著者
白井 悠佑 佐々木 大樹 田中 美子 松夲 耕三
出版者
京都産業大学先端科学技術研究所
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
no.14, pp.13-29, 2015-07

2型糖尿病へのハチミツの影響を調べた研究はいくつか報告されているが、その真偽やメカニズムについてはよくわかっていない。そこで、本研究は肥満性2型糖尿病マウスを用いてハチミツが糖尿病に及ぼす影響やそのメカニズムの一端を見いだすことを目的に研究した。肥満性糖尿病マウスとしてKK-Ayマウスを使用。各グループ6~7匹になるように5つのグループ(PBS、グルコース、スクロース、ハチミツ(クリの花))にわけた。それ以降、グループ毎に体重を測定し、血糖値等を各グループ間で比較した。特に糖分として日常利用する佐藤との比較に重点をおいた。 KK-Ayマウスへの各種糖の投与により、ハチミツ群と比較してスクロース群は有意に高い体重を示した。また、各種糖類投与前に行った糖負荷試験(oral sugar tolerance test: OSTT)ではスクロース群とハチミツ群の間に有意な違いはなく、むしろ30分以降ハチミツ群はスクロース群よりも高い血糖値を示していた。しかし、投与8週間後に行ったOSTTではスクロース群はどの時点においてもハチミツ群の血糖値よりも高い値を示した。一方、血中脂肪関連物質に関しては、遊離脂肪酸、コレステロール、中性脂肪について有意差はない結果となった。各種糖投与前と投与後15分、30分の血中インスリン濃度測定では、各群ともに有意差は認められなかったが、ハチミツ群は15分血で高いインスリン値を示した。これに対し、スクロース群は有意差はないが最も低い傾向が見られた。肝臓および脂肪組織での遺伝子発現量の比較では、肝臓ではハチミツとスクロースでPBS と比較して有意な増加を示した。しかし、それ以外では各グループ間で違いは確認されなかった。 従って本研究において、KK-Ay糖尿病マウスへのハチミツ投与の影響は、スクロースの投与と比較して体重や血糖値の上昇を抑える作用のあることが確認された。即ち、糖尿病状態において、糖分として継続的砂糖投与は血糖値上昇を招くが、継続的ハチミツ投与ほとんど血糖値上昇が認められず、そのことはハチミツは砂糖に比べて、格段によい糖分であると云える。即ち、ハチミツは糖尿病に優しい糖分と云える。
著者
湯浅 愛里 田中 美子 宇野 真由奈 金森 千香 竹内 実
出版者
京都産業大学先端科学技術研究所
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 = The bulletin of the Research Institute of Advanced Technology Kyoto Sangyo University (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-12, 2017-07

外国産ハチミツによる免疫機能への影響は報告されているが、日本国産ハチミツの免疫と抗炎症作用についての詳細な解明はされていない。そこで、日本国産ハチミツとして京都産業大学産ハチミツ(京産ハチミツ)を用い、免疫細胞である肺胞マクロファージ(AM)とLipopolysaccharide(LPS)で誘導した肺炎症に対する影響について検討した。AMにLPS添加群(最終濃度10μg/ml)とLPSに京産ハチミツ添加(ハチミツ最終濃度1、10mg/ml)したHL(Honey + LPS)群を設け共培養し、炎症性サイトカインであるIL-1βとCXCL2のmRNA発現をRT-PCR法により調べた。AMのIL-1β mRNA発現比率は、LPS添加群と比較して、HL添加群のハチミツ濃度10mg/mlで有意な(p < 0.01)減少が認められた。一方、CXCL2 mRNA発現比率は、LPS添加群と比較して、HL添加群のハチミツ濃度10mg/mlで有意な(p < 0.001)減少が認められ、ハチミツに炎症性サイトカインの発現を抑制することが認められた。これらのin vitro系の結果から、LPS投与による肺炎症への影響を検討した。マウスにLPS 50 μg/ 匹を投与したLPS 群、ハチミツ10mg/ 匹を投与し24時間後にLPSを投与したHoney + LPS(HL)群について、それぞれのBAL 総細胞数を比較した。BAL総細胞数は、LPS群で有意な(p < 0.001)増加が認められたが、HL群で有意な(p < 0.05)減少が認められた。好中球の細胞比率はLPS群で有意な(p < 0.001)増加が認められたが、HL群で減少傾向が認められた。これらの結果から、京産ハチミツはAMのIL-1β、CXCL2の産生を抑制し、LPSによる好中球の肺への浸潤を抑制し、抗炎症作用を示すことが示唆された。
著者
山岸 博
出版者
京都産業大学先端科学技術研究所
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 = The bulletin of the Research Institute of Advanced Technology Kyoto Sangyo University (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-10, 2020-07-31

