著者
小坂 智子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.83-86, 2004-01-31

長崎の平和公園に設置されている、北村西望作《平和祈念像》は、公共空間におかれている彫刻作品のはらむ諸問題を様々に指し示している。この研究ノートではその問題を整理し、いくつかの考え方を提示することを試みた。
著者
中村 敏秀
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.113-126, 2003-01-31
被引用文献数
1

本稿では知的障害者の地域移行の前提として、知的障害者更生施設の援助実態と施設援助を規定する要因について検討の必要性を提起した。それは地域移行の先駆けとなったアメリカやスウェーデンに生起した、施設の管理抑圧的な援助が地域生活援助に持ち込まれる危険性を無視しえないからである。このため全国の知的障害者更生施設の援助に関する予備調査をし、施設援助の規定要因として援助環境、利用者の自由裁量度、援助水準、職場満足度の4つの規定要因を抽出しえた。今後、この調査結果に本調査を実施する予定である。
著者
小林 徹
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.67-77, 2002-01-31

1994年9月下旬に岐阜県八尾津において,杉原千畝(1941年リトアニア日本外務省職員として勤務中,ユダヤ難民に日本通過ビザを発行して避難の手助けをした人物として知られる)の業績を讃える式典が挙行された。参加者の中には日系元米兵及び救出されたユダヤ人や子孫が含まれており,その式典に著者も参加する機会を得て,以来7年間にわたり日系米人(多くは二世の世代)との交流を通じて様々な歴史的知見を得ることができた。本論は小林がまとめた日系米人年表である。第2次大戦後の日米関係の改善にあたって,二世,三世を中心とする日系米人の果たした力の源泉をこの年表からくみとっていただけたら幸いである。若干のまとめは年表の末尾に記述する。
著者
箕輪 憲吾 Kengo MINOWA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.33-43, 2009

本研究の目的は、九州大学女子バレーボールリーグ戦を対象として、リーグ戦の成績に影響を与えている要因を明らかにすることであった。研究対象は、2003年度に行われた春季九州大学女子バレーボール2部リーグ戦5試合、10セットと2003年度秋季九州大学女子バレーボール1部リーグ戦7試合、27セットであり、すべて NK チームとの試合であった。本研究では、1部リーグの上位グループと下位グループおよび2部リーグに分類して分析を行った。主な結果は以下の通りである。1)リーグ戦のレベル差については、1部リーグ下位グループ(TL-LG)と2部リーグ(SL)のレベル差の方が1部リーグの上位グループ(TL-HG)と下位グループ(TL-LG)の差と比較して大きいことが明らかになった。2)リーグの成績によってサイドアウト能力とサービスキープ能力にレベル差があることが明らかになった。3)1部リーグの上位グループ(TL-HG)と下位グループ(TL-LG)の差は、攻撃力よりも守備力にあることが明らかになった。4)1部リーグの下位グループ(TL-LG)と2部リーグ(SL)の差はトランジッションよりもサーブレシーブからの攻撃の方が大きいことが明らかになった。The purpose of this study was to clarify factors that affected the results of the games in Kyushu University Women's Volleyball League. Samples were taken to observe from 10 sets of 5 games in the 2003 Spring Kyushu University Women's Volleyball Second League, and 27 sets of 7 games in the 2003 Fall Kyushu University Women's Volleyball Top League,all of which were fought against the NK University women's volleyball team. In this study, I classified them into the higher group(TL-HG)and the lower group(TL-LG)of the top league, and the second league(SL)group in analysis. Main findings were as follows:1)It was clarified that the level difference between the TL-LG teams and SL teams was larger than that between the TL-HG teams and TL-LG teams. 2)It was clarified that there were level difference in the side-out ability and the service-keep ability by the results of the league. 3)It was clarified that, between the TL-HG teams and TL-LG teams, there was more difference in defensive skill than in attack power. 4)It was clarified that, between the TL-LG teams and SL teams, there was more difference in service-reception attack than in transition attack.
著者
嶋内 麻佐子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-25, 2005-01-31

