著者
古川 不可知 Furukawa Fukachi フルカワ フカチ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.36, pp.119-137, 2015-03-31

ネパール東部のソルクンブ郡はシェルパ族の居住地である。エベレストの麓にあたるこの地域はトレッキング/登山観光の一大メッカであり、観光シーズンには多くのネパール人ガイドたちが観光客を案内して山道を行き交う。様々な民族的出自を持つガイドやポーターたちは、しばしば観光客たちから「シェルパ」として言及され、ときにはまた自らも「シェルパ」を名乗って観光産業に参与している。本稿の目的は、民族範疇とはズレを持ちつつ重なり合った「シェルパ」という職業カテゴリが、現地においてどのように語られ、実践され、また再生産されているかを、ソルクンブ郡のある村でネパール人を対象に開校される登山学校を事例として分析することである。ここでは、シェルパ族を中心にネパール各地から集まってきた生徒たちが、米国人講師の指導のもとでアイス・クライミング(氷壁登攀)の技術を中心とした登山スキルを習得する。学校では、外国人やシェルパ族、「シェルパ」として働くシェルパ族ではない人々などによって多様な「シェルパ」の理念や枠組みが提示され、生徒たちは「山で道案内するシェルパ」となるために訓練を通して自らの生活環境を対象化してゆく。生徒たちは、「シェルパ」の概念や登山用具などのモノ、環境中に道を作りだす実践などを通して職業としての「シェルパ」へと成型されてゆくのである。