著者
伊東 正博 小森 敦正
出版者
独立行政法人国立病院機構(長崎医療センター臨床研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

チェルノブイリ組織パンクにはこの2年間で約300症例が登録され、計3,000症例の症例集積が進んでいる。被曝甲状腺癌には一つの決まった特徴はなく、被曝形式により形態学的にも分子生物学的にも多様な形態を呈していた。チェルノブイリ地域から発生した小児甲状腺乳頭癌において、被曝の有無により、組織像に差はみられなかった。しかし、ヨード摂取の高い国の症例とは有意に差が存在し、低ヨード摂取は小児甲状腺疵の発生頻度の上昇、潜伏期の短縮、形態形成、浸潤性に影響を及ぼしていることが推察された。
著者
伊東 正博 中島 正洋
出版者
独立行政法人 国立病院機構 長崎医療センター・臨床研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

チェルノブイリ組織バンクに研究期間の3年間に約1,000例の生体試料の登録がなされ、4,288例の組織登録が完了している。被曝甲状腺癌には一つの決まった特徴はなく、被曝形式により形態学的にも分子生物学的にも多様な形態を呈することを報告した。新規に低ヨード環境の影響、成人症例の検討、FOXE1(TTF2)の変異、53BP1核内フォーカスの解析、microRNA解析を継続的に進めている。
著者
伊東 正博 中島 正洋
出版者
独立行政法人国立病院機構(長崎医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究期間中、チェルノブイリ組織バンクに5021例の組織登録が完了した。ヨード環境の異なる本邦とチェルノブイリ周辺地域の被曝歴のない成人の甲状腺乳頭癌症例を用いて病理組織学的検討を行った。チェルノブイリ症例では小児、成人とも充実性成分を有する症例が多くみられ、ヨード環境や遺伝的背景の差が形態形成に差をもたらすこと、放射線感受性を考える上で環境因子が重要であることを報告した。また福島原発事故関連の若年症例では、大部分の症例が古典的乳頭癌形態を呈し、BRAF点突然変異が多く、ret/PTC変異を主とするチェルノブイリ症例とは腫瘍形態、遺伝子変異が大きく異なることを明らかにした。
著者
熊谷 敦史 大津留 晶 SERIK MEIRMANOV 伊東 正博 SAGADAT SAGANDIKOVA DANIYAL MUSSINOV MAIRA ESPENBETOVA
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.363-366, 2006-09

旧ソビエト連邦カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場では1949年から1989年まで(1965年以前は地上核実験)計470回ともいわれる核実験が行われた。この地域では約160万人を超える人々が今なお生活を営んでいるとされ,健康影響の調査や支援が必要とされている。さらに1991年の旧ソビエト連邦崩壊による社会基盤の瓦解により一般的なこの地域への医療支援の必要性が高まっていた。1997年の国連総会における同地域への支援決議(169号)を皮切りに日本政府も支援に乗り出し,長崎大学も広島大学などと共に2001年からJICA(国際協力機構)の事業として旧ソ連カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場周辺地域で癌検診をはじめとして細胞診・病理診断指導などの医療協力を行ってきた。甲状腺はその組織の特性から,放射性ヨウ素の取り込みによる内部被曝の危険が高く,放射線被害による発癌の危険性が高い臓器の一つとされている。実際に,甲状腺癌は日本人被爆者において増加を示し,1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後には周辺地域で特に小児甲状腺癌が急増した。甲状腺乳頭癌(PTC)の成人例において,特異的かつ高頻度(3〜6割)の遺伝子異常として近年BRAF遺伝子点突然変異(BRAF T1799A)が報告され,遠隔転移や放射性ヨウ素内照射療法への抵抗性との相関性などから予後不良群の指標として注目されている。
著者
和泉 泰衛 矢野 聡 佐藤 早恵 西野 文子 大野 直義 荒木 利卓 矢嶌 弘之 中島 一彰 伊東 正博
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.122-124, 2016 (Released:2016-06-24)
参考文献数
8

