著者
荻本 真美 鈴木 公美 樺島 順一郎 中里 光男 植松 洋子
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.57-62, 2012
被引用文献数
7

ベーキングパウダーを使用した菓子・パン類,ミョウバンを使用した食品として野菜加工食品,海産物などを中心とした105試料について,食品中のアルミニウム(Al)含有量調査を行った.菓子・パン類は57試料中26試料で0.01~0.37 mg/g,小麦粉調製品は6試料中3試料で0.22~0.57 mg/g,野菜加工食品は3試料すべてで0.01~0.05 mg/g,海産物は6試料中4試料で0.03~0.90 mg/g,即席めんは11試料中3試料で0.01~0.03 mg/g,春雨は4試料中3試料で0.04~0.14 mg/g,大豆は不検出,大豆加工食品は16試料中1試料で0.01 mg/gのAlが検出された(定量限界0.01 mg/g).週一度摂取すると体重16 kgの幼児のPTWIに相当するものが,菓子類2試料,小麦粉調製品2試料,くらげ1試料の5試料あった.以上の結果から,子供,特に幼児では製品や喫食量により,PTWIを超過する可能性があることが示唆された.
著者
下井 俊子 牛山 博文 観 公子 斉藤 和夫 鎌田 国広 広門 雅子
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 = Journal of the Food Hygienics Society of Japan (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.77-82, 2007-06-25
被引用文献数
5

ジャガイモ中のグリコアルカロイド(ポテトグリコアルカロイド,PGA)について,青果27品種および市販そう菜に含まれる皮付きジャガイモ31試料の含有量調査を行った.ジャガイモ青果27品種についてPGA含有量を調査した結果,品種間で差が見られた.高い値を示したのはメークインおよびシェリーであり,Mサイズ(100 g程度)のPGA含有量はそれぞれ180および320 mg/kgであった.低い値を示したのはインカレッドで,MサイズのPGA含有量は21 mg/kgであった.また,PGA含有量はどの品種でもサイズが小さいものほど高かった.市販そう菜に含まれる皮付きジャガイモについてPGA含有量を調査したところ,その値は48~350 mg/kgであった.
著者
鍋師 裕美 菊地 博之 堤 智昭 蜂須 賀暁子 松田 りえ子
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.415-418, 2013
被引用文献数
5

平成23年3月の福島第一原子力発電所事故後,牛肉から高濃度の放射性セシウムが検出されたことから,暫定規制値を上回る牛肉が市場に流通しないよう全頭検査が実施された.しかし,検査の過程で同一個体の部位間で放射性セシウム濃度が異なる例が明らかとなり,検査結果の信頼性に疑問が生じる事態となった.そこでわれわれは放射性セシウムを含む同一個体由来の5部位の肉を用いて測定部位間の放射性セシウム濃度の違いについて原因の解明を試みた.その結果,検討した3個体すべてにおいて,脂肪含量が高い部位ほど放射性セシウム濃度が低下することが判明し,部位間の放射性セシウムの濃度差が脂肪含量に起因することが明らかとなった.さらに,筋肉組織は平均して脂肪組織の7倍以上の放射性セシウムを含んでいたことから,ウシの個体検査で放射性セシウム濃度を測定する場合には,脂肪の少ない筋肉部を用いた検査が適当であると考えられた.
著者
小林 武志 長島 裕二 木村 凡 藤井 建夫
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 = Journal of the Food Hygienics Society of Japan (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.76-80, 2004-04-25
参考文献数
14

フグ毒テトロドトキシンを滅菌したぬか漬けに添加すると毒性が低下することを見いだし,この原因を明らかとするために,テトロドトキシンを添加した滅菌無機培地を弱酸性下に放置し,経時的にマウス試験を行ったところ,マウス致死活性が消失した.このことから,無機培地中にテトロドトキシンの毒性を低下させる要因があると考え,高速液体クロマトグラフィーと併用して検討したところ,培地成分の無機塩溶液を除去したとき,毒性の減少が抑制された.そこで,無機塩溶液に含まれる各成分の影響を検討したところ,ホウ酸がテトロドトキシンの毒性減少に深く関与していることが判明した.
著者
川上 宏之 天倉 吉章 堤 智昭 佐々木 久美子 池津 鮎美 稲崎 端恵 久保田 恵美 豊田 正武
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.258-263, 2010
被引用文献数
2

