- 著者
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呉 孟達
Huang LAWRENCE C-L
- 出版者
- 社団法人 全日本鍼灸学会
- 雑誌
- 全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.4, pp.626-641, 2008 (Released:2008-11-21)
- 参考文献数
- 19
今回われわれは西洋医学的に"迷路性耳鳴"と診断された65例の耳鳴症例に対して、 中医学的虚実弁証の理論を導入することによって、 新たに耳鳴を三つの、 西洋医学と中医学両方法論を加味した類型、 すなわち実証型迷路性耳鳴、 虚証型迷路性耳鳴および中間証型迷路性耳鳴に分類した。 次いで、 これらのそれぞれの病態証候に応じて、 中医学的"治病求本"の原則に基づき、 鍼治療を行った。 耳鳴治療効果の判定は主に治療前後の自覚的な 「耳鳴表現スコア」 と他覚的な 「耳鳴ラウドネス」 という二つの耳鳴パラメータの変化を用いて比較検討した。 治療後の 「耳鳴表現スコア」 もしくは 「耳鳴ラウドネス」 が有効を示した65症例全体の「粗有効率 (GER)」は72.3%、 両者がともに有効を示した 「自他覚的有効率 (BER)」、 つまりより厳密な有効率としては47.7%であった。 三つの中医学的病証型のうち、 実証型の有効率が最も高く、 そのBERは66.7%を示していた。 次は虚証型で、 そのBERは48.7%であった。 中間証型