- 著者
-
新中 須亮
黒崎 知博
- 出版者
- 日本臨床免疫学会
- 雑誌
- 日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.4, pp.317, 2016 (Released:2016-09-03)
我々の体は,1度出会った細菌やウイルスなどの抗原に再び出会うと,1度目よりも大量の抗体を作り出して抗原を除去する.これは1度目の免疫反応で抗原を記憶したメモリーB細胞が誘導され,2度目の侵入時により素早く反応し,抗体産生細胞に分化するためである.ウイルス,ワクチンなどの抗原が人の体内に入ると2次リンパ組織の中で胚中心が形成される.メモリーB細胞が胚中心に存在する胚中心B細胞から誘導されてくることは知られていたが,その誘導の仕組みはわかっていなかった.そこで我々は新たなマウス作製や実験システムの構築を行いこの疑問の解決に取り組んだ.その結果,メモリーB細胞は親和性成熟が十分に起こる前の胚中心B細胞から誘導されやすいことが明らかとなった.さらに,親和性が低い胚中心細胞群で転写因子Bach2遺伝子の発現レベルが優位に高いことを見出し,メモリーB細胞の分化にはBach2遺伝子が高発現していることが重要であることを明らかにした.今回得られた結果は,メモリーB細胞は胚中心B細胞の中で高い親和性を獲得できた細胞から誘導されるという概念をくつがえす結果であった.この結果から,メモリー細胞は免疫抗原に近い構造を持つ抗原にもある程度反応できる広い反応領域を残している細胞であるという可能性が示唆された.つまり,メモリー細胞には,多少変異を起こした細菌・ウイルスが2度目に侵入してきても,ある程度対応できる能力があると予想された.