- 著者
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細田 亜津子
Atsuko HOSODA
- 出版者
- 長崎国際大学
- 雑誌
- 長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.161-172, 2013
東日本大震災から一年余経過し、被災文化財の状況が解明されてきた。国指定および選定、県指定、登録されている文化財の被災状況は744件であった。これは、未指定文化財と東京電力福島第一原子力発電所の事故による立ち入り制限の文化財をのぞくものである。また、地形の変化による遺跡などへの影響についてはまだ解明されていない。1995年の阪神淡路大震災の被災文化財の調査と修復の経験は、東日本大震災で文化財レスキュー事業、文化財ドクター派遣事業などとして施行された。行政と民間のレスキューは阪神・淡路大震災の経験をいかし、流出した多くの古文書、資料、民俗文化財などを救出した。しかしこれまでとは比較にならない震災の規模で、多くの文化財を失った。この経験は、平時の文化財所有調査を継続して行っていくこと、データ化しそれを多くの機関に保管することなどとして提起されている。この経験と蓄積は、ハーグ条約で文化財を尊重し、緊急時の文化財保存の定義に通じるものである。世界の紛争、テロ、自然災害などに対処するためハーグ条約第二議定書が採択された。日本は平成19年(2007年)に締約した。条約で重視しているのは平時の文化財保存、緊急避難の準備などである。東日本大震災の被災文化財救出の経験は、ハーグ条約に合致し、世界の指針となり、継続して実行することが被災地の復興にもつながるのである。