著者
小林 茂樹 広渡 俊哉 黒子 浩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-57, 2010-05-31
参考文献数
33
被引用文献数
1

チビガ科Bucculatricidaeは,幼虫が若齢期に葉にもぐる潜葉性の小蛾類である.成虫は開張6-8mmで,世界ではおよそ250種が知られる.中齢期において幼虫は潜孔を脱出し,老熟すると本科に特徴的な縦の隆条をもった舟底形のマユを葉や枝上につくり蛹化する.日本では,アオギリチビガBucculatrix firmianella Kuroko,1982,ナシチビガB.pyrivorella Kuroko,1964,クロツバラチビガB.citima Seksjaeva,1989の3種が知られており,最近筆者らによってハマボウチビガB.hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009,ならびにコナラチビガBucculatrix comporabile Seksjaeva 1989とクリチビガB.demaryella(Duponchel,1840)が追加された(有田他,2009).しかし,本科にはヨモギ属を寄主とするヨモギチビガBucculatrix sp.など,多くの未同定種の報告があり,種の分類・生活史の解明度が低く,種レベルの研究が不十分であった.そこで本研究は,日本産の本科の新種を含む未解明種の形態・生活史を明らかにすることに努め,既知種を含めた本科の分類学的再検討を行った.野外調査とともに大阪府立大学や小木広行氏(札幌市),平野長男氏(松本市),村瀬ますみ氏(和歌山市)などの所蔵標本を用い,日本各地の成虫を調査した.奥(2003)が同定を保留した4種についても,交尾器の形態を確認した.その結果,4新種,11新記録種,2学名未決定種を加えた計23種を確認した.確認された23種を,交尾器の特徴から10種群に分類し,16種の幼虫期の習性をまとめ,3タイプに分類した.幼虫習性は,11種で多くのチビガ科の種でみられる型(1.中齢以降は葉の表面にでて葉を摂食する.2.脱皮マユは2回作る)が見られ,茎潜り,ヨモギにつく3種に見られた脱皮マユを一度しか作らない型は,Baryshnikova(2008)の系統の初期に分化したと考えられるグループに属した.ヤマブキトラチビガとシナノキチビガはシナノキの葉の表と裏側をそれぞれ利用していたが,形態は大きく異なっており,それぞれ,ブナ科とバラ科に潜孔するグループに形態的に近縁と考えられた.また,メス交尾器の受精管が交尾のうの中央に開口することが本科の共有派生形質であることを示唆し,さらに調査した日本産18種でこの形質状態を確認できた. 1.Bucculatrix firmianella Kuroko,1982アオギリチビガ(Plates 1(1),2(1-11),Figs 3A-C,10A)開張6-8mm.前翅は白色に不明瞭な暗褐色条が走り,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは丸く,挿入器は細長い.幼虫は6〜10月にアオギリの葉にらせん状の潜孔を作る.住宅の庭木や大学キャンパスなどで発生がみられた.分布:本州,四国,九州.寄主植物:アオギリ(アオギリ科). 2.Bucculatrix hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009ハマボウチビガ(Plates 1(2),2(12-17).Figs 1D,3D-F,10B)開張5.5-8mm.前翅は白色から暗褐色で黒鱗が全体に散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは長く,バルバの先端に1対の突起がある.幼虫は初夏から11月初旬までみられ,若齢幼虫はハマボウの葉に細長く線状に潜り,その後茎内部に潜る.三重県では,蕾内部に潜孔している幼虫や種子の摂食が観察されている(中野・間野,未発表).分布:本州(三重,和歌山)寄主植物:ハマボウ(アオイ科). 3.Bucculatrix splendida Seksjaeva,1992ハイイロチビガ(新記録種)(Plates 1(3),2(18-20).Figs 1C,3G-I,9E,10C)開張8mm内外.前翅及び冠毛は黒色で,容易に他種と区別できる.本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.4として記録された.幼虫は,夏にみられヨモギの葉の表側表皮を残して薄く剥ぎ,点々と食痕を残す.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 4.Bucculatrix laciniatell Benander,1931アズサガワチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(4).Figs 3J-L)開張9mm.