著者
寺本 明子 Akiko TERAMOTO
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.163-171, 2010-09

ヴィクトリア時代の上層中流階級の子どもとして育ったビアトリクス・ポターは,家庭教師がその教育を受け持ち,学校に行かなかった為,同年代の友達もいない生活であった。その様な寂しい暮らしの中で,絵を描き,小動物と触れ合い,ロンドン郊外の祖父母の家や,家族で行く避暑地の自然に心惹かれ,後に動物が主人公のファンタジーを生み出すこととなる。独立心旺盛なピーター・ラビット等,数々の動物を童話の主人公として描き出した。ピーターには,制限された実生活で彼女が成し得なかったことを託したものと思われる。ポターの絵は,博物学者の正確な観察力を見せ,動物達があたかも人間模様を描くかの様な文章と補い合って,珠玉の名品を生み出した。1890年にポターは,ウサギを描いた自分の絵を出版社に売ることに成功し,自信を得て,童話を出版することを思い付いた。その後,次々成功する出版の利益は,彼女が愛した湖水地方の土地を買うことに充てられ,ナショナル・トラスト運動の創始者の一人,ハードウィック・ローンズリーの影響もあり,自然保護運動の協力者として大いに貢献した。47歳で結婚してからは,作家活動から遠のき,羊を育てながら,農民として暮らした。動物や周囲の自然を描く作家としての生涯を経て,彼女は,農民として,自然保護者として生きる理想を実現した。
著者
寺本 明子 Akiko TERAMOTO 東京農業大学応用生物科学部教養分野 Foreign language studies(English) Faculty of Applied Bio-Science Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.368-377,

英国が,進歩と繁栄の時代として誇るヴィクトリア朝は,一方で,工場の生産性至上主義,子供の奴隷,貧困者からの搾取の時代でもあった。そして当然のことながら,次の四半世紀にかけて,良い面を伝えるだけでなく,暗い影も落とした。当時の英国の知識人達は,社会にとって有害なこうした負の性質に恐れを抱いたが,そのうちの一人が,同郷のオスカー・ワイルドより2歳下の,ダブリン出身のジョージ・バーナード・ショーであった。ショーは,彼のやり方,つまり劇作を通して,社会を改良したいと強く願っていた。彼がギリシャ神話から題材を取り,1912年に書いた『ピグマリオン』は,そうした作品の一つである。主人公は,ロンドンの花売り娘イライザ・ドゥーリトルで,音声学者ヒギンズ教授の指導で,上品なレディーに変身する。この劇は,英国の階級社会への風刺であるように言われるが,私は,男女の性質の差に関するショーの見方を表すものと考える。『ピグマリオン』の登場人物を分析し,彼等を二つのタイプに分けることにする。一つは,ヒギンズ教授(敵役),ピッカリング大佐,アルフレッド・ドゥーリトル(イライザの父親)を含む男性のグループで,もう一つは,イライザ,ヒギンズ夫人,ピアス夫人(家政婦)を含む女性グループである。前者は,仕事や階級を表し,競争や独立独行を象徴する。後者は,協力的でありながら,それぞれ個を確立している。ショーは何を我々に教えているのだろうか。彼は,「偉大な芸術は,社会改良の情熱を持ち教訓的でなくてはならない」と考えていた。この論文では,ドラマツルギーの一つの要素である演繹法を解明することによって,『ピグマリオン』におけるショーのメッセージに迫った。The Victorian Age in England, so often boasted of as an age of progress and prosperity, was also an age of factories, of child slavery, and of exploitation of the poor, which was naturally followed not just by positive phases but by negative ones in the country over the first quarter of the next century. In those days the English intelligentsia was afraid of negative qualities which were harmful to society. Among them was George Bernard SHAW from Dublin, two years junior to Oscar WILDE. SHAW strongly desired to reform society in his own way, through his ability as a dramatist. One of his best examples was Pygmalion, written in 1912, whose title was taken from an old Greek myth. Its protagonist is Eliza Doolittle, who is transformed from a London street vendor who hawks flowers into a charming lady by Professor Higgins, a phonetician. Many have said that the play presents a satirical view of the English class system ; however, I see the play as an expression of SHAW's view of the gender gap. Analyzing the characters of Pygmalion, I divide them into two types : the male group which includes Professor Higgins (an antagonist), Colonel Pickering and Alfred Doolittle (Eliza's father), and the female group which includes Eliza, Mrs Higgins and Mrs Pearce (housekeeper). The male group represents a profession or class and symbolizes competition and self-dependence. The female group indicates individuality combined with a cooperative nature. What does SHAW teach us? He says that great art must be didactic with a passion for reforming the world. I clarify his messages in Pygmalion by elucidating his deductive style, an element of dramaturgy.