著者
齋藤 俊浩
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的東京大学秩父演習林を含む埼玉県西部の奥秩父地域においては、1990年代からシカの個体数が増加していると推定され、過度の採食による下層植生の衰退など、森林植生に及ぼす影響は深刻である。森林の植生変化は、その森林の生態系の上に成立している自然の音環境にも影響を及ぼしている可能性があり、本研究においては、シカの個体数増加が森林生態系へ及すインパクトを、音環境を指標として捉えることを目的としている。研究方法森林のタイプ、標高別に調査地を4ヶ所設置した(調査1〜4)。調査地1、2、3では、5月〜8月にほぼ週に1回(調査地4は、月に1回)のペースで定点録音を行い、調査地1、2では、同じく週に1回、ウグイスのさえずり録音を行った。定点録音は、ステレオマイク、さえずり録音は、モノラルマイクを用い、記録媒体は、主にメモリーレコーダーを用いた。録音データは、コンピューターに取込みソナグラムを作成し、また、聞取りによって音源を確定した。これらの音声データは、これまでに構築してきたデータと比較するとともに、さえずり録音による音声データについては、さえずりの頻度や構造を比較した。研究成果本調査の録音データから、鳥類のさえずり、風の音、セミやバッタといった昆虫の発する音といった森林の音環境の構成に大きな変化はみられなかった。下層植生が衰退している調査地1、2、3においては、ウグイスの個体数の減少が示唆され、特に調査地2では、ウグイスのさえずりが確認できなくなっていた。下層植生の変化が少ない調査地4においては、ウグイスは個体数をこれまでと同様に維持していると考えられ、さえずり頻度にも変化はみられなかった。シカの個体数増加による下層植生の衰退により、営巣場所などを下層植生に依存しているウグイスが、個体数を減少させたという間接効果の可能性があり、ウグイスのさえずりという本調査地域の音環境の主要な音源に大きく影響していると考えられる。