前翅は白色で,前縁から後方に明るい茶色の斜列条が走る.雄交尾器の挿入器は先端が鉤爪状に反り,バルバの先端には細かい棘状の突起がある.平野長男氏採集の長野県梓川産の1♂にもとづいて記録した.ヨーロッパでは,Artemisia laciniata(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:本州(長野);ヨーロッパ.寄主植物:日本では未確認. 5.Bucculatrix sp.1(nr.bicinica Seksjaeva,1992)(Fig.9D)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.3として記録された.雄交尾器は,挿入器の先が大きく反り返り,把握器は長細くなる.沿海州産のB.bicinica Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明.6.Bucculatrix maritima Stainton,1851ウラギクチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(5),2(21,22).Figs 9A,10D)開張75mm.前翅は濃茶色に白色が混じり,基部に明瞭な白斜条が走る.雄交尾器の把握器は先端が深く切れ込み,雌交尾器の交尾口は,おわん型になる.小木広行氏採集の北海道鹿追産の1♂と山崎一夫氏採集の大阪府大阪市産の1♀にもとづいて記録した.山崎(私信)によると潜孔とマユを大阪市北港処分地で観察している.同様に淀川河口付近のウラギクでも潜孔痕が観察できた.ヨーロッパでは,ウラギクAster tripolium,Artemisia maritima(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:北海道,本州(大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:ウラギク(キク科). 7.Bucculatrix notella Seksjaeva,1996ヨモギチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(6),2(23-28).Figs 1C,4A-D,10E)開張6-7mm.前翅は乳白色で,茶から暗褐色の斜条が前縁1/2および2/3に走るが,斑紋の変異が大きい.雄交尾器は,テグメンの先端が発達し,雌交尾器の交尾口はカップ状になる.幼虫は,春から秋にかけてみられ,近畿地方では冬にも若齢幼虫がみられた.後齢幼虫はヨモギの葉に小孔を開け,そこから組織を摂食する.北海道では,ハイイロチビガと混棲しているのが観察された.分布:北海道,本州(長野,三重,奈良,大阪,和歌山,兵庫),九州;ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 8.Bucculatrix nota Seksjaeva,1989イワテヨモギチビガ(改称,新記録種)(Plate 1(7).Figs 1C,4E-G,9B)開張8mm.前翅は乳白色に褐色の斜条が走る.本種は,奥(2003)によってヨモギチビガBucculatrix sp.1として生態情報とともに記録されたが,ヨモギを寄主とするチビガとしては全国的に前種の方が普通に見られるので本種をイワテヨモギチビガとした.形態,生態ともに前種に似るが,雄交尾器のソキウスが長く発達し,挿入器の先端は大きくフック状に反る.分布:本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ,オオヨモギ(キク科). 9.Bucculatrix sp.2(nr.varia Seksjaeva,1992)(Fig.9C)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.2として記録された.雄交尾器は,ソキウスの側面が広がり,把握器は先が指状になる.沿海州産のB.varia Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明. 10.Bucculatrix sinevi Seksjaeva,1988シネフチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(8).Figs 4H-I,10F)開張7.0-8.0mm.前翅は乳白色で,茶鱗が散在する.雌雄交尾器は,特徴的で雄交尾器のソキウスは小さく,バルバは幅広く先端が尖る.