症例は24歳男性. 主訴は感冒症状が先行する右頸部痛. 画像上, 右内頸静脈血栓を認め, Lemierre症候群と診断. 抗生剤と抗凝固療法にて症状改善した. 退院後に腰痛, 乾性咳嗽が出現し頸部-骨盤造影CTにて右総腸骨静脈, 左内腸骨静脈に新たな血栓, 右下葉の肺炎, 椎体の骨髄炎の所見を認めて再入院となった. 各種感染症検査を提出したが原因は特定できなかった. 抗生剤治療を継続したが, 両側胸水が増悪し, 椎体の溶骨性病変が多発, 増大した. 骨病変の生検を施行した所, 転移性腺癌の診断に至った. 内視鏡検査にて進行胃癌を認め, 多発骨転移, 癌性リンパ管症を合併した進行胃癌と診断された. 以上の経過より, 上気道炎から内頸静脈血栓を合併したのは, 進行胃癌に伴う過凝固状態が一因であったと推察した. つまり, 進行胃癌に伴うTrousseau症候群の一例と考えられた. 本症例のように血栓症を繰り返す症例では若年者でも悪性疾患合併を考える必要があると感じた症例であった.
著者
山下 俊一 FOFANOVA O ASTAKHOVA LN DIMETCHIK EP 柴田 義貞 星 正治 難波 裕幸 伊東 正博 KOTOVA AL ASHATAKNOVA エルエヌ DEMETCHIK EP ASHTAKNOVA L DEMETCHIK E.
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

旧ソ連邦の崩壊後、1994年から3年間ベラル-シを中心に学術共同研究「小児甲状腺がん特別調査」を行ってきた。すでに関係機関や保健省、ミンスク医科大学、ゴメリ医科大学、ゴメリ診断センターとは良好な協力関係を構築し、放射能高汚染地区の小児検診活動が軌道に乗っている。昨年出版したNagasaki Symposium; Radiation and Human Health(Elsevier,1996)ではベラル-シ以外ウクライナ、ロシア、カザフ等の旧ソ連邦の放射線被曝者の実態を明らかにしてきた。1994年〜1995年の一期目はベラル-シ、ゴメリ州を中心に小児甲状腺検診プログラムの疫学調査の基盤整備を行い、共通の診断基準、統一されたプロトコールを作成し甲状腺疾患の確定診断を行った。特にエコー下吸引針生検(FNAB)を現地に導入し、細胞診を確立することで最終診断の上手術の適応を判定可能となった。更にゴメリ州で発見された小児甲状腺がん患者がミンスク甲状腺がんセンターで手術されることから、連携をとり、組織診断の確認や患者の追跡調査を行った(Thyroid 5; 153-154,1995,Thyroid 5; 365-368,1995,Int.J.Cancer 65; 29-33,1996)。チェルノブイリ周辺では慢性ヨード不足のため地方性甲状腺腫の診断の為、尿中ヨードの測定装置を開発し、現地での測定に役立て一定の成果を得た。すなわちヨード不足と甲状腺腫大の関係を明らかにした(Clin Chem 414; 581-585,1995)。一方、ヒト甲状腺発癌の分子機構や病態生理の解明のためには種々の基礎実験を行い、甲状腺癌組織におけるPTHrPの異常発現と悪性憎悪の関連性を明らかにした(J Pathol 175; 227-236,1995)。特に放射線誘発甲状腺癌の研究では細胞内情報伝達系の特徴から、細胞周期停止とアポトーシスの解離現象を解析した(Cancer Res 55; 2075-2080,1995)。その他TSH受容体の遺伝子異常(J Endocrinol Invest 18; 283-296,1995)、RET遺伝子異常(Endocrine J 42; 245-250,1995)などについても解析を行った。1995年〜1996年の二期目はベラル-シの小児甲状腺癌の激増がチェルノブイリの原発事故によるとする各国際機関発表を基本に被曝線量の再評価を試みた。しかし、ベラル-シの多くのデータは当時のソ連邦特にモスクワ放射線生物研究所を中心に測定、管理されており、窓口交渉やデータの共有化等で未解決の問題を残している。更にチェルノブイリ原発事故の対応はセミパラチンスクにおける467回の核実験の対策マニュアルに基づいて行われたことが明らかとなり、カザフを訪問し健康被害の実態調査(1958-1990年)について検討を加えた。一方、甲状腺癌の基礎研究においてはいくつかの新知見が得られている。1996年-1997年の三年目は、チェルノブイリ原発事故後激増する小児甲状腺がんの細胞診活動を継続し、30,000人の小児検診のうち60名近いがんを発見した。同時にほかの甲状腺疾患の診断が可能であった(Acta Cytol in press 1997)。チェルノブイリ以外に旧ソ連邦では467回の核実験を行ったセミパラチンスクが注目されるが、更に全土で100回以上の平和利用目的の原爆資料が判明した。甲状腺癌細胞を用いた基礎実験ではp53遺伝子の機能解析を温度感受性変異p53ベクター導入株を用いて行った。その結果、放射線照射における細胞周期停止とアポトーシスの解離現象にp53以外の因子が関与することが判明した。更にDNA二重鎖切断の再修復にp53が重要な役割を担っていることが明らかにされret再配列との関連性等が示唆された(Oncogene in press 1997)。TSH受容体遺伝子や脱感作の研究も進展している。しかしながら、放射線誘発甲状腺含発症の分子機構は未だ十分解明されておらず更なる研究が必要である。貴重なチェルノブイリ原発事故周辺の小児甲状腺がん組織の散逸やデータの損失を未然に防ぐためにも国際協調の下、Chernobyl Thyroid Tissue BankやPatient Network Systemなどの体制づくりも必要である。
著者
熊谷 敦史 Vladimir A. Saenko 柴田 義貞 大津留 晶 伊東 正博
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.297-300, 2004-09