植物の育種においては、育種目標の高度化に伴って、実用作物に有用な遺伝形質を提供する遺伝子供給源の範囲が拡大してきた。この範囲を、作物との有性生殖によって利用できる植物よりさらに大きく広げる方法として、細胞融合が開発された。細胞融合は雑種化の範囲を拡大するだけでなく、葉緑体ゲノムとミトコンドリアゲノムの新しい組合わせを生じる等の利点を有する。本研究では、シロイヌナズナとキャベツの細胞融合によって得られた体細胞雑種を出発点として、Brassica oleracea に属するカイランを主たる花粉親に用いた連続戻し交雑の経過と、その結果得られた雄性不稔個体の特性をとりまとめた。雄性不稔はBC8 世代以降固定し、不稔の原因はシロイヌナズナとキャベツの間で組換ったミトコンドリアゲノムの構造にあると推定された。一方、体細胞雑種後代の種子稔性は、世代の経過とともに向上した。
著者
西野 佳以 齋藤 敏之 Yoshii NISHINO Toshiyuki SAITO 京都産業大学総合生命科学部 京都産業大学総合生命科学部
出版者
京都産業大学先端科学技術研究所
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
no.13, pp.69-80, 2014-07

ストレスによる過剰な副腎皮質ホルモン(CORT)の分泌は、脳の海馬や前頭前野において神経変性や萎縮をおこし、さらに心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の脳機能障害にむすびつくと考えられている。本研究では、ストレスに起因すると思われる脳の調節系の破綻に絡む何らかの潜在性因子の一つとしての向神経性ウイルスに焦点をあて、ストレスとウイルス性脳機能障害発症との関連性を明らかにすることを目的とした。 ボルナ病ウイルス(Borna disease virus: BDV)は、動物に持続感染し運動障害、行動学的異常などの神経症状を引き起こす向神経性ウイルスである。野外では不顕性感染している動物が多く存在するが、感染動物が発症するメカニズムは明らかではない。本年度の研究では、過剰なストレスがBDV感染動物に与えられた場合の脳障害(発症)について調べるための培養細胞モデルとして、マウスの大脳皮質神経初代培養細胞を作製し、BDVを感染した後、CORTあるいはカイニン酸添加による影響について解析した。 その結果、BDV感染大脳皮質神経初代培養細胞にCORTを添加すると、神経細胞へのウイルスの拡散速度が早くなった。また、カイニン酸を添加すると、感染細胞の細胞障害率が上った。これらの結果から、CORTはBDV感染神経初代培養細胞におけるウイルス伝播性を亢進すること、カイニン酸はBDV感染神経細胞に対しより強く興奮刺激を与える可能性が示唆された。以上の結果から、BDVが持続感染している動物において過剰なストレスが与えられると、脳内のウイルス感染が広がること、ウイルス感染細胞では神経伝達物質であるカイニン酸受容体やAMPA 型グルタミン酸受容体を介するシグナル伝達が増強される可能性が示唆された。
著者
高橋 純一 野村 哲郎 Jun-ichi TAKAHASHI Tetsuro NOMURA 京都産業大学総合生命科学部 京都産業大学総合生命科学部
出版者
京都産業大学先端科学技術研究所
雑誌
京都産業大学先端科学技術研究所所報 = The bulletin of the Research Institute of Advanced Technology Kyoto Sangyo University (ISSN:13473980)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.31-40, 2015-07

ミツバチ科マルハナバチに属するエゾオオマルハナバチBombus hypocrita sapporoensisは、特定外来種であるセイヨウオオマルハナバチの代替花粉交配用昆虫として注目されている。今回我われは、本種の農業利用を進めるための遺伝育種学的解析に必要なマイクロサテライトDNAマーカーの適用性を検討した。120種類のマーカーのうち、57種類が多型解析に利用できることがわかった。さらに8種類のプライマーは、マルチプレックスPCRによる同時解析が可能であることを明らかにした。これらのツールキットを利用して女王蜂の受精嚢内から単離した精子DNAの解析を行ったところ、交配雄蜂の遺伝子型を特定できることがわかった。 The Bumblebee is a eusocial Hymenoptera with an annual life cycle and is often utilized as an agricultural pollinator. We developed an polymorphic microsatellite DNA toolkit for the Japanese bumblebee Bombus hypocrita sapporoensis using multiplex PCR. At 57 of these 120 loci, high allelic variation was observed in 20 individual males. In addition to a method of spermathecae PCR, we developed 8 polymorphic microsatellite DNA toolkit for the B. h. sapporoensis. These results suggest that high-throughput genotyping method can be used to gain more information regarding breeding systems and for more deeply understanding social evolution in the B. h. sapporoensis.