著者
黒河 星子
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.525-564, 2009-05

一九五九年二月一二日、岸信介内閣によって決定された在日朝鮮人の北朝鮮帰還事業の背景には、五年以上の検討期間があった。その間の日本赤十字社と日本政府の役割をめぐっては、研究者の間で意見の相違がある。本稿では、この課題を再検討することを目的として、在日朝鮮人の帰国運動の変遷とそれに伴う帰還計画の変更を論じる。五二年の主権回復後、日本政府の方針と在日朝鮮人運動との対立は激しく、在日朝鮮人政策は限界点に達しつつあった。そのなかで、五三年の朝鮮戦争休戦協定後に浮上した北朝鮮帰還問題は、この状況にひとつの打開策を提示する。一方、在日朝鮮人の帰国運動は、運動団体の再編等を経てその目的や規模を転換してゆく。その過程で生じた帰国運動側の要求との対立は、韓国との外交問題とともに、日本政府が帰還事業を実施する上で大きな障害となった。本稿では、これらの矛盾を乗り越えて岸内閣が閣議了解に至る過程を考察する。