甲状腺癌の約80%以上を占める主要な病理組織型である甲状腺乳頭癌(PTCs)には,特異的な遺伝子異常が存在する. 特に,チェルノブイリ原子力発電所事故後の小児PTCsにおける高頻度のRet/PTC遺伝子再配列異常が報告されている. 一方,成人PTCsにおいては,2003年BRAF遺伝子のエクソン15コドン599に限局した活性型点突然変異(T1796A,V599E)がその3〜5割に認められ,PTCsの発症に関与していることが報告された. その後シークエンス解析等の結果,BRAF遺伝子のヌクレオチド番号・コドン番号の表記が訂正され,これに従いHot spotはコドン600(T1799A,V600E)に訂正された. BRAF遺伝子はRAS-RAF-MAPK経路(MAPKカスケード)を構成するRAF蛋白のアイソフォームのひとつであるBRAF蛋白をコードする遺伝子であり,BRAF蛋白はセリン・スレオニンキナーゼとして細胞内情報伝達因子としての活性を持っている. BRAF蛋白は通常でも,その下流の因子であるMEK1/2に対して,その他のRAF蛋白(ARAF,RAF-1)より強い親和性を有しているとされている. 遺伝子変異によってBRAF蛋白の600番目のアミノ酸がバリンからグルタミン酸に転換すると,BRAF蛋白の構造変化を引き起こし通常よりさらに強力なリン酸化能を恒常的に発揮するようになると考えられている. また成人発症のPTCでは,BRAF遺伝子変異と遠隔転移との間に有意な相関性が認められることも指摘され,BRAF遺伝子変異が予後不良群のマーカーとなる可能性も注目されている. これに対して小児PTCsは成人例に比べて遠隔転移が高頻度に認められるにもかかわらず,予後が比較的良好であることが特徴である. そこで小児PTCsにおけるBRAF遺伝子異常の頻度を検討した. 更に,放射線汚染地域および非汚染地域でのPTCsの遺伝子異常の頻度を比較することにより,放射線被曝による変異誘発の可能性もあわせて検討することとした.
著者
山下 俊一 高村 昇 難波 裕幸 伊東 正博
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