大名茶の完成は遠州、そして石州は新たな大名茶を構築したとみるべきであろう。幕藩体制の熟覧期に、石州の茶は柳営茶湯と称されるに至った。織部、遠州の茶湯とどう違うのか。石州の生い立ち、茶湯の経歴、更には侘び茶を基本とする千利休と石州の比較、大名茶として時代の要請を背景としながら、独自の茶風をつくり上げていく石州の茶への一考察である。
著者
立平 進
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.33-42, 2004-01-31

今から二千数百年前、中国大陸から直接、あるいは朝鮮半島を経由して日本列島にかなりの数の人々が渡来して来た。弥生時代が始まる頃のことである。日本文化の起源をこの時期に求める研究者は多く、それ以前の縄文文化とどのように日本文化をつくりあげてきたのか、根強い論争が続いでいる。いろいろな分野の研究者が諸説を展開して、夢とロマンに充ち溢れた研究領域ともいえる。筆者も、民俗学・民具学の研究を志す者として、歴史文化学の学際的研究から親近感をもって眺めてきた。近年、東シナ海の海流を知ることにより、「文化を運ぶ海流」として、九州が東アジアでどのような立場にあったのか、を考えている。本稿では、いくつかの実例を示しながら、文化の伝播について考えてみたのであるが、主体は徐福の東渡について取り上げた。日本国内には、徐福にまつわる伝説の地が30箇所以上もあるといわれ、佐賀市金立の徐福長寿館では、日本各地の徐福伝説の地として、21箇所を表示している。徐福の東渡については、中国の歴史書『史記』に記されている。中国思想史研究の福永光司によると徐福の東渡は歴史的な事実であると断言しているのである。さらに「徐福の出航は、文献実証学の立場から高い信憑性を持つ史書の記述によって検討考察するかぎり、その時期はわが国における弥生式文化の開始時期とほぼ重なり合う前三世紀の頃-正確には秦の始皇帝の即位二十八年目(B.C.219)後の数年間-であり、」と記す。これを東シナ海の海流の動きから見ると、どのような解釈ができるのか、ということを試みたものである。その結果、考古学的な成果と考え合わせて、ずれが生じていることも確認できるのであるが、伝説に歴史と考古学的な成果とを取り混ぜての論考で、学際的な試みとして、理解を得たいとするものである。
著者
嶋内 麻佐子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.79-85, 2002-01-31

武家茶には,その時代の要請が強く反映されている。古田織部によって武家相応の茶の湯が出来上がってゆくが,まだ完成の域には達していない。その弟子である小堀遠州は,大名達の要請を意識しながら,優雅さの中に佗びを表現するという独自の武家茶を完成した。その遠州の茶について考察してみた。
著者
黒山 竜太 益田 仁 柳詰 慎一 脇野 幸太郎 Ryuta KUROYAMA Jin MASUDA Shinichi YANAZUME Kotaro WAKINO
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.89-95, 2013

本研究は、救護施設における現状を踏まえた上で、利用者と施設職員にどのような心理的ニーズがあるのかを探索することを目的としたものである。救護施設の現状としては、社会情勢が揺れ動く中生活保護法のうえに成り立つ救護施設において、利用者の自立支援を促すためには様々な阻害要因が横たわっていることが窺えた。施設利用者については、その背景的要因を踏まえた上での心理的支援、とりわけ個別支援計画の作成や地域生活移行における心理的支援の必要性が示唆された。施設職員については、福祉施設全般としてメンタルヘルスへの啓発や職務に対する客観的理解および裁量度、利用者についての理解、チームでの相互の意思確認などの重要性が示唆された一方、救護施設自体の特性を考慮した上での支援については検討の余地が残されていることも明らかとなり、今後の課題が示された。This report considered the present state of public assistance institutions and the psychological needs of the people in such facilities. Now, public assistance institutions exist under the Livelihood Protection Law. Therefore, it was understood that people's self-reliance is checked by various factors. For people in facilities, it was suggested that the psychological supports based on a background factor is necessary. Especially, it was suggested that the psychological supports on designing individual support programs and the relocation from residential institutions to community living are necessary. Otherwise, for workers in facilities, it was suggested that mental-health education and objective understanding for their own jobs and the degree of discretion of their jobs and understanding about people in facilities and mutual intentions check in a team are important in all over social welfare institutions. On the other hand, it was indicated that the discussion about the support of public assistance in stitutions is insufficient. Future research topics are shown.
著者
孫 勝強
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.123-133, 2004-01-31