天然/畜養クロマグロおよび畜養ミナミマグロの赤身,中トロおよび大トロのダイオキシン類および総水銀を分析し,部位,畜養/天然および種差について検討した.検討の結果,ダイオキシン類濃度は,脂質含有量との間に正の相関が見られ,部位別濃度は赤身<中トロ<大トロであった.クロマグロは,畜養と天然産で差がなく,畜養ミナミマグロに対して約2~10倍ほど高い値を示した.総水銀濃度は,脂質含有量との間に負の相関を示し,部位別濃度は赤身>中トロ>大トロであった.畜養クロマグロの総水銀濃度は,天然産と同レベルの蓄積であったが,畜養ミナミマグロの約2~3倍高い値を示した.
著者
杉本 直樹 多田 敦子 黒柳 正典 米田 祐子 尹 永淑 功刀 彰 佐藤 恭子 山崎 壮 棚元 憲一
出版者
[日本食品衛生学会]
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.56-62, 2008 (Released:2011-07-27)

グレープフルーツ種子抽出物(grapefruit seed extract:GSE)は既存添加物名簿に収載されている天然添加物である。最近、GSEが食中毒の原因ウイルスとして重要なノロウイルスに対する不活化効果を有することが報告されて以来、食品業界で注目されている。一方、海外において、GSE中に合成殺菌剤である塩化ベンゼトニウム(BZT-Cl)または塩化ベンザルコニウム(BZK-Cl)が検出されることが報告されている。そこで、われわれは、わが国に流通しているGSE製品の実態を早急に確認するため、食品添加物(6社13製品)、化粧品配合剤(10社16製品)、GSE配合健康食品(4社5製品)および除菌・消臭スプレー(7社7製品)中のベンゼトニウム(BZT)およびベンザルコニウム(BZK)の存否についてNMRおよびLC/MSにより調査した。その結果、41製品中38製品よりBZT(食品添加物からBZT-Cl換算で最高39.1%)またはBZK(食品添加物からBZK-Cl換算で最高13.9%)が検出されたことから、わが国に流通するGSE製品の多くがBZTまたはBZKを含有している可能性が高いと考えられた。
著者
杉本 直樹 多田 敦子 黒柳 正典 米田 祐子 尹 永淑 功刀 彰 佐藤 恭子 山崎 壮 棚元 憲一
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.56-62, 2008
被引用文献数
5

グレープフルーツ種子抽出物(grapefruit seed extract: GSE)は既存添加物名簿に収載されている天然添加物である.最近,GSEが食中毒の原因ウイルスとして重要なノロウイルスに対する不活化効果を有することが報告されて以来,食品業界で注目されている.一方,海外において,GSE中に合成殺菌剤である塩化ベンゼトニウム(BZT-Cl)または塩化ベンザルコニウム(BZK-Cl)が検出されることが報告されている.そこで,われわれは,わが国に流通しているGSE製品の実態を早急に確認するため,食品添加物(6社13製品),化粧品配合剤(10社16製品),GSE配合健康食品(4社5製品)および除菌・消臭スプレー(7社7製品)中のベンゼトニウム(BZT)およびベンザルコニウム(BZK)の存否についてNMRおよびLC/MSにより調査した.その結果,41製品中38製品よりBZT(食品添加物からBZT-Cl換算で最高39.1%)またはBZK(食品添加物からBZK-Cl換算で最高13.9%)が検出されたことから,わが国に流通するGSE製品の多くがBZTまたはBZKを含有している可能性が高いと考えられた.
著者
米谷 民雄 齋藤 博士
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.279-291, 2009
被引用文献数
4

