- 著者
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小林 三世治
黒岩 明彦
佐野 智英
高松 俊彰
辻 泰二
日置 桂子
牧野 弘志
村田 哲雄
- 出版者
- 日本保険医学会
- 雑誌
- 日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
- 巻号頁・発行日
- vol.95, pp.175-183, 1997-12-15
- 被引用文献数
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遺伝子研究会は,遺伝子検査の生命保険に及ぼす影響を研究する目的で,生命保険協会の医務委員長の諮問機関として発足し,1996年6月に「遺伝子検査と生命保険」と題した報告書をまとめた。今回,その後の動きを加え,主として,医学的危険選択からみた遺伝子検査について報告する。遺伝子異常と因果関係が比較的明瞭な単一因子遺伝子疾患について,遺伝子検査が医学的危険選択のスクリーニングとして適しているかみた場合,単一遺伝子疾患の日本における頻度や発症年齢・予後などと現在の遺伝子検査の正確さや簡便さ・コスト等と考慮すると,遺伝子検査を導入する価値は,目下のところは,小さいといわざるをえない。癌・高血圧・動脈硬化症・糖尿病などの多因子遺伝子疾患は,単一遺伝子疾患よりも,その頻度からいって,医学的危険選択の実務あるいは保険医学的には重要と思われる。しかし,今のレベルの遺伝子検査が,告知聴取や検診,血圧測定や検尿,心電図検査や血液検査,診断書等の現行の医学的危険選択より,正確さや簡便さ・コスト等を考慮すると,特に優っているとは思えない。日本人類遺伝学会(1995年)が発表した「遺伝性疾患の遺伝子診断に関するガイドライン」によれば,同意が得られれば,個人情報の守秘義務はとかれるので,遺伝子検査の結果についても,他の医学的情報と同じような取り扱いが可能と思われる。遺伝子検査と保険に関する規制問題が議論されている欧米は,国・州によりその対応は異なっている。一国(州)が遺伝子検査の使用を禁ずる規制を設けても,遺伝子疾患を心配しない人は,規制のない隣国(州)で保険申込をし,規制のある国(州)では,逆に,遺伝子疾患を危倶する人が申し込む可能性が想定され,規制がどの程度効果を発揮するか疑問が残る。遺伝子検査が将来どのように進展していくか速断できない現在,遺伝子検査に関しても,生命保険の危険選択の基本に則り,生命保険契約の締結にあたっては,「危険選択上告知すべき事項について,保険申込者が知っているならば,保険会社も知る権利がある。また,日常診療で通常行われる検査になったならば,保険診査においても,危険選択の資料を得る目的として,保険会社はその検査を採用することができる」という立場を保険会社は保持すべきと思われる。