著者
石井 佑果 鈴木 克彦 齋藤 麻梨子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0706, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 膝蓋骨亜脱臼の運動療法として内側広筋(VM)の選択的強化が必要であるとされており,大腿四頭筋セッティング(セッティング)が広く行われている。通常は背臥位または長坐位で行われているが,立位で股関節内転筋の等尺性収縮を同期したセッティングによりVMの筋活動量の増加することが報告されている。また,足関節を回内位および回外位とした立位セッティングによりVMの収縮効果が変化することが報告されているが,一定の見解が得られていない。今回,足関節回内・回外位とした立位セッティングのVM収縮効果を調べるために,他のセッティング方法での筋活動量と比較することを目的とした。【方法】 対象は,健常女性10名(年齢20.9±1.1歳)とした。セッティング課題は,1背臥位でのセッティング,2立位でのセッティング,3立位で股内転を同期したセッティング(立位ADD),4足関節回外位の立位で股内転を同期したセッティング(立位ADD+EXT),5足関節回内位の立位で股内転を同期したセッティング(立位ADD+INT)の5条件とした。全ての課題は,膝関節30°屈曲位を開始肢位とし膝伸展および股内転の3秒間の最大等尺性収縮を3回行うこととした。3~5の課題で行う股内転には直径15 cmのボールを使用した。4,5の課題は傾斜角10°の楔状板の上に足底を置いて行った。なお,課題間には少なくとも3分間の休憩時間を設定した。筋活動はVM,大腿直筋(RF),外側広筋(VL),大内転筋(AM)から表面筋電図を記録した。筋電図波形は全波整流後100ミリ秒で移動平均処理を行い,3秒内の最大値を計測し,3回の平均を測定値とした。課題1の測定値を100%として正規化し,2~5の課題間,課題内の各筋活動量の比較,VM/VL,VM/RF,VL/RFの比率を各課題間で比較した。被験者情報として,膝関節伸展角度,Q-angle,Laxity testを事前に計測した。統計はShapiro-Wilk検定後,課題間および課題内の筋活動量,比率の差の検定を反復測定分散分析および多重比較検定,Pearsonの相関を用いて行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の目的と方法を十分説明し,参加の同意を得たうえで行い,被験者には不利益が生じないよう配慮した。【結果】 背臥位SETに対する3つの立位セッティングにおいて,RF,VL,VMの筋活動量は課題間で差はみられなかった。AMの筋活動量は立位ADD+EXTが最も高値を示し(p<0.01),VMとAMの間に正の相関(r=0.838)が示された(p<0.01)。課題間でのVM/VL,VM/RF,VL/RFの比率には差はみられなかったが,VM/VL比,VM/RF比が立位ADD,立位ADD+EXTで高値を示す傾向がみられた。【考察】 立位セッティングにおいてVMの筋活動量はRFに比べ有意に低値を示した。しかし,股内転を同期させた他の3課題ではRFとVMの筋活動量に差は認められなくなり,VM/VL比、VM/RF比が立位セッティングに比べて他の3課題で高値を示す傾向がみられた。VMは斜頭と長頭に分岐し斜頭はAMと連続性があり,AMの収縮によりVMの筋収縮を増大させたと推察する。今回,立位ADD+INTが立位セッティングの中でVMの収縮が低下する傾向を示した。それは,足関節回内位の足底接地では膝関節外反応力が増大し,Q-angleを増加させることが報告されており,立位ADD+INTによりQ-angleの増大に作用し,RFとVLの筋活動が優位となり,VM活動量,VM/VL比,VM/RF比が低値を示したと考える。今回,立位ADD+EXTのみVMとAMの筋活動量に正の相関を認め,AMの筋活動量が高値を示す傾向がみられた。これは,Hodgesら,Hantenらが報告している,AMの筋放電が大きくなるに従いVM/VL比が増大する内容と一致しているといえる。以上より,足関節回外位で股内転筋を同時収縮させる立位セッティングが,VMを選択的にトレーニングできる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 膝蓋骨亜脱臼だけでなく,膝関節靭帯損傷,変形性膝関節症などにおいても内側広筋の筋萎縮,筋力低下に陥る症例があり,大腿四頭筋セッティングは運動療法の中で広く応用されている。立位でのセッティングはCKCトレーニングとして有用であり,立位セッティングとして内転筋同時収縮,加えて足関節を回外位とする方法の有効性を示すことができた。