1987年にはじめて中国の故宮、万里の長城などがユネスコの「世界遺産リスト」に登録されて「世界遺産」となってから、現時点で(2003年10月現在)文化遺産と自然遺産は全部で29力所となった。筆者は10年前から毎年これらの世界遺産を訪ね歩いてきた。盧山、武当山、承徳、平遥古城及び今年新しく加わった雲南省の三江併流など三ケ所を除いてすべて訪ねた。中には敦煌の旅は四、五回を超えたが、その中で、去年の夏休みに始めて訪ねたチベット・ラサの旅は一年経った今も鮮明に脳裏に焼きつけられて忘れることができない体験であった。チベット語で「神の土地」、日照時間が長いことから「太陽の町」とも呼ばれているラサは、私はいつか行こうと心に決めていたが、そのいつかがようやく実現できたのは2002年の8月だった。それまでに憧れのラサへ行きたいと思ったことが何回かあったが、高山病のことを考えて見合わせた。トレーニングのつもりで、三年前に標高3, 200メートルのシャングリラと呼ばれている中甸を訪問した。二、三日滞在して白水台や松賛林寺などあちこち走り回ったが、何ともなかったので一応自信がついた。続いて二年前の夏に家族と一緒に世界遺産の麗江の玉龍雪山に登った。ロープウエィーのゴンドラで、標高4, 500メートルの地点まで行って、それから一時間半ぐらいかけて4, 900メートルの展望台に登りつめて30分ぐらい写真とビデオを撮ったりした後、下山した。今度も大丈夫だった。この体験でチベットへの旅の決心がついた。断っておくが、この文章は論文でも調査報告でもなく、ただ、私の体験を伝えることが出来れば幸いである。旅行中に日記をつけたので、旅行日記の形で書くことにした。
著者
平井 美津子 Mitsuko HIRAI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-9, 2013

ラテン語は現在、死語といわれている。しかし今も英語、特に自然科学分野の書物や文献の中で生き続けている。英語の多くは古典語、すなわち古典ギリシャ語やラテン語に由来しているといわれている。今回、まずラテン語の歴史および学術用語の構造について概説した。そして、自然科学分野の英単語に多く残っているラテン語由来の英語の不規則な複数形を取り上げ、英語への導入年代を調べた。その結果、多くの不規則な複数形は、ラテン語の主格名詞の複数由来で、16~17世紀に英語に導入されたものであることがわかった。18世紀には英語の文法が確立し、国際語として英語が拡大するのに伴い、ラテン語の影響力は衰えていった。
著者
立平 進
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.91-99, 2002-01-31

遠く,故郷を離れて,海を旅する人たちがいた。沖縄糸満の漁師たちは,黒潮に乗って高知県・三重県・千葉県沖へと出漁し,九州の西海岸沿いには対馬暖流で長崎県五島列島・対馬などへ出漁している。また,それとは別に,海外へは,台湾を経て,東南アジア・フィリピン諸島・ボルネオ・セレベス・マレー半島・スマトラへと出漁している。それが昭和20年の終戦を期にすべて終決したのである。本稿では,その中の一地域である,長崎県の沿岸域について記すことになる。そのきっかけとなったのは,糸満漁民の足跡とでもいうべき,ある行動の軌跡を文化財調査の折に確認したことからである。あるモノとは,沖縄糸満の漁師が,ビロウ樹の若芽を,追い込み漁のオドシとして使用するため,これを剥ぎ取るとき,ビロウ樹の幹に登った足跡が残されていたのである。足跡といっても,幹に登るための足掛かりとなる段々(決り込み)を付けたものであるが,それが漁民の移動を証明するものであることは一目瞭然であった。この足跡の主を求めて沖縄糸満の調査を実施したのである。筆者らが行なう民俗学的な調査では,聞き取り調査が主たる手段になるが,このように物証として残る場合はまれで,筆者にとっては衝撃的なできごとであった。結果的には,平戸の阿値賀島に上陸した人の証言を得ることができたため,聞き取り(伝承)と物証が一致したのである。
著者
安部 直樹
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.13-22, 2007