雌交尾器の交尾口の両側には牛角状の突起が伸びる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 11.Bucculatrix altera Seksjaeva,1989アムールチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(9).Figs 5A-E,11A)開張7.0-8.2mm.前翅は白色で茶〜暗褐鱗が散在する.雄交尾器は,挿入器内に多数の鉤爪状突起がある.雌交尾器は,前種と同様に角状突起を有しアントゥルムは幅広の筒状になる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 12.Bucculatrix pyrivorella Kuroko,1964ナシチビガ(Plate 1(10),2(29-32),3(1-7).Figs 1A,2,5E-G,11B)開張7.0-8.0mm.前翅は白色で,不明瞭な明るい茶の斜条が走る.雄交尾器のソキウスとバルバは弱く硬化し,エデアグスは長い.幼虫は,奈良では5月から9月まで発生し,街路樹や庭木のサクラでよくみちれる.かつてはナシ園の害虫として問題となった.分布:北海道,本州,四国,九州;韓国,ロシア極東.寄主植物:ナシ,リンゴ,サクラ類,ズミ(バラ科). 13.Bucculatrix citima Seksjaeva,1989クロツバラチビガ(Plate 1(11),3(8-11).Figs 5H-J,11C)開張6.0-7.0mm.前翅は乳白色で,前縁1/3と2/3から後縁に濃茶の斜列条が走る.雄交尾器は,ソキウスを欠きバルバ先端は櫛歯状になる.本種は,奥(2003)がクロツバラから採集した幼虫を飼育・羽化させ,日本から記録した.本研究では,クロウメモドキを新たに寄主に加え,幼虫の発育過程を記載した.また,雌交尾器を初めて図示した.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:クロツバラ,クロウメモドキ(クロウメモドキ科). 14.Bucculatrix armata Seksjaeva,1989シナノキチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(12),3(12-21).Figs 6A-C,11D)開張6.0-7.5mm.前翅は白色で,不明瞭な燈褐鱗が散在する.雄交尾器はソキウスを欠きバルバは強く硬化する.幼虫は8月に発生し,シナノキの葉の表側を主に利用する(小木広行氏観察).北海道では,本種とヤマブキトラチビガが葉の表と裏側をそれぞれ利用するのが観察されている化分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:シナノキ(シナノキ科). 15.Bucculatrix univoca Meyrick,1918ノアサガオチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(13),3(22-30).Figs 6D-H,11E)開張5.0-6.5mm.前翅は茶色で1/2に黒点,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器は特徴的で,バルバの中ほどに突起が発達し,その先端は櫛歯状になる.幼虫は9月にみられたが,村瀬(私信)によると2月初旬に採集されたことから,年間を通して発生すると思われる.分布:九州(鹿児島[奄美]),琉球(沖縄[沖縄本島,石垣島]);台湾インド.寄主植物:ノアサガオ,サツマイモ(ヒルガオ科). 16.Bucculatrix demaryella(Duponchel,1840)クリチビガ(Plates 1(14-15),4(1-13).Figs 7A-C,11F)開張6.0-7.5mm.前翅は黄白色で,茶褐鱗が散在する.本種,クヌギ,コナラ,ケヤキ,コギチビガは斑紋が酷似し,確実な同定は交尾器の確認が必要.幼虫は7月初旬から10月まで発生し,クリ,シラカンバの葉に短い螺旋状の潜孔を作る.本種はヨーロッパでは他にカエデ類,ハシバミ類を利用することが知られる.那須御用邸(栃木県)の調査で日本から記録された(有田他,2009).分布:北海道,本州(栃木,長野,愛知,奈良,大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:クリ(ブナ科),シラカンバ(カバノキ科). 17.Bucculatrix serratella sp.nov.ケヤキチビガ(新種)(Plates 1(16),4(14-22).Figs 7D-F,12A)開張5.0-6.0mm体前翅は黄土色で,茶褐鱗が散在する.雄交尾器の挿入器とユクスタの先端は鋭く尖る.雌交尾器の第8節腹側は硬化し,しわ状の模様がある.本種は,大和田ら(2006)によって皇居で採集されたマユと食痕からケヤキチビガBucculatrix sp.1として記録されたものである.