- 著者
-
齊藤 由香
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2020, 2020
<p><b>1,アンダルシア自治州の景観政策</b></p><p> 景観法をもたないスペイン・アンダルシア自治州では,景観政策は環境,文化,地域計画など景観との関連の深い政策領域において個別に進められきた。ゆえに,景観のとらえ方や政策的介入のあり方は分野によって大きく異なっている(齊藤,2019)。今回はとくに文化財政策にフォーカスし,景観の観点から行われている政策的介入の事例として,世界遺産「アンテケラのドルメン遺跡」(2016年7月登録)の景観マネジメントを取り上げる。この考古遺跡の有する景観的価値がどのように見出されたのか,それを可視化し社会と共有するため,どのような政策的介入が行われてきたのかを明らかにすることで,文化遺産の景観マネジメントの意義を問うことが本研究の目的である。</p><p></p><p><b>2.アンテケラのドルメン遺跡の景観的価値</b></p><p> 「アンテケラのドルメン遺跡」には,メンガ,ヴィエラ,エル・ロメラルの3つの巨石建造物に加え,2つの山が含まれる。一般に西ヨーロッパのドルメンの方向設定が天体の動きに関連付けられるのに対し,アンテケラの場合メンガとエル・ロメラルは各々,この地域の象徴的なランドマークである「恋人たちの岩山」とカルスト地形の山エル・トルカルの方向を向いている。こうした地上の自然物に向けられた独特な方向設定は,当時の人々が周辺環境をいかに認識していたのかという,彼らのコスモロジーを理解する上で重要な要素であり,世界遺産が有するべき「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」として認められた。すなわち,アンテケラのドルメン遺跡は文化財そのものだけではなく,巨石建造物と自然のモニュメントの間に構築された景観としてとらえ直すことで,その遺産的価値が再評価されたといえる。</p><p></p><p><b>3. アンテケラのドルメン遺跡に対する景観的介入</b></p><p> 世界遺産登録以前,景観の観点から行われた最初の政策的介入は,メンガ遺跡を森のように覆っていたマツの木をすべて伐採することであった(2004年)。この遺跡最大の価値であるドルメン遺跡と自然環境との関係性を可視化するためには,メンガ遺跡と「恋人たちの岩山」の間の見通し(intervisiblidad)を確保することが不可欠と考えられたからである。さらに,この遺跡が有する景観的価値を再解釈する試みとして,アンダルシア歴史遺産院と景観地域研究所の共同による調査研究が行われた(2011年)。</p><p> 世界遺産登録後は,UNESCOからの指導と要請を受けながら,とくにドルメン遺跡とその周辺の景観の保護・向上を目的としたマネジメントに主眼が置かれている。具体的には,1980年代メンガ遺跡と「恋人たちの岩山」の間に設置されたミュージアムの修景,世界遺産登録前に建設された工業団地の景観インパクトを軽減するための植栽作業,都市計画における用途地域の変更などが挙げられる。また,2019年夏からは遺跡を夜間公開し,市民にドルメン遺跡の景観的価値を体感してもらうための試みとして野外フェス「Menga Stones」を開催している。</p><p></p><p><b>文献</b></p><p> 齊藤由香 2019.スペイン・アンダルシア自治州の景観政策—自治州各省庁による施策の総合化の試み—.日本地理学会2019年春季学術大会(ポスター発表)</p>