著者
大野 正夫 LARGO Danilo FORTES Migue TRONO Gavino 鰺坂 哲朗 小河 久朗 増田 道夫 山本 弘敏 奥田 武男 吉田 陽一
出版者
高知大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

フィリピン諸島の海藻・海草・微細藻類に関する分類、生態に関する調査研究、有用海藻類の資源学調査は昭和60年度より開始され、3次にわたる現地調査が行われた後、最終年度の平成2年度に総括的調査研究が実施された。1.現地調査:今年度の実施計画では、各担当者が今迄の調査で、デ-タや海藻標本等を特に補ぎなう必要のある地域を定めた。また3次まで行動等を考慮して乾期に現地調査が実施されてきたが、雨期の海藻の生育状態も知る必要が生じたために、6月16日から6月28日の期間現地調査実施した。山本,増田,鰺坂は、今迄の研究から、それぞれオゴノリ属,ソゾ属,ホンダワラ属の海藻類の分類学的研究にしぼって、北ルソン島で調査が行われた。短期間でかなり広い範囲の採集調査が行われ、オゴノリ属やソゾ属の標本は充分に得られ、特にフィリピンでのこれらの種の季節的消長を知ることができた。ホンダワラに関して、新らたに得られた種の標本は多くはなかったが、生殖器床を持つ標本が多く得られた。吉田は、マニラ周辺のミル貝の養殖場の環境調査を実施した。今回はミル貝養殖を指導しているJICAの専門家の協力も得て、詳細な水質調査とともに、養殖場内の植物プランクトン組成を知ることができ、ミル貝養殖の管理の基礎資料を得ることができた。奥田は、フィリピン諸島の中央部にあるセブ島で、サンカルロス大学の協力を得て、5昼夜にわたり、紅藻類の果胞子放出周期、特に日周リズムの有無についての観察を実施した。今迄の調査で季節的成熟リズムを追ったが、今回の調査研究で、熱帯域における海藻の成熟現象を明らかにすることができた。小河は、海草類の分類地理学的調査を実施してきたが、生態的調査資料が充分でなかったので、パラワン島に定点を定め、季節的調査を実施してきたが、今回、その総括的な調査を実施した。その結果、雨期は結実期であることがわかり、熱帯域の海草の生活パタ-ンをとらえることができた。大野は、フィリピンで養殖されているキリンサイ類の養殖方法を生態学的に検討した。また前回採集された海藻標本の整理と種類の検討を行なった。2.招へい:3次調査までに協同調査を行なってきたフィリピン大学のトロノ教授,フォルテス助教授,サンカルロス大学のラルゴ講師は、彼等の専門分野について、日本側メンバ-および日本国内の関係研究者と有意義な意見交換をすることができた。トロノ氏は、フィリピン産のホンダワラ類について、出来るかぎり種名を明らかにする研究計画があり、北海道大学の標本庫におさめられている標本と比較検討することにより、多くの未同定のものについて、検討することができた。フォルテス氏は、海草類の生態に関し、熱帯域と温海域の相違点などを検討することができた。ラルゴ氏は、有用海藻であるオゴノリの生理生態的な研究とホンダワラ類の生態調査をセブ島で実施しており、そのデ-タを高知大学と京都大学において検討する会合を持った。以上のように各担当者は、短期間の現地調査であったが、多大の成果を得て、現在デ-タ-の解析や分類学的検討を行なっている。各人の成果は、個別に学術雑誌に投稿することにしているが、このプロジェクトの成果として日本水産学会平成4年度シンポジュウム「東南アジアにおける養殖の現状と将来展望」において、海藻類に関し、大野(海藻類の養殖)、小河(キリンサイ類)、鰺坂(オゴノリ類),吉田(ミドリガイ養殖と環境)が報告する。また、6年間にわたった調査研究の成果の総括的出版物として、200頁程度のものを企画している。原稿〆切を9月にして、来年度中に発行をめざしている。なおこのプロジェクトによりフィリピン諸島の海藻に関する研究は進んだが、海藻の分布域をみると、ベトナム沿岸の海藻が、日本・フィリピン諸島と似ているので、次にベトナム沿岸の海藻調査研究計画が立てられている。