著者
岡野 禎治 斧澤 克乃 李 美礼 GUNNING Melanie D MURRAY Lynne
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.172-179, 2002
被引用文献数
7

産褥期の精神障害の中でも産後うつ病は,10〜15%と罹患率が高く,適切な対応が遅れると,女性の社会的不適応のみならず家族関係に大きな影響を与える.婚姻関係の破綻,夫のうつ病の発症,さらに乳幼児に対する健全な愛着形成の遅れ,拒絶,虐待のほかに,近年の縦断的研究によって乳幼児の認知障害や知的障害を引き起こすことも判明している.今回は,産後うつ病が家族関係に及ぼす多彩な影響の中でも,母子相互関係に与える影響について調査した.産後4ヵ月の時点における日本人正常対照群(N=5)と産後うつ病群(N=4)における母子相互関係について,Global Rating of Mother-Infant Interaction at Two and Four Monthsというビデオ観察法を用いて,「mothers」,「infants」,「interaction」の総得点と各項目の得点を評価して比較した.「mothers」と「interaction」の平均総得点は,産後うつ病群の方が有意に低い値を示した.両群の個別評価ついてもいくつかの項目で有意な差異が認められた.すなわち,産後うつ病の母親は愛情度が低く,乳児の行動への受容が低く,乳児の要求を敏感に察知し,それに的確に反応することができなかった.さらに子供への要求度が高く,子供を不快にするような行動が多く,不安・緊張が高いことが判明した.相互作用については,円滑で満たされた相互のコニュニケーションに欠けていた.母親から乳幼児への愛着(attachment)形成に最も敏感である,いわゆる感受期(sensitive period)に予測される母子関係の障害を無視することはできない.今後,日本でも母子相互作用の包括的で長期的な研究が重要である.