幼虫は,5月から10月に発生し,ケヤキの葉に線状の潜孔を作る.本種は,街路樹や寺社林などでよく見られる.分布:本州(東京,長野,愛知,三重,奈良,大阪).寄主植物:ケヤキ(ニレ科). 18.Bucculatrix kogii sp.nov.コギチビガ(新種)(Plate 1(17).Figs 7G-I)開張7-8mm.前翅は白色で茶鱗を散布する.雄交尾器は前種に似るが,挿入器先端に多数の棘状突起を有し,ユクスタも小さい.♀は未知.分布:北海道.寄主植物:不明. 19.Bucculatrix thoracella(Thunberg,1794)ヤマブキトラチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(18-19),4(23-30).Figs 1B,7J-K,12B)開張6-7.5mm.前翅は山吹から燈褐色で1/2に黒色帯,同様に中央から翅頂に黒色中線が走る.北海道産の個体は,斑紋が明瞭ではない.本州では奈良県大台ヶ原で成虫のみが得られており,北海道では幼虫は6-8月に発生し,シナノキの葉の裏側を主に利用する(小木広行氏観察).8月の世代はマユで越冬する.ヨーロッパでは,カエデ類,クリ類,ブナ類も利用することが知られている.分布:北海道,本州(奈良[大台ヶ原]);ヨーロッパ.寄主植物:シナノキ(シナノキ科). 20.Bucculatrix muraseae sp.nov.ハンノキチビガ(新種)(Plates 1(20),5(1-6).Figs 8A-B,12C)開張6-8mm.前翅は乳白色で明るい茶の3斜線条が走る.雄雌交尾器は次種に似るが雄交尾器のソキウスの形で区別できる.幼虫は7月初旬から9月に発生し,黄褐色のマユを作る.分布:北海道,本州(奈良,大阪,和歌山,兵庫).寄主植物:ハンノキ(カバノキ科).
著者
小林 茂樹 広渡 俊哉 黒子 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-57, 2010-05-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
33

チビガ科Bucculatricidaeは,幼虫が若齢期に葉にもぐる潜葉性の小蛾類である.成虫は開張6-8mmで,世界ではおよそ250種が知られる.中齢期において幼虫は潜孔を脱出し,老熟すると本科に特徴的な縦の隆条をもった舟底形のマユを葉や枝上につくり蛹化する.日本では,アオギリチビガBucculatrix firmianella Kuroko,1982,ナシチビガB.pyrivorella Kuroko,1964,クロツバラチビガB.citima Seksjaeva,1989の3種が知られており,最近筆者らによってハマボウチビガB.hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009,ならびにコナラチビガBucculatrix comporabile Seksjaeva 1989とクリチビガB.demaryella(Duponchel,1840)が追加された(有田他,2009).しかし,本科にはヨモギ属を寄主とするヨモギチビガBucculatrix sp.など,多くの未同定種の報告があり,種の分類・生活史の解明度が低く,種レベルの研究が不十分であった.そこで本研究は,日本産の本科の新種を含む未解明種の形態・生活史を明らかにすることに努め,既知種を含めた本科の分類学的再検討を行った.野外調査とともに大阪府立大学や小木広行氏(札幌市),平野長男氏(松本市),村瀬ますみ氏(和歌山市)などの所蔵標本を用い,日本各地の成虫を調査した.奥(2003)が同定を保留した4種についても,交尾器の形態を確認した.その結果,4新種,11新記録種,2学名未決定種を加えた計23種を確認した.確認された23種を,交尾器の特徴から10種群に分類し,16種の幼虫期の習性をまとめ,3タイプに分類した.幼虫習性は,11種で多くのチビガ科の種でみられる型(1.中齢以降は葉の表面にでて葉を摂食する.2.脱皮マユは2回作る)が見られ,茎潜り,ヨモギにつく3種に見られた脱皮マユを一度しか作らない型は,Baryshnikova(2008)の系統の初期に分化したと考えられるグループに属した.ヤマブキトラチビガとシナノキチビガはシナノキの葉の表と裏側をそれぞれ利用していたが,形態は大きく異なっており,それぞれ,ブナ科とバラ科に潜孔するグループに形態的に近縁と考えられた.また,メス交尾器の受精管が交尾のうの中央に開口することが本科の共有派生形質であることを示唆し,さらに調査した日本産18種でこの形質状態を確認できた. 1.Bucculatrix firmianella Kuroko,1982アオギリチビガ(Plates 1(1),2(1-11),Figs 3A-C,10A)開張6-8mm.