著者
鵜飼 大介
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.84-99, 2007 (Released:2020-03-09)

ヨーロッパにおける近代的な言語経験を特徴づける一事象として、普遍言語の構想と運動が挙げられる。「普遍性」は「特殊性」との関係において意味をもつように、普遍言語も特殊言語との関係においてこそ、はっきりと姿をあらわしてくる。本論は「普遍言語」と「特殊言語」との関係性の様態を、歴史的にたどるべく、反・普遍言語(論)の変容を見ていく。普遍言語と対をなす特殊言語とは、実際のところ「俗語」または「国語」のことである。17世紀以降、普遍言語において見込まれる〈超・普遍性〉は退縮していき、19世紀末以後にエスペラントが「国際共通語」「国際補助語」と称されたように、既存の諸国語に大幅に譲歩し、〈間・特殊性〉とでもいうべきものへと変容していく。反面、特殊言語たる国語のほうは、次第にその言語的「厚み」が見出され、意義と重要性を高めていく。そうした動向のなか、18世紀におけるフランス語、19世紀における印欧祖語、20世紀における英語など、それぞれ様態は異なるものの、特殊言語が普遍性に近づいたり、それを擬態したりする事態も見受けられた。