1989年秋に米国で好酸球増多筋痛症候群(EMS)と呼ばれる事例が多数発生した。それが昭和電工が製造したL-トリプトファン(以後、トリプトファン)製品を多量摂取していた人に多発していることが明らかにされ、原因究明のための研究が主に日本と米国で開始された。わが国においては1990年に原因究明委員会が設置され、また、厚生科学研究班が組織された。この厚生(労働)科学研究の後半期は、今後の同様な食品中毒の発生を防止し、国民の安全な食生活に寄与することを目的として、文献調査が主に実施された。しかし、2004年度の研究課題「必須アミノ酸製品等による健康影響に関する調査研究」を最後にこの研究事業も終了し、2005年度には食品等試験検査費による調査として単年度のみ継続されたが、ついに2006年3月末をもって、16年間にわたり継続された研究事業が完全に終了となった。一方、米国で多発したEMSの症状が1981年にスペインで発生したアニリンで変性したナタネ油による有毒油症候群(TOS)に類似しており、また、EMSの原因物質候補として発見された化合物がTOSの原因物質とも関連するように思われたため、後半期の厚生(労働)科学研究の文献調査においては、EMSとTOSの両方にまたがる文献調査が行われた。筆者らは1998年から最後の8年間の研究を担当し、幕引きの場に立ちあったことから、このEMSとTOSについて、事件発生の概要と原因究明研究のあらましについて説明させていただくことにした。
著者
谷山 茂人 相良 剛史 西尾 幸郎 黒木 亮一 浅川 学 野口 玉雄 山崎 脩平 高谷 智裕 荒川 修
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.270-277, 2009
被引用文献数
16

1990年~2008年に,長崎県,宮崎県,三重県および鹿児島県でハコフグ類の喫食による食中毒が9件発生し,13 名が中毒, うち 1 名が死亡した. このうち 2 件の原因魚種は,中毒検体の形態からハコフグ<i>Ostracion immaculatus</i> と断定された.患者は共通して横紋筋融解症を呈するなど,本中毒の症状や発症/回復/致死時間はアオブダイ中毒に酷似していた.一方,西日本沿岸で採取したハコフグ129個体とウミスズメ<i>Lactoria diaphana</i> 18個体につき,マウス試験で毒性を調べたところ,いずれも約4割の個体が急性もしくは遅延性の致死活性(0.5~2.0 MU/g)を示した.有毒個体の出現率は,両種ともに肝臓を除く内臓で最も高く,次いで筋肉,肝臓の順であった.
著者
佐藤 常雄 溝井 理子 木村 凡 藤井 建夫
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.490-494, 1995-08-05
参考文献数
8
被引用文献数
2 3

新島, 大島及び父島のくさや汁を用い, これらくさや汁中のヒスタミン (Hm) 量, Hm生成菌及びHm分解菌の存在並びにその菌種を調べた. その結果, 各くさや汁ともHm生成菌はほとんど検出されなかったこと, Hm分解菌が10<sup>4</sup>~10<sup>6</sup>cells/ml程度存在したこと, 更にpHがHm分解活性至適域であったことから, くさや汁中ではHmが蓄積されにくい環境であることが分かった. 各くさや汁のHm分解菌として <i>Alcaligenes</i> がいずれの試料からも多数認められた. しかし, くさや汁中のHm分解菌のほとんどは, くさや汁の優勢菌種ではなかった.
著者
登田 美桜 畝山 智香子 豊福 肇 森川 馨
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.105-120, 2012
被引用文献数
49

自然毒による食中毒発生リスクを効率的に低減させるためには,過去の発生状況およびリスク因子等に基づく重点的なリスク管理が必要である.本研究では,厚生労働省監修の全国食中毒事件録(平成元年~22年版)の自然毒食中毒事例を基に,わが国における中毒発生の傾向を検討した.平成元年以降の22年間を通じて自然毒食中毒の発生件数に経年的な減少傾向は見られず,発生を低減するために予防のための継続的な取り組みが必要であると考えられた.動物性および植物性いずれの自然毒においても主な原因施設は「家庭」であり,食中毒の発生状況および予防策,対応等について消費者向けの広い啓蒙・広報が重要である.また,食品の国際的な流通拡大や地球温暖化による海水温の上昇に伴い,これまで国内で食中毒が発生していない自然毒への対策も重要である.
著者
三橋 亮太 水野 壮 佐伯 真二郎 内山 昭一 吉田 誠 高松 裕希 食用昆虫科学研究会 普後 一
出版者
[日本食品衛生学会]
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.410-414, 2013 (Released:2014-05-12)