前翅は白色に不明瞭な暗褐色条が走り,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは丸く,挿入器は細長い.幼虫は6〜10月にアオギリの葉にらせん状の潜孔を作る.住宅の庭木や大学キャンパスなどで発生がみられた.分布:本州,四国,九州.寄主植物:アオギリ(アオギリ科). 2.Bucculatrix hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009ハマボウチビガ(Plates 1(2),2(12-17).Figs 1D,3D-F,10B)開張5.5-8mm.前翅は白色から暗褐色で黒鱗が全体に散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは長く,バルバの先端に1対の突起がある.幼虫は初夏から11月初旬までみられ,若齢幼虫はハマボウの葉に細長く線状に潜り,その後茎内部に潜る.三重県では,蕾内部に潜孔している幼虫や種子の摂食が観察されている(中野・間野,未発表).分布:本州(三重,和歌山)寄主植物:ハマボウ(アオイ科). 3.Bucculatrix splendida Seksjaeva,1992ハイイロチビガ(新記録種)(Plates 1(3),2(18-20).Figs 1C,3G-I,9E,10C)開張8mm内外.前翅及び冠毛は黒色で,容易に他種と区別できる.本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.4として記録された.幼虫は,夏にみられヨモギの葉の表側表皮を残して薄く剥ぎ,点々と食痕を残す.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 4.Bucculatrix laciniatell Benander,1931アズサガワチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(4).Figs 3J-L)開張9mm.前翅は白色で,前縁から後方に明るい茶色の斜列条が走る.雄交尾器の挿入器は先端が鉤爪状に反り,バルバの先端には細かい棘状の突起がある.平野長男氏採集の長野県梓川産の1♂にもとづいて記録した.ヨーロッパでは,Artemisia laciniata(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:本州(長野);ヨーロッパ.寄主植物:日本では未確認. 5.Bucculatrix sp.1(nr.bicinica Seksjaeva,1992)(Fig.9D)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.3として記録された.雄交尾器は,挿入器の先が大きく反り返り,把握器は長細くなる.沿海州産のB.bicinica Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明.6.Bucculatrix maritima Stainton,1851ウラギクチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(5),2(21,22).Figs 9A,10D)開張75mm.前翅は濃茶色に白色が混じり,基部に明瞭な白斜条が走る.雄交尾器の把握器は先端が深く切れ込み,雌交尾器の交尾口は,おわん型になる.小木広行氏採集の北海道鹿追産の1♂と山崎一夫氏採集の大阪府大阪市産の1♀にもとづいて記録した.山崎(私信)によると潜孔とマユを大阪市北港処分地で観察している.同様に淀川河口付近のウラギクでも潜孔痕が観察できた.ヨーロッパでは,ウラギクAster tripolium,Artemisia maritima(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:北海道,本州(大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:ウラギク(キク科). 7.Bucculatrix notella Seksjaeva,1996ヨモギチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(6),2(23-28).Figs 1C,4A-D,10E)開張6-7mm.前翅は乳白色で,茶から暗褐色の斜条が前縁1/2および2/3に走るが,斑紋の変異が大きい.雄交尾器は,テグメンの先端が発達し,雌交尾器の交尾口はカップ状になる.幼虫は,春から秋にかけてみられ,近畿地方では冬にも若齢幼虫がみられた.後齢幼虫はヨモギの葉に小孔を開け,そこから組織を摂食する.北海道では,ハイイロチビガと混棲しているのが観察された.