著者
若月 芳雄 HO Bow FOCK KWong M 千葉 勉 FOCK Kwong M BLASER Marti STROBER Warr
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

H.pylori感染患者は全世界で約20億人、日本では約7000万人にのぼり、単一感染症としてはその感染患者数は史上最大であり、上部消化管の様々な良悪性疾患の原因となり関連疾患に要する医療費は莫大である。感染患者の病型を決定する因子については、欧米と日本の報告に解離がありその大略は未だに不明である。 国立シンガポール大学のHo Bow,Chang Gi病院のFock Kwong Ming等との共同研究によりシンガポールでは、中国系・インド系の人種グループには80〜90%の高いH.pylori感染者が存在するのに対して、マレー系のグループには40%の低い感染率であることが判明した。一方H.pylori感染症によりおこる慢性萎縮性胃炎と胃癌との関係は確立しているが、中国系、マレー系にはH.pyloriの感染罹患度に応じた胃癌累積発生を観るのに対して、インド系ではその高度な感染率に比較して胃癌発生頻度が極めて低いことが判明した。そこで今年度はマレーシアのKebangsaan Malaysia大学医学部細菌・免疫学教室のRamelha Mohamed助教授と協力して、同国の中国系・インド系・マレー系マレーシア人の感染患者より、H.pyloriの臨床分離株を収集しその遺伝子型と、臨床病型の解析に着手した。一方日本人患者からの臨床分離株のゲノム遺伝子ライブラリーより患者血清と家兎抗体を用いて、幾つかの抗原遺伝子をクローニングしそのうち、約19Kdの二量体型の膜蛋白(HP-MP1)はH.pyloriに特異的な新規抗原遺伝子であること、その組み替え体は単球を活性化するものであることを発見した。これらの所見は、この感染症の病態解明のみならず宿主の免疫応答を利用した新しい治療法の開発につながるものと考えられる。