著者
熊谷 敦史 大津留 晶 SERIK MEIRMANOV 伊東 正博 SAGADAT SAGANDIKOVA DANIYAL MUSSINOV MAIRA ESPENBETOVA
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.363-366, 2006-09

旧ソビエト連邦カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場では1949年から1989年まで(1965年以前は地上核実験)計470回ともいわれる核実験が行われた。この地域では約160万人を超える人々が今なお生活を営んでいるとされ,健康影響の調査や支援が必要とされている。さらに1991年の旧ソビエト連邦崩壊による社会基盤の瓦解により一般的なこの地域への医療支援の必要性が高まっていた。1997年の国連総会における同地域への支援決議(169号)を皮切りに日本政府も支援に乗り出し,長崎大学も広島大学などと共に2001年からJICA(国際協力機構)の事業として旧ソ連カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場周辺地域で癌検診をはじめとして細胞診・病理診断指導などの医療協力を行ってきた。甲状腺はその組織の特性から,放射性ヨウ素の取り込みによる内部被曝の危険が高く,放射線被害による発癌の危険性が高い臓器の一つとされている。実際に,甲状腺癌は日本人被爆者において増加を示し,1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後には周辺地域で特に小児甲状腺癌が急増した。甲状腺乳頭癌(PTC)の成人例において,特異的かつ高頻度(3〜6割)の遺伝子異常として近年BRAF遺伝子点突然変異(BRAF T1799A)が報告され,遠隔転移や放射性ヨウ素内照射療法への抵抗性との相関性などから予後不良群の指標として注目されている。