福島県では福島第一原子力発電所事故が発生してから,イナゴの放射線汚染を懸念してイナゴ食(イナゴを採集し,調理して食べること)を楽しむ人が減少した。そこで2011年,2012年に福島県各地で採取したイナゴに含まれる放射性セシウムを測定したところ,134Csと137Csの合計放射能濃度は,最高で60.6Bq/kgであり, 2012年に設定された食品中の放射性物質の新たな基準値である100Bq/kgを下回ることが示された。さらに,イナゴは一般的な調理過程を経ることによって,放射能濃度が15.8Bq/kg以下,未処理時の1/4程度まで低下することが示された。
著者
新藤 哲也 牛山 博文 観 公子 安田 和男 斉藤 和夫
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 = Journal of the Food Hygienics Society of Japan (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.277-282, 2004-10-25
被引用文献数
1 8

5種の市販ジャガイモ(メークイン,男爵,ワセシロ,レッド,パープル)中のα-ソラニンとα-チャコニンを衛生試験法に基づいて抽出,固相抽出カラムによるクリーンアップを行い,C<sub>18</sub>カラムを用いてHPLCにより分析を行った.回収率はα-ソラニンおよびα-チャコニンともに 96% と良好であり,本法における定量限界は試料1 g当たりいずれも2μgであった.ジャガイモの皮層部中のα-ソラニンとα-チャコニンはすべての試料で検出され,それらの含有量はメークイン,男爵,レッド,パープル,ワセシロの順で多かった.ジャガイモの髄質部中のα-ソラニンとα-チャコニンはメークインおよび男爵のみから検出され,その含有量はいずれも皮層部の1/10以下であった.ジャガイモを90日間室温暗所で貯蔵した場合のα-ソラニンとα-チャコニン含有量は多少の増減はあったものの5種のジャガイモのいずれの部位においても顕著な増加傾向は見られなかった.
著者
河村 葉子 辻 郁子 杉田 たき子 山田 隆
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.170-177, 1997-06-05
参考文献数
11
被引用文献数
4

ステンレス製器具及び食器からの鉄, クロム, ニッケル, 鉛及びカドミウムの溶出について検討を行った. 溶出した鉄, クロム, ニッケルにおいては, 溶出溶媒では水<4%酢酸<0.5%クエン酸, 溶出条件では室温24時間<60℃30分間<95℃30分間<沸騰2時間の順に, 溶出量が多くなった. 市販及び使用中の器具及び食器について, 4%酢酸で60℃又は95℃30分間の溶出試験を行ったところ, 新品では鉄50~1,110ppb, クロム5~28ppbの溶出が認められたが, 使用中の製品では検出頻度, 検出値ともに低く, 繰り返しの使用により溶出量が低下するものと考えられた. また, 鉛は使用中の製品1検体から検出されたが, 25ppbと微量であった. 一方, カドミウム及びニッケルはいずれの製品からも検出されなかった.
著者
久高 潤 糸数 清正 平良 勝也 仁平 稔 岡野 祥 中村 正治 岩永 節子 富永 正哉 大野 惇
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-15, 2008
被引用文献数
2 14

海ぶどうの細菌学的汚染状況を把握し,効果的な衛生対策を確立するために調査・研究を行った.沖縄県内16か所の養殖場で各生産段階や製品など11か所における腸炎ビブリオおよび海洋細菌の汚染実態調査を実施した.調査の結果,養殖海水中の海洋細菌数は,養殖により平均10<sup>3</sup>から10<sup>6</sup> cfu/mLまで増加した.一方,海ぶどうの海洋細菌数は母藻から出荷の段階,あるいは出荷7日後まで平均10<sup>7</sup> cfu/gと高い菌数で推移した.腸炎ビブリオは使用海水56%,母藻25%,製品19%から検出されたが,<i>tdh</i> は増菌液,分離株のいずれからも検出されなかった.今回の調査結果を踏まえ,今後,各養殖工程に適した具体的な消毒方法,殺菌装置の評価・改良等についてさらなる検討が必要である.
著者
伊永 隆史
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.197-204, 2010
被引用文献数
1 1