分布:北海道,本州(長野,三重,奈良,大阪,和歌山,兵庫),九州;ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 8.Bucculatrix nota Seksjaeva,1989イワテヨモギチビガ(改称,新記録種)(Plate 1(7).Figs 1C,4E-G,9B)開張8mm.前翅は乳白色に褐色の斜条が走る.本種は,奥(2003)によってヨモギチビガBucculatrix sp.1として生態情報とともに記録されたが,ヨモギを寄主とするチビガとしては全国的に前種の方が普通に見られるので本種をイワテヨモギチビガとした.形態,生態ともに前種に似るが,雄交尾器のソキウスが長く発達し,挿入器の先端は大きくフック状に反る.分布:本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ,オオヨモギ(キク科). 9.Bucculatrix sp.2(nr.varia Seksjaeva,1992)(Fig.9C)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.2として記録された.雄交尾器は,ソキウスの側面が広がり,把握器は先が指状になる.沿海州産のB.varia Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明. 10.Bucculatrix sinevi Seksjaeva,1988シネフチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(8).Figs 4H-I,10F)開張7.0-8.0mm.前翅は乳白色で,茶鱗が散在する.雌雄交尾器は,特徴的で雄交尾器のソキウスは小さく,バルバは幅広く先端が尖る.雌交尾器の交尾口の両側には牛角状の突起が伸びる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 11.Bucculatrix altera Seksjaeva,1989アムールチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(9).Figs 5A-E,11A)開張7.0-8.2mm.前翅は白色で茶〜暗褐鱗が散在する.雄交尾器は,挿入器内に多数の鉤爪状突起がある.雌交尾器は,前種と同様に角状突起を有しアントゥルムは幅広の筒状になる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 12.Bucculatrix pyrivorella Kuroko,1964ナシチビガ(Plate 1(10),2(29-32),3(1-7).Figs 1A,2,5E-G,11B)開張7.0-8.0mm.前翅は白色で,不明瞭な明るい茶の斜(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
黒子 浩 Gaedike Reinhard
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.49-69, 2006-01-10

ササベリガ科は,世界から約100種が記載される小さな科で(Gaedike, 1996),わが国からはMeyrick(1931),一色(1957),森内(1982),Gaedike & Kuroko (2000),奥(2003)により2属5種が記録されているが,固定に問題のあるものが含まれている.これらを整理し,2新記録種を追加,6新種を記載した.本科は派生形質として後脛筋全面に固い剛毛を有し,前翅後縁に謝状の鱗片総をもつ.Epermenia属には腹部第1-2筋に発香毛を蔵したポケット状の嚢(共通派生形質)があるが,二次的に欠除した種もある. ササベリガ科は以前はYponomeutoidea(スガ上将)におかれたが,近年は独立の上将Epermenioidea(ササベリガ上科)が創られ,その下におかれる(Minet, 1983). 1. Phaulernis fulviguttella (Zeller, 1835) キモンクロササベリガ 前翅長5.0-6.0mm.森内(1982)によりP. monticolaとして記載されたが,ヨーロッパからロシアにかけ広く分布するvulviguttellaのシノニムとされた(Gaedike, 1993).前翅後縁の歯状鱗毛総は二次的に欠除.また本属は腹部に発香毛をもたない.ヨーロッパから日本まで広く分布.寄主植物は海外でセリ科のミツバグサ属,マルバトウキ属,シシウド属が知られる. 2. Phaulernis pulchra Gaedike, 1993 トサカササベリガ(新称) 比較的大型で前翅長6.0-7.0mm.前翅にEを横にしたような橙赤色紋がある(和名はこの斑紋の特徴に由来する).