著者
西野 佳以 村上 賢 舟場 正幸
出版者
日本獸医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.517-523, 2016

ボルナ病(Borna disease)は,ヨーロッパ中東部において250年以上前から知られていた,馬や羊の神経症状を主徴とする疾患である。ボルナ病の病因は,ウイルス感染によるものであることが明らかにされ,原因ウイルスはボルナ病ウイルス(Borna disease virus: BDV)と命名された。その後,1996年にモノネガウイルス目にボルナウイルス科が新設され,2008年に鳥ボルナウイルス(Avian bornavirus)が分離されるまで,長らくBDVはボルナウイルス科を代表する唯一のウイルス種であった。近年,鳥類あるいは爬虫類からもボルナウイルス科に属するウイルスが多く分離されたことから,哺乳類ボルナウイルス,鳥類ボルナウイルス,及び爬虫類ボルナウイルスにウイルス種が細分類された。従来の典型的なBDVは哺乳類ボルナウイルスであるBorna disease virus-1(BoDV-1)に分類されている。
著者
西野 佳以 齋藤 敏之 Yoshii NISHINO Toshiyuki SAITO 京都産業大学総合生命科学部 京都産業大学総合生命科学部
出版者
京都産業大学先端科学技術研究所
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
no.13, pp.69-80, 2014-07

ストレスによる過剰な副腎皮質ホルモン(CORT)の分泌は、脳の海馬や前頭前野において神経変性や萎縮をおこし、さらに心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の脳機能障害にむすびつくと考えられている。本研究では、ストレスに起因すると思われる脳の調節系の破綻に絡む何らかの潜在性因子の一つとしての向神経性ウイルスに焦点をあて、ストレスとウイルス性脳機能障害発症との関連性を明らかにすることを目的とした。 ボルナ病ウイルス(Borna disease virus: BDV)は、動物に持続感染し運動障害、行動学的異常などの神経症状を引き起こす向神経性ウイルスである。野外では不顕性感染している動物が多く存在するが、感染動物が発症するメカニズムは明らかではない。本年度の研究では、過剰なストレスがBDV感染動物に与えられた場合の脳障害(発症)について調べるための培養細胞モデルとして、マウスの大脳皮質神経初代培養細胞を作製し、BDVを感染した後、CORTあるいはカイニン酸添加による影響について解析した。 その結果、BDV感染大脳皮質神経初代培養細胞にCORTを添加すると、神経細胞へのウイルスの拡散速度が早くなった。また、カイニン酸を添加すると、感染細胞の細胞障害率が上った。これらの結果から、CORTはBDV感染神経初代培養細胞におけるウイルス伝播性を亢進すること、カイニン酸はBDV感染神経細胞に対しより強く興奮刺激を与える可能性が示唆された。以上の結果から、BDVが持続感染している動物において過剰なストレスが与えられると、脳内のウイルス感染が広がること、ウイルス感染細胞では神経伝達物質であるカイニン酸受容体やAMPA 型グルタミン酸受容体を介するシグナル伝達が増強される可能性が示唆された。
著者
齋藤 敏之 西野 佳以 Toshiyuki SAITO Yoshii NISHINO 京都産業大学総合生命科学部 京都産業大学総合生命科学部
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 = The bulletin of the Research Institute of Advanced Technology Kyoto Sangyo University (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.93-99, 2013-07

ストレスによる過剰な副腎皮質ホルモン(CORT)分泌により、脳の海馬や前頭前野において神経変性や萎縮がおこり、さらに心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の脳機能障害にむすびつくと考えられている。近年、ストレスに起因すると思われる脳機能障害が増加していることから、その背後に脳の調節系の破綻に絡む何らかの因子が潜んでいると考えられるが、解明に至っていない。本研究では、潜在性因子の一つとしての向神経性ウイルスに焦点をあて、ストレスによる脳機能障害との関連性を明らかにすることを目的としている。 脳の中では海馬や前頭前野等に亜鉛含有神経網が存在する。これらの脳の領域がストレスにより障害や萎縮がおこる部位であることを考え合わせると、亜鉛含有神経の変化とストレスによる脳機能障害との間に何らかの因果関係があると推測される。 亜鉛含有神経網はTimm染色法により可視化できる。これまでの研究ではTimm染色プロトコールに多くの改変が加えられており、汎用性の高い、簡便なプロトコールがない。そこで、これまで報告されているTimm染色法に技術的な再検討を加え、より汎用性のある染色プロトコールの確立を目指した。マウスを用いた今回の検証では、海馬を対象とする簡便なTimm染色法を確認した。現在、向神経性ウイルスやCORTの亜鉛含有神経に対する影響を細胞レベルで解析するため、脳神経細胞の初代培養法の検証と標本の評価を進めている。
著者
生田 和良 西野 佳以 今井 光信 石原 智明 関口 定美 小野 悦郎 岸 雅彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

精神疾患の原因は明らかにされていない。現在、精神分裂病やうつ病などの精神疾患の原因として遺伝因子と環境因子の両方が関わると考えられている。本研究では、精神疾患との関連性が示唆されているボルナ病ウイルス(BDV)に関する検討を行った。これまでのドイツを中心に行われた疫学調査から、BDVはウマ、ヒツジ、ウシ、ネコ、ダチョウに自然感染し、特に、BDVに感染したウマやヒツジではその一部に脳炎を引き起こすことが明らかにされている。私達は、日本においてもドイツとほぼ同じ状況でBDVがこれらの動物に蔓延していること、さらに末梢血単核球内にBDV RNAが検出しえることを報告してきた。また、同様の検出法により、精神分裂病に加え、慢性疲労症候群においてもBDVとの関連性を認めている。しかし、献血者血液においても、これらの疾患患者に比べ低率ながら、BDV血清抗体や末梢血単核球内のBDV RNA陽性例が存在することを報告した。そこで、本研究では安全な輸血用血液の供給を目的として研究を行い、以下の結果を得た。1) 健常者由来末梢血単核球への精神分裂病患者剖検脳海馬由来BDV感染により、明らかなウイルス増殖の証拠は得られなかった。2) ヒトの血清抗体ではBDV p24に対する抗体が主に検出され、ヌクレオプロテインであるp40に対する抗体検出は稀である。同様に、ヒト由来末梢血単核球内のBDV RNA検出においても、p24 mRNAが主であり、p40 mRNAは稀である。この現象を検討するため、ラットおよびスナネズミ脳内へのBDV接種実験を行った。その結果、新生仔動物への接種ではp24抗体が主として産生され、成動物への接種ではp24とともにp40に対しても上昇することが判明した。