著者
小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.237-244, 2004-09-17

保険契約者(被保険者)である訴外人が,高度障害を負っていないにもかかわらず負ったとして,被告(医師)が作成した内容虚偽の障害診断書を原告(保険会社)宛に提出し,高度障害保険金を請求し,同保険金を詐取した。この診断書を作成・交付した被告が,訴外人が高度障害を負っていないことを認識しながら,原告宛の虚偽の内容の障害診断書を作成・交付したことは,保険金詐取の幇助に当たるとして,保険金相当額につき損害賠償責任を認めた。
著者
小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.83-89, 2002-09-17
被引用文献数
2

精神障害で治療中の被保険者が墜落死。災害死ならば,普通死亡保険金に加えて傷害特約・災害割増特約に基づく保険金(災害関係保険金)が支払いとなる。一方,自殺ならば免責となる。このため,墜落死の原因を巡って裁判となった。墜落現場の様子・救急隊の記録・診療録・死体検案書等から,筆者は自殺と判断した。保険金支払に関連した自殺・災害死について,判例・約款等に基づき若干の考察を加えた。判決は自殺と認めた。
著者
小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.264-269, 2002-12-17
被引用文献数
2

てんかん治療中の被保険者(23歳女性)が寮のトイレで死亡しているところを発見された。死体検案書には「直接死因てんかん発作」と書かれていた。しかし,死亡の前日に被保険者・勤務先の養護施設に入所していた園生から受けた暴行が原因で死亡したとして,災害関係保険金の支払請求が契約者側からなされ,裁判になった。保険者側は,文献を引用しながら,てんかんによる突然死(病死)を主張した。判決は,急激かつ偶然な外来の事故に基づく死亡とはいえないとして,契約者側の訴えを斥けた。
著者
小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.175-180, 2003-06-17
被引用文献数
2

悪性新生物に罹患し,診断確定されたときに,保険金が支払われる特定疾病保障保険に平成11年9月25日(責任開始期)に加入した被保険者(35歳女性)から,乳癌に罹患したとして,支払請求があり,責任開始期後発病担保規定を巡って争われた一件。加入後の平成11年10月末に被保険者自身が右乳房のしこりに気付いた。同年11月17日に行われた定期健康診断で,右乳房のしこりを指摘され,精密検査を受けるよう指示があった。乳腺粘液癌の診断にて平成12年3月4日に右乳房切断術を受けた。これらの事実を踏まえ,「責任開始期の属する日から起算して90日以内に乳房の悪性新生物に罹患したときは保険金を支払いません」と定めた約款に基づき,保検者は不払を主張した。一審・二審とも保険者の主張を認めた。
著者
外間 之雄 小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.139-144, 1997-12-15
被引用文献数
1

1984年から1993年度新契約における早期死亡について,若干の検討を試みた。対象は84年から93年に当社に加入した診査扱の個人保険のうち契約後2年以内に支払い請求のあった早期死亡例20,459件である。男性が75.9%,女性が24.1%であった。40代が23.7%と最も多く,保険金額は3000万円以下が大部分を占めた。五大死因は,1位悪性新生物,2位不慮の事故,3位心疾患,4位自殺,5位脳血管障害の順であった。
著者
小林 三世治
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.61-66, 2003-03-17
被引用文献数
1

脳出血後に失語症および要終身介護状態になったとして高度障害保険金の請求が被保険者(62歳男性)からなされた。診療録等を精査した結果,約款に定めた失語症・要終身介護状態にはあたらないとして,保険者は高度障害保険金の支払を拒否した。争いは法廷に持ち込まれたが,保険者の勝訴で判決が確定した。
著者
前田 優 小林 三世治 真柄 俊一
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.229-237, 1990-12-15

保険診査時の血液検査の一項目としてフルクトサミン(FA)を導入した。FAは採血時の1-3週前の平均血糖濃度を反映しているといわれている。今回,糖尿病などの糖代謝異常疾患の医学的選択資料のひとつとして利用できるかを検討した。過去ならびに現在に尿糖陽性,糖尿病,およびその疑いのあった153例のうちFAが異常値を示したものは51例であった。FAとヘモグロビンA1(HbA_1)との相関係数は0.828と強い関連を認めた。尿糖(±)以上の群ではFA,HbA_1の平均値はすべて異常値を示し,尿糖(-)群でもそれぞれ17%,15%の例で異常値を示した。今日までに血糖コントロールの指標としてHbA_1の信頼性は十分確立されてきた。しかし,生命保険診査という限られた状況において,他の生化学検査と同一試験官で採血できるFAで,HbA_1と同程度の情報を得られるなら,利便性,コストの面からFAの方がメリットがあると考えられる。
著者
小林 三世治 黒岩 明彦 佐野 智英 高松 俊彰 辻 泰二 日置 桂子 牧野 弘志 村田 哲雄
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.175-183, 1997-12-15
被引用文献数
1

遺伝子研究会は,遺伝子検査の生命保険に及ぼす影響を研究する目的で,生命保険協会の医務委員長の諮問機関として発足し,1996年6月に「遺伝子検査と生命保険」と題した報告書をまとめた。今回,その後の動きを加え,主として,医学的危険選択からみた遺伝子検査について報告する。遺伝子異常と因果関係が比較的明瞭な単一因子遺伝子疾患について,遺伝子検査が医学的危険選択のスクリーニングとして適しているかみた場合,単一遺伝子疾患の日本における頻度や発症年齢・予後などと現在の遺伝子検査の正確さや簡便さ・コスト等と考慮すると,遺伝子検査を導入する価値は,目下のところは,小さいといわざるをえない。癌・高血圧・動脈硬化症・糖尿病などの多因子遺伝子疾患は,単一遺伝子疾患よりも,その頻度からいって,医学的危険選択の実務あるいは保険医学的には重要と思われる。しかし,今のレベルの遺伝子検査が,告知聴取や検診,血圧測定や検尿,心電図検査や血液検査,診断書等の現行の医学的危険選択より,正確さや簡便さ・コスト等を考慮すると,特に優っているとは思えない。日本人類遺伝学会(1995年)が発表した「遺伝性疾患の遺伝子診断に関するガイドライン」によれば,同意が得られれば,個人情報の守秘義務はとかれるので,遺伝子検査の結果についても,他の医学的情報と同じような取り扱いが可能と思われる。遺伝子検査と保険に関する規制問題が議論されている欧米は,国・州によりその対応は異なっている。一国(州)が遺伝子検査の使用を禁ずる規制を設けても,遺伝子疾患を心配しない人は,規制のない隣国(州)で保険申込をし,規制のある国(州)では,逆に,遺伝子疾患を危倶する人が申し込む可能性が想定され,規制がどの程度効果を発揮するか疑問が残る。遺伝子検査が将来どのように進展していくか速断できない現在,遺伝子検査に関しても,生命保険の危険選択の基本に則り,生命保険契約の締結にあたっては,「危険選択上告知すべき事項について,保険申込者が知っているならば,保険会社も知る権利がある。また,日常診療で通常行われる検査になったならば,保険診査においても,危険選択の資料を得る目的として,保険会社はその検査を採用することができる」という立場を保険会社は保持すべきと思われる。