中国より渡来した茶は、僧侶、公家、武士等に広まっていき、やがて足利、織田、豊臣らの大名によって茶道として定着していくのであるが、公家の茶、町人茶、大名茶はその理念、形態等に多少の違いがある。更に織田信長、豊臣秀吉の茶と織部、遠州、石州等の茶道にも若干の相違がある。ヘウケモノとしての古田織部、綺麗さびを特徴とした小堀遠州、武士のあつまりである分相応の茶の片桐石州、この3人の茶道をとりあげ大名茶としての理念にせまってみた。
著者
中野 はるみ
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.55-64, 2006

留学生の大衆化が進行するというグローバルな世界のなかで、留学生を受入れる日本人の姿勢と政策が試されている。元来好奇心旺盛な日本人が、前世紀のしがらみから抜け出し、異文化に対する寛容性を育むためには留学生との接触場面を多く作りだすことが肝要だろう。そうした接触場面の増加が留学生と日本人の双方にとってポジティブな異文化間の学習効果を挙げ、21世紀の共生に役立つのである。
著者
友池 敏雄 Toshio TOMOIKE
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.173-183, 2013

2011年の東日本大震災は、地震や津波および原子力発電所爆発事故まで引き起こしたため、この被災地からでる"ガレキ"は、放射能汚染と結びついて受けとめられた2)。国からの広域処理の要請で、受け入れの検討が行われた長崎市においては、同市内の被爆者団体は意見が分かれることもあった4)が、受入反対の意思表示を行なった3)5)。そこで、部分的ではあるが市民の意向を一定の範囲で把握すべく、一部長崎市民を対象に調査したところ、統計学的に有意差を見出せなかったが、"震災ガレキ"を長崎で受け入れるべきだとする人は78.49%存在していた。その中で、特に50~69歳代者には、積極的な受け入れ姿勢がみられた。40歳代や70歳代者も受け入れ姿勢は高く見られたものの、難色や拒否する人は他の年代者よりも2~3倍存在していた。これは、自らの子や孫への放射能による影響不安があったがためと考えられた。70歳代者は受け入れ拒否は低かったが、積極的でもなく中位だった。放射能からの影響不安では80歳代者も高かったため、高齢になるほど変化や不安から遠ざかり安泰な生活を望む傾向から来ていると推察された。しかし、もう一つの視点である、被爆者と一般市民との"ガレキ"受け入れ意識の差は見られなかった。尚、2012年7月26日、長崎市長は、"ガレキ"の受け入れの検討作業を中止すると発表した6)。
著者
細田 亜津子 Atsuko HOSODA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.161-172, 2013

