著者
斎藤 進 AGRAWAL Santosh AGRAWAL Santosh
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

金属錯体触媒を用いるカルボン酸の触媒的水素化法の例はこれまでほぼ皆無問いってよい. 不均一系金属触媒を用いる方法が一般的だが, 高温・高H_2圧を必要とし副反応を伴う. Re^0/Mo^0などの異核金属クラスター触媒を用いる方法では, 芳香環も水素化されてしまうため官能基選択性に乏しい. カルボン酸の水素化が難しいのは, カルボン酸自身が酸であることが一因としてあげられる。一般的にアミドやエステルなど, 不活性カルボニル化合物の水素化は「塩基性」条件下で行われた場合に効果的である場合が多い. カルボン酸自体が提供する「酸性」条件下での水素化の一般的な指導原理が実質的にはないためであると考えられる. 今回新しい考え方として塩基性条件での反応にならないよう, ルイス酸性をもつ「高原子価」遷移金属錯体の利用を考えた。そこで様々な高原子価Re(レニウム)錯体(IReO_2(PPh_3)_2, Cl_3Re(MeCN)(PPh_3)_2など)を触媒前駆体として検討した. これらRe錯体とアルカリ金属塩基以外の添加物(塩基性が非常に低い, イオン性の高いアルカリ金属塩)と様々な多座リン系, 多座アミン系配位子を組み合わせて反応を行った. 高原子価の遷移金属を, よりカチオン性にすれば, より酸性の反応条件を提供できる, と予測した. その結果, ある種の多座リン系配位子とその配位子の誘導体群が、多価Re錯体を用いるカルボン酸の水素化に有効であることを発見した. ある反応条件下(水素圧p^<H2>=1-8MPa, 反応温度T=120~180℃程度)で, Re錯体前駆体(1-2mol%程度)とアルカリ金属塩添加物(~10mol%程度)を用いることにより, より活性の高い分子触媒の形成に基づくカルボン酸の触媒的水素化に成功した。本成果も含めて最終的にはH24年度1件, H25年度2件, 計3件の特許出願にっながった.