前翅後縁に歯状鱗毛総をもつ.ロシア沿海州より記載された美麗種である.日本新記録. 3. Phaulernis chasanica Gaedike, 1993 ウスグロヒメササベリガ 前翅長5.0-5.7mm.前翅中央に橙褐色部があり,一見ヒメササベリガに似るが,基半部が灰白色をなさないので区別できる.ロシア沿海州から記載された.日本では奥(2003)により盛岡から記録されたが,図示されるのはこれが初めてである. 4. Epermenia (Cataplectica) sugisimai sp. nov.シロオビササベリガ(新称) 前翅長4.0mm.前翅後縁に歯状鱗毛総をもたない.第2腹筋のポケットは短い.前翅は暗褐色地に,後縁から中室に達する2本の白い細い帯がある.分布は北海道. 5. Epermenia (Calotripis) shimekii sp. nov. ウスチャオオササベリガ(新称) 大型で前翅長7.0-7.5mm.他の種より前翅の幅が広く,翅頂は鈎形に曲がる.森内(1982)により誤ってstrictellaとして固定された種である.外見上はヨーロッパからシベリアに分布するE. illigella (Hubner) に似るが,交尾器の特徴で区別される.Calotripis亜属に含まれる種は全て前翅後縁に鱗毛総,腹部にポケットを有する.本州に分布する. 6.Epermenia (Calotripis) ijimai sp. nov. シベチャササベリガ(新称) 前翅長6.2mm.標茶で採れた1♂により記載された種で,前翅の中央から先端部にかけて橙褐色の鱗粉があり一見ヒメササベリガに似るが,中室端に黒点をもたない.北海道に分布. 7.Epermernia (Calotripis) strictella (Wocke,1867) ハイイロオオササベリガ(新称) 前翅長6.5-7.5mmに達するわが国で最も大型の種である.前翅は細長く,灰白色地に灰黒色の鱗紛を散らし,斑紋に変異が多い.日本,韓国,ロシア,ヨーロッパ,アフリカ,カナダ,北アメリカと殆ど汎世界的分布を示す.寄主植物は,海外でセリ科のFerula属,ミツバグサ属が知られる. 8.Epermenia (Calotripis) uedai sp. nov. ニセトベラササベリガ(新称) 前翅長5.7mm.前翅は一見トベラササベリガに似るが,中室内にチョコレート褐色の縦斑があり,中室端には黒点なく,代わりに白色紋がある.沖縄に分布. 9.Epermenia (Calotripis) siniovi Gaedike, 1993 シシウドササベリガ(新称) 前翅長5.0-6.0mm,前翅は灰褐色をしているが斑紋に変異が多く,前翅基半部の灰白色のもの(普通型),中室内に黒色縦条のあるもの(黒条型),褐色の強いもの(褐色型),全体が灰黒色を帯びるもの(暗色型)があるので,斑紋のみによる同定は要注意.極東ロシアに分布.寄主植物はシシウド.日本新記録(国後島を除く). 10.Epermenia (Calotripis) muraseae Gaedike & Kuroko, 2000 トベラササベリガ(新称) 前翅長4.8-6.0mm.前翅斑紋はシシウドササベリガ(普通型)によく似ているが,中室端に明瞭な黒点をもつので区別できる.なお本種の♂交尾器aedeagus内にあるcornutusの基方の渦巻き形の構造は,他種との重要な区別点となる.三重県,和歌山県,奄美大島,沖縄に分布.幼虫はトベラの果実内に穿入し内容物を食べる. 11.Epermenia (Epermeniold) fuscomaculata sp. nov. チャマダラササベリガ(新称) 前翅長4.0-5.5mm.小型で前翅は長披針形,黄褐色をした3本の横帯(最初の帯は前縁のみ)があり,個体により横帯の間と中室端に黒点のあるものがある.屋久島,奄美大島,沖縄,台湾に分布. 12.Epermenia (Epermeniola) pseudofuscomaculata sp. nov. ニセチャマダラササベリガ(新称) 前翅長4.0-5.0mm.前種に酷似しているが,前翅には概して黒鱗の散布が多く,前翅2/3にある黒点がやや横長で白色鱗で囲まれ,さらにその外側が黒鱗で縁取られる.交尾器(雄のuncus,雌のsignum)による同定か確実である.沖縄に分布. 13.Epermenia (Epermeniola) thailandica Gaedike, 1987 ヒメササベリガ 前翅長5.5-7.0mm.前翅の基方1/3は灰白色,それより先の部分は淡黄褐色の鱗粉で覆われる.中室端の黒点は幾分横長で白色鱗で囲まれる.雄には腹部基部に発香毛を含むポケットのあるものと,無いものとがあるが,原因は不明.沖縄の個体群は小型(翅長4.0mm)で, signumの形にも僅かな差がみられる.日本(本州,九州:本島および沖縄),ロシア,タイに分布.