東日本大震災から一年余経過し、被災文化財の状況が解明されてきた。国指定および選定、県指定、登録されている文化財の被災状況は744件であった。これは、未指定文化財と東京電力福島第一原子力発電所の事故による立ち入り制限の文化財をのぞくものである。また、地形の変化による遺跡などへの影響についてはまだ解明されていない。1995年の阪神淡路大震災の被災文化財の調査と修復の経験は、東日本大震災で文化財レスキュー事業、文化財ドクター派遣事業などとして施行された。行政と民間のレスキューは阪神・淡路大震災の経験をいかし、流出した多くの古文書、資料、民俗文化財などを救出した。しかしこれまでとは比較にならない震災の規模で、多くの文化財を失った。この経験は、平時の文化財所有調査を継続して行っていくこと、データ化しそれを多くの機関に保管することなどとして提起されている。この経験と蓄積は、ハーグ条約で文化財を尊重し、緊急時の文化財保存の定義に通じるものである。世界の紛争、テロ、自然災害などに対処するためハーグ条約第二議定書が採択された。日本は平成19年(2007年)に締約した。条約で重視しているのは平時の文化財保存、緊急避難の準備などである。東日本大震災の被災文化財救出の経験は、ハーグ条約に合致し、世界の指針となり、継続して実行することが被災地の復興にもつながるのである。
著者
立平 進
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.37-44, 2005

筆者は、「海を旅する人たち」のテーマで、いくつかの論考を記してきた。海を旅する人たちとは、決して楽な旅ではなく、旅の経緯が比較的不明なものが多く、名も無き人々や、記録に残らないような人たちの旅を記してきたつもりである。漁民は、その中心的な存在であるといえる。本稿では、瀬戸内海漁民の移動について、山口県熊毛郡平尾町佐合島の漁民が、対馬の峰町志多賀に出漁してきていたことを記したものであるが、これを聞き取り調査で明らかにすることができたため、漁民の移動の軌跡として記録したものである。近代になって、瀬戸内海漁民が長崎県の近海に出漁してくる経緯について、江戸時代からの歴史的な経緯もあったが、対馬に「各地ノ漁夫群来シテ種々ノ漁業ヲ営メリ」(下啓介、本文注2)と記されるように、遠くから好漁場であった西海地域に各地の漁師が出漁してくる背景についても考察したものである。また、長崎県の漁民が離島へ出漁していく経緯について、民俗学的な調査により明らかにされたものを、旅の歴史・庶民の交流の歴史として提示したものである。
著者
Du Xiao-Ming 正山 征洋 Xiao-Ming DU Yukihiro SHOYAMA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.119-130, 2011

本総説において以下の知見を得たのでこれらについて述べる。1)マウスを用いた金線連の薬理活性、特に肝障害改善作用について検討した。2)ボランテイアによる脂質関連障害の改善傾向を認めた。3)金線連の粗エキスから脂質代謝改善作用を指標として kinsenoside を単離し、本化合物が活性本体であることを明らかにした。ラン科に属する金線連(Anoectochilus formosanus Hayata)は台湾から沖縄にかけて自生しており、高血圧、肺障害、肝障害、小児の発育障害等に用いられてきた。原料の枯渇から金線連の近縁種が代用として用いられるようになってきた。かかる現状から研究材料を確保する目的で、金線連の完熟種子を培地へ無菌的に播種し、発芽後幼植物を得た。このものを液体培地で培養し、植物体を得て実験材料とした。金線連のエキスは四塩化炭素で誘導する肝細胞障害を抑制することが判明した。また、マウスの体重増加や肝重量増加を抑制した。さらにマウスの肝臓や血清中の脂質を低下させる作用が認められた。ボランテイアによる金線連エキスの臨床試験の結果、健常者には作用しないが、脂質やコレステロール、またその両者が高い患者に対しては VLDL や LDL、ALT、AST 値を下げることが明らかとなった。培養金線連を抽出しカラムクロマトにて成分の精製単離を行い、8種の化合物を単離し構造を明らかにした。その中で量的にも多い kinsenoside についてはX-線解析を行い、絶対構造を明らかにした。金線連エキスにつき脂質代謝を指標として分画を行い、kinsenoside がその活性本体であることを明らかにした。Kinsenoside を金線連エキス同様の評価系にて評価した結果、肝臓や子宮の脂質量低下作用があることが明らかとなった。脂肪肝を発症させたマウスに kinsenoside を与えて顕微鏡により調査した結果、0.2%の kinsenoside を与えることにより脂肪肝は改善されることが明らかとなった。
著者
黒山 竜太 下田 芳幸 Ryuta KUROYAMA Yoshiyuki SHIMODA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.13-20, 2010

