著者
西野 佳以 齋藤 敏之 Yoshii NISHINO Toshiyuki SAITO 京都産業大学総合生命科学部 京都産業大学総合生命科学部
出版者
京都産業大学先端科学技術研究所
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
no.13, pp.69-80, 2014-07

ストレスによる過剰な副腎皮質ホルモン(CORT)の分泌は、脳の海馬や前頭前野において神経変性や萎縮をおこし、さらに心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の脳機能障害にむすびつくと考えられている。本研究では、ストレスに起因すると思われる脳の調節系の破綻に絡む何らかの潜在性因子の一つとしての向神経性ウイルスに焦点をあて、ストレスとウイルス性脳機能障害発症との関連性を明らかにすることを目的とした。 ボルナ病ウイルス(Borna disease virus: BDV)は、動物に持続感染し運動障害、行動学的異常などの神経症状を引き起こす向神経性ウイルスである。野外では不顕性感染している動物が多く存在するが、感染動物が発症するメカニズムは明らかではない。本年度の研究では、過剰なストレスがBDV感染動物に与えられた場合の脳障害(発症)について調べるための培養細胞モデルとして、マウスの大脳皮質神経初代培養細胞を作製し、BDVを感染した後、CORTあるいはカイニン酸添加による影響について解析した。 その結果、BDV感染大脳皮質神経初代培養細胞にCORTを添加すると、神経細胞へのウイルスの拡散速度が早くなった。また、カイニン酸を添加すると、感染細胞の細胞障害率が上った。これらの結果から、CORTはBDV感染神経初代培養細胞におけるウイルス伝播性を亢進すること、カイニン酸はBDV感染神経細胞に対しより強く興奮刺激を与える可能性が示唆された。以上の結果から、BDVが持続感染している動物において過剰なストレスが与えられると、脳内のウイルス感染が広がること、ウイルス感染細胞では神経伝達物質であるカイニン酸受容体やAMPA 型グルタミン酸受容体を介するシグナル伝達が増強される可能性が示唆された。
著者
齋藤 敏之 西野 佳以 Toshiyuki SAITO Yoshii NISHINO 京都産業大学総合生命科学部 京都産業大学総合生命科学部
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 = The bulletin of the Research Institute of Advanced Technology Kyoto Sangyo University (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.93-99, 2013-07

ストレスによる過剰な副腎皮質ホルモン(CORT)分泌により、脳の海馬や前頭前野において神経変性や萎縮がおこり、さらに心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の脳機能障害にむすびつくと考えられている。近年、ストレスに起因すると思われる脳機能障害が増加していることから、その背後に脳の調節系の破綻に絡む何らかの因子が潜んでいると考えられるが、解明に至っていない。本研究では、潜在性因子の一つとしての向神経性ウイルスに焦点をあて、ストレスによる脳機能障害との関連性を明らかにすることを目的としている。 脳の中では海馬や前頭前野等に亜鉛含有神経網が存在する。これらの脳の領域がストレスにより障害や萎縮がおこる部位であることを考え合わせると、亜鉛含有神経の変化とストレスによる脳機能障害との間に何らかの因果関係があると推測される。 亜鉛含有神経網はTimm染色法により可視化できる。これまでの研究ではTimm染色プロトコールに多くの改変が加えられており、汎用性の高い、簡便なプロトコールがない。そこで、これまで報告されているTimm染色法に技術的な再検討を加え、より汎用性のある染色プロトコールの確立を目指した。マウスを用いた今回の検証では、海馬を対象とする簡便なTimm染色法を確認した。現在、向神経性ウイルスやCORTの亜鉛含有神経に対する影響を細胞レベルで解析するため、脳神経細胞の初代培養法の検証と標本の評価を進めている。