著者
新谷 周平 アラヤ シュウヘイ Araya Shuhei
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.143-150, 2011-03

実証研究の成果が,社会への移行の困難やそこに見られる格差等の社会問題の改善に結びついているようには思われない。研究が正しいデータを提供すれば,政治・行政がそれを採用して実効性のある政策を立てるという想定自体が,この社会の根底的な課題を覆い隠しているのではないか。それは,グローバルな生産性の増大と「社会的なるもの」の不在であり,それらは,経済,政治,教育,研究など諸システムのこれまでの自己創出では解決できない位置にある。研究が一方的に社会に影響を与えることはできないが,人々の間に信頼のコミュニケーションを生み出し「社会的なるもの」を構築していかない限り,この社会の問題は解決しない。それゆえ,研究は,研究内部の自己創出だけでなく,諸システムの自己創出とその連関を観察した上で,「社会的なるもの」の構築に結びつくコミュニケーションを生み出していかなければならない。