本研究では、大学生の感じるストレスに対してストレスコーピングのあり方がどのように関連しているか、特に先延ばし傾向が及ぼす影響について男女別に検討した。対象者は大学生315名であった。質問紙は、ストレスコーピングに関連のあるとされる共感尺度、先延ばし傾向尺度、対人ストレスコーピング尺度、ストレス反応尺度で構成された。「抑うつ不安」「不機嫌怒り」「無気力」からなるストレス反応について重回帰分析を行った結果、男子では全てのストレス反応に対して先延ばし傾向の影響が大きいことが明らかとなった。また、女子では先延ばし傾向よりも被影響性の影響が大きいことがわかった。以上よりストレス反応に影響を与える傾向やコーピング手段が男女で異なり、ストレス反応の低減のために男子は問題を後回しにしないことや独りよがりにならないこと、女子は男子の傾向に加えて周囲に影響を受けすぎないことが重要であることが示唆された。
著者
野嶽 勇一 深澤 昌史 榊原 隆三 Yuichi NODAKE Masashi FUKASAWA Ryuzo SAKAKIBARA
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.239-248, 2010
被引用文献数
2

乳酸を環状に重合した化合物である環状重合乳酸(CPL)が、ガン細胞の増殖を強力に抑制することが見出されている。CPLのこの特異な生理活性が脚光を浴び、CPLを新しいタイプの機能性食品や抗ガン剤として応用するための試みが精力的に実施されている。 CPLはガン細胞のピルビン酸キナーゼおよび乳酸脱水素酵素の活性阻害に効果を示し、ガン細胞の解糖系を特異的に抑制する特長を示す。この結果、解糖系の機能が低下したガン細胞においては、エネルギーおよび細胞構成成分の産生・供給が停滞状態に陥る。また、CPLの作用によりガン細胞ではアポトーシスも誘導されることから、ガンの成長が抑制されることが示されている。現在では、ガン患者を対象としたCPLの臨床試験も実施されており、腫瘍の縮小や症状の改善に関する症例報告がある。
著者
乙須 翼 Tsubasa OTOSU
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-12, 2010

アメリカにおいて、飲酒や賭博、暴力や動物への虐待を伴う娯楽への批判が本格的になされるのは、1820年代、30年代以降のことである。中流階級の人々を中心に行われた社会改革で、古くからある娯楽の多くは姿を消すか、形を変え、娯楽に対する人々の眼差しや態度は変化していく。本稿はこういった変化が見えつつあった18世紀末の娯楽批判の特徴を捉えるものである。アメリカでもいち早く社会改革が進められたフィラデルフィアの娯楽批判の言説空間では、古くからある娯楽が怠惰や浪費、貧困、犯罪と結びつくものとして批判される。またそれと同時に、健全な家庭生活や勤勉の精神、名誉、時間、健康、他者や動物の悲劇や痛みへの感受性といった諸価値がそこでは提示される。つまり、18世紀末の娯楽批判の言説空間とは、19世紀初頭の本格的な社会改革を支える「ミドリング・クラス」の価値観を提示、創出する、そういった場でもあったのである。In America, it was from the time of social reform that the people drastically changed their view and attitude to amusements in their leisure time. Middling-class reformers mainly attacked amusements which belonged drinking, gambling and violence to human and animals in the early nineteenth century. Consequently, these amusements were disappeared or were changed to rational leisure or sports. This study focuses the criticisms of amusements in the late eighteenth century Philadelphia where a capital of American social reform, and captures the features of them. In critical essays, reformers attacked traditional amusements because they made people idle, extravagant, poor and criminal. Furthermore, in the critical essays, some values were emphasized: healthy family life, spirit of industry, honor, time, health, and sensibility to tragedy and pain of others. In short, the criticism of amusements at that time was a place where the key values were created and presented to the people, that of "middling class" who would lead American social reform.