著者
加藤 昭 齋藤 靖二 松原 聰
出版者
国立科学博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

本邦各地の層状マンガン鉱床産の鉱石試料中に含まれるニッケル・コバルト鉱物の同定を行った。それらのうち、三種について化学組成を決定した。又一部のゲルスドルフ鉱・輝コバルト鉱については、購入のプリセションカメラにより晶系を決定(等軸)した。最も重要な事実は、栃木県鹿島鉱山産試料中の含ニッケル黄鉄鉱(最高Ni0.46重量%)の確認、ニッケルの分布状態の把握、その成因の推定で、そのニッケルは本来テフロ石(【Mn_2】Si【O_4】)中の微量成分として含まれていたものが、そのバラ輝石(〜MnSi【O_3】)化に伴なって濃集されたものであろうという結論に達した。この結論はバラ輝石の集合中に含まれるニッケル・コバルト鉱物の成因を説明することができる。またこれらが砒素を含む場合、その砒素の根源も恐らくテフロ石にあるであろうと考えることができる。また栃木県板荷産のバラ輝石を主とする鉱石中に見出されたシーゲン鉱(【(Co,Ni)_3】【S_4】)+輝コバルト鉱((Co,Ni)AsS)の組合せではCo/(Co+Ni)比は前者中で後者より小さいことを明らかにした。なお鹿島鉱山ではテフロ石(最高NiO 0.07重量%)以外にも、チロディ内石(〜$$Mn_2$$$$Mg_5$$$〔OH|Si_4O_11〕_2$$)中に最高NiO 0.18重量%が認められた。これらの鉱物中に含まれるニッケル・コバルトの根源については、現世の深海底に堆積しつつあるマンガンノジュール様のものの生成が過去の地質時代にもおこっており、これがそれに該当するとして説明される。まずこれを構成する二酸化マンガンの鉱物がニッケル・コバルトを取り込んで結晶化しその後の中間過程は不明であるが、最終的には上述のような含ニッケル・コバルトテフロ石となり、この中ではこれらはマンガンを置換しているが、テフロ石からバラ輝石の生成や硫黄の供給などによってニッケル・コバルトは硫化物等として結晶したものである。またこれらの過程を通じて、両元素の地球化学的挙動は似通っていた。