著者
米谷 民雄 齋藤 博士
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.279-291, 2009
被引用文献数
4

1989年秋に米国で好酸球増多筋痛症候群(EMS)と呼ばれる事例が多数発生した。それが昭和電工が製造したL-トリプトファン(以後、トリプトファン)製品を多量摂取していた人に多発していることが明らかにされ、原因究明のための研究が主に日本と米国で開始された。わが国においては1990年に原因究明委員会が設置され、また、厚生科学研究班が組織された。この厚生(労働)科学研究の後半期は、今後の同様な食品中毒の発生を防止し、国民の安全な食生活に寄与することを目的として、文献調査が主に実施された。しかし、2004年度の研究課題「必須アミノ酸製品等による健康影響に関する調査研究」を最後にこの研究事業も終了し、2005年度には食品等試験検査費による調査として単年度のみ継続されたが、ついに2006年3月末をもって、16年間にわたり継続された研究事業が完全に終了となった。一方、米国で多発したEMSの症状が1981年にスペインで発生したアニリンで変性したナタネ油による有毒油症候群(TOS)に類似しており、また、EMSの原因物質候補として発見された化合物がTOSの原因物質とも関連するように思われたため、後半期の厚生(労働)科学研究の文献調査においては、EMSとTOSの両方にまたがる文献調査が行われた。筆者らは1998年から最後の8年間の研究を担当し、幕引きの場に立ちあったことから、このEMSとTOSについて、事件発生の概要と原因究明研究のあらましについて説明させていただくことにした。