チェルノブイリ事故後に急増した小児甲状腺がんの放射線障害の起因性を明らかにするために、チェルノブイリ周辺地域(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)における分子疫学調査を行った。特に、分子疫学を行うためにの基礎として甲状腺および末梢血液より核酸(DNAおよびRNA)抽出法について検討した。1)ベラルーシのミンスク医科大学と長崎大学は姉妹校を結び小児甲状腺がんの診断技術の研修を行っている。ベラルーシのゴメリを中心として、小児甲状腺がん患者についてのCase-Control Studyを行い、甲状腺がん症例220例、Control(年齢、性別)をあわせたもの1320例を抽出して現在調査を行っている。2)患者の核酸を永久保存するための基礎検討として、ベラルーシから持ちかえった抹消血液からのDNA抽出検討を行った。その結果、血清を除き生理食塩に血球を希釈して持ちかえることで、4℃の場合と室温保存と差がなく3週間後でも高品質のゲノムDNAを抽出することが可能であった。さらにDNA資料の半永久保存のための試みとしてLone-Linker PCR法について検討している。3)甲状腺腫瘍組織からRT-PCR法によりcDNAを増幅して、放射線により誘導される遺伝子異常の一つと推測されているRet/PTC遺伝子の解析を行った。旧ソ連邦の核実験場であったセミパラチンスクで発症し手術を受けた甲状腺組織を用い、RNAを抽出しRet/PTC1,2,3の異常が認められるかどうかについて解析した。その結果、Ret/PTC3の異常が高頻度で見られ、被爆とこの遺伝子異常の関連性が示唆された。この結果はLancettに掲載された。
著者
伊東 正博 中村 稔
出版者
独立行政法人国立病院機構(長崎医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

放射線誘発腫瘍研究の最も大きな課題は放射線特異的な遺伝子異常や形態変化が存在するか否かであり、チェルノブイリ組織バンク症例を用いて解析を行ってきた。事故から20年が経過し周辺地域での甲状腺癌の発生は小児から成人にシフトし依然高い発生率を呈している。チェルノブイリ組織バンクには約2,500症例が登録されて病理組織や遺伝子(DNA, RNA)が保管されている。チェルノブイリ症例では遺伝的・環境的に同じ地域の自然発症例との比較データが欠けていたが、近年、同地域の非被曝小児症例が集債され、放射線被曝特異的な組織型は存在しないことが明らかになってきた。甲状腺癌の約95%は乳頭癌が占め、被曝形態や被曝年齢により様々な形態変化が存在する。乳頭癌の亜型(乳頭状、濾胞状、充実性)頻度に被曝、非被曝群間で差は見られず、手術時年齢により関連していた。そのなかで被曝時年齢と潜伏期によりある程度の形態発現が規定されていた。充実性成分は被曝時年齢よりも短い潜伏期と関連しRET/PTC3変異が高率に観察された。高分化型形態を呈する乳頭癌ではRET/PTC1変異が優位であった。短い潜伏期ほど浸潤性が高く、長い潜伏期ほど腫瘍辺縁の線維化が目立った。BRAF変異は被曝との関係は見られず年齢と強い相関を示し、若年者での変異は低率であった。RET再配列とBRAF変異は相互に排他的であった。乳頭癌の亜型間での細胞増殖指数に有意差は認めなかった。予後は概して良好で5年生存率が98.8%、10年生存率が95.5%であった。組織亜型による差は認めなかった。被曝と甲状腺癌形態の解析には更なる症例集積が必要である。