。しかし,このような問題の背景には,産業構造と社会保険制度の階層的構造に象徴される社会保障制度の構造的な問題に加え,社会保障・社会福祉の「構造改革」による費用負担構造の変化が新たな高齢者の生活困窮化要因につながっていることが疑われる。 本稿では,高齢者(65歳以上)に関連する統計データのうち,都道府県別に判別できるものを収集し,このデータを元に高齢者の生活保護受給要因について時系列に分析を試みたところ,かつては収入面の問題が主要な生活困窮化の要因であったが,近年では,支出面の問題が高齢者の生活困窮化を促している可能性がうかがえた。また,これらの要因を地域別に分析を試みたところ,都市部と地方部とでは異なる特徴がみられ,目前の課題として地域単位で取り組むにあたっては,地域の特徴を踏まえた課題克服のためのアプローチが必要であることがみいだされた。
著者
加藤 博
出版者
成城大学経済研究所
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:09161023)
巻号頁・発行日
no.29, pp.5-44, 2016-04
著者
楊 川 野間口 隆郎 高 鶴 谷口 洋志
出版者
経済研究所
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.53, pp.333-354, 2021-10-05

本稿では,コロナ禍における日本と中国の大学でのオンライン授業の比較を通じて,政府の支援策,オンライン授業のためのインフラ,オンライン授業の方式,オンライン授業の教育効果について考察した。 コロナ禍前には,日本の大学生は,他国の大学生と比べると勉強意欲が低いとされる一方,教師による学生評価は不透明で,学生同士の競争も少ないといわれてきた。コロナ禍発生後は,オンライン授業の導入により,教師と学生の間での情報共有が進展し,学生の学習意欲や姿勢も情報として把握されるようになったことから,学習への意欲や姿勢が強まった。こうした教育過程の可視化は学生間の競争を促し,教育効果の向上につながることが期待される。 以上の考察を通じて,本稿では,オンライン教育を通じて日本の大学の教育効果が上がっているという仮説を提示した。今後は,対面授業とオンライン授業を組み合わせたハイブリッド型授業とオンラインだけの授業との比較考察,とくに教育効果の違いについて検討する必要がある。
著者
鳴子 博子
出版者
経済研究所
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.53, pp.487-508, 2021-10-05

本稿はレヴェイヨン事件,ヴェルサイユ行進,エタンプ事件という3 つの生存をめぐる民衆の直接行動とそれらの事件への為政者・中央権力の対応とを捕捉することを通して,フランス革命期の社会の矛盾・分断は何によってもたらされたのかを分析する。筆者はコルポラシオン(同業組合)を禁止して経済的自由を促進する1791年6 月制定のル・シャプリエ法に着目する。本稿が射程に収めるのは,93年憲法の採択された1793年6 月までであるが,萌芽的であるとはいえ生存権規定を含む93年憲法をなぜジャック・ルーは断罪したのか。91年憲法は失効したにもかかわらず,91年憲法体制を支えたル・シャプリエ法はなぜ1 世紀近くも存続したのか。『人間不平等起原論』でルソーが行った富者主導の国家のカラクリの暴露と,『社会契約論』で真の人間解放論としてルソーが提示した,すべてのassocié の生存を確保する新国家の構想とを分析視座に据えた本稿の分析によって,ル・シャプリエ法は「富者の正義」の法に他ならないこと,富者が中間団体否認論をルソーの意図に反して「巧みな簒奪」に利用したことが明らかにされる。現代の私たちの最大の社会課題は格差社会からの脱却にあろう。とすれば,この難問に挑むために私たちはルソーの残した政治構想を真剣に受け止める必要がある。
著者
松本 悠子
出版者
経済研究所
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.52, pp.125-144, 2020-09-15

第1 次世界大戦において,主戦場の1 つとなったフランスには,多様な地域から多様な人種民族を出自とする労働者が動員された。彼らがフランス地域社会で実際にフランスの人々と関わった時,フランスの人々の人種認識はどのようなもので,どのように変わったのであろうか。第1 次世界大戦前後,アメリカ合衆国のアフリカ系アメリカ人活動家が人種差別のない共和国として憧れた国の人種認識は,どのように構築されたのであろうか。さらに,人種認識は,どこの国,地域においても,必ずジェンダー秩序と深い関わりを持っている。「血」の継承という基本概念は,人種の境界を超えた親密な関係や再生産の問題と直結するからである。本稿では,戦時下フランスの軍需工場で働いていた女性労働者とインドシナ植民地から動員された労働者を中心に,人種,ジェンダー,さらに労働者という階級がどのように人種認識をつくっていたかを論じる。
著者
長野 ひろ子
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.49, pp.277-298, 2017-10-10

『富岡日記』は,官営富岡製糸場の伝習工女和田(旧姓横田)英が,後年になり自らの製糸工女時代を回顧した記録である。本稿では,『富岡日記』に関し2 つの問題を提起した。1 つは,旧武士身分に属する英が,家を離れ工場労働に従事することをなぜ世間が許容し本人も納得したのかということ,他の1 つは,女工問題が社会問題として取り上げられていた明治末~昭和初期にあって,当時エリート一族の一員であった英が何故『富岡日記』を刊行したのかということである。前者については,英が少女時代を過ごした江戸時代における衣料生産と女性との関係性ならびに衣料生産を女性性と結び付けるジェンダー・イデオロギーの存在を明らかにし,同時に維新変革期のジェンダーの再構築過程におけるジェンダー秩序の変容として解釈を加えた。後者については,英が,『女工哀史』的言説に満ち溢れた現実社会への理解とは異なった位相において日記を執筆したとの見解を提示した。
著者
小平 裕
出版者
成城大学
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:09161023)
巻号頁・発行日
no.25, pp.123-139, 2012-04