食のグローバル化に伴いさまざまな輸入食品が安価に手に入るようになったが、国内で禁止された農薬・消毒剤の使用やBSE(牛海綿状脳症)などで安全性への懸念が高まり、ここ数年消費者の国産食品指向が高まっている。植物やそれを餌とする動物の水素・酸素安定同位体比は天然水の安定同位体比を反映することが知られ、気候変動に関連した生態系解析などに用いる先行研究がいくつか報告されている。しかし、このような有機物の安定同位体比を精密測定できる質量分析法は、かつてはごく一部の先端的研究者だけが扱える特殊な測定技術とされていたが、近年の同位体比質量分析装置(IRMS)の発展普及により汎用性が高まり、食品の産地鑑別研究へ展開可能な実施環境が整いつつある。
著者
宮下 振一 貝瀬 利一
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.71-91, 2010
被引用文献数
6

ヒ素の毒性が高いことはこれまでに起こったさまざまな殺人事件や事故を通じて周知の事実となっている。すでに古代ギリシアやローマではヒ素が殺人や自殺に用いられていたと言われており、またわが国でも森永ヒ素ミルク中毒事件や和歌山毒物カレー事件などのヒ素中毒事件を経験している。その一方で、われわれが呼吸や飲食物の摂取を通じて日常的にヒ素を体内に取り込んでいることはあまり知られていない。実はわれわれは空気中に存在する超微量のヒ素や、飲食物中に種々の濃度で含まれるヒ素を無意識のうちに取り込み、これらを代謝および排泄しながら生活している。また通常の環境下で摂取されるヒ素の多くは、呼吸器や皮膚からの吸収よりもむしろ飲食物の摂取に由来することが知られている。そのため体重70kgの成人の体内には常に約7mgのヒ素が普遍的に存在すると言われている。本報では、日本人における主要なヒ素摂取源である海産物、特に他の国民と比べて多食していると考えられる海藻および魚介類に焦点を当て、含有されるヒ素の化学形態や生体への影響、ならびに生体内における代謝に関して最近の知見を交えて紹介してみたい。なお、本報では触れないヒ素の化学形態別分析法については多くの総説にまとめられているので参考にされたい。またこれまでに報告された海洋環境におけるヒ素の化学形態および動態についてはいくつかの総説にも詳しくまとめられているので参照されたい。
著者
佐々木 久美子 辰濃 隆 中村 宗知 金子 正堅 後藤 修宏 近藤 安昭 高畑 薫 三浦 嘉巳 豊田 正武
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.210-214, 2001-06-25
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

殺ダニ剤酸化フェンブタスズ(FBTO)及びシヘキサチン(CHT)の告示試験法評価のために6分析機関で共同実験を行った.玄米など6作物からのFBTO回収率の平均値は85.2~96.5%,CHTのそれは大豆を除いて83.5~89.2%であった.FBTO回収率の併行再現性及び室間再現性の相対標準偏差はそれぞれ2.3~9.4%,3.9~12.6%,CHTのそれらは3.2~6.3%,8.3~12.9%であった.検出限界は0.015~0.05&mu;g/g(FBTO),0.005~0.02&mu;g/g(CHT)であった.
著者
加藤 友香里 寺田 久屋
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.162-166, 2014
被引用文献数
4

超高速液体クロマトグラフ–タンデム型質量分析法を用いたキャッサバ製品およびシアン化合物を含有した豆類中のリナマリンの迅速で簡便な定量法を開発した.リナマリンをアセトニトリル–水(3 : 1)で抽出後,アミノ固相抽出カラムで精製し,超高速液体クロマトグラフ–タンデム型質量分析計により定量した.キャッサバに,リナマリンを10 μg/gおよび100 μg/g添加したところ,回収率は96.1%(RSD: 2.6%)および95.3%(RSD: 1.4%)であった.また,タピオカにリナマリンを1 μg/g,10 μg/gおよび100 μg/g添加したところ,回収率は81.1%(RSD: 3.3%),91.9%(RSD: 5.4%)および97.1%(RSD: 2.1%)であった.本法を適用してキャッサバ14検体,タピオカ9検体およびシアン豆4検体について実態調査を行ったところ,キャッサバは11検体から0.1~245 μg/g,タピオカは5検体から0.1~0.5 μg/g,シアン豆は全検体から4,950~5,590 μg/gのリナマリンが検出された.本法による定量下限値は0.1 μg/g,検出限界値は0.03 μg/gであった.