著者
難波 精一郎 EDWARD Costi 桑野 園子 COSTIGAN Edward COSTIGAN Edw
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

わが国の国際化に伴い,留学生の数が次第に増加する傾向にあるが,多くの問題もまた増加する傾向にある。本研究では講義のような1方向的になりがちな情報伝達場面における非母国語の聴取能力を測定し,聴取に影響を与える要因を検討し,留学生が受講している場合の講義の留意点について提案を行った。実験には日本人学生17名と留学生32名が参加した。刺激として,テレビおよびラジオ番組から選択し編集した10個の短文を用い,妨害信号(バブルノイズ)と音声信号のS/Nを系統的に変化させ,文章了解度を測定した。実験の結果:(1)文章中に既知でない単語が含まれたり,発音が不明瞭,あるいは騒音下など,聴取条件が悪い場合,文章の逐次的理解は困難となり,文脈から不明な箇所を推定する作業が行われる。(2)この文脈の利用には,その言語に対する知識量が貢献する。言語(音声)が未知の場合,音響学的手がかりのみによって,単語の同定をせねばならず,きわめて困難な作業となる。(3)留学生はかなり高度な日本語の能力を保持しているが,日本語の聴取条件が悪い場合,nativeと比較して上記(2)の困難を生じるようである。(4)キ-ワ-ドが認知されていると,留学生の場合も文章の了解は容易となる。以上の結果から,留学生を対象に講義を行う際の留意点として次のことが有効と考えられる。(1)視聴覚教材を活用し,耳のみならず目からの情報によって理解を助ける。(2)少なくとも,キ-ワ-ドは必ず板書する。(3)ゆっくり明瞭に話す。(4)大切な部分は反復する。(5)やさしい文章構造を用い,また付加情報を与えることで,文脈からの推定が容易になるようにする。(6)バブルノイズが重畳すると留学生の場合、聴取能力が急激に低下するので,バブルノイズの典型である教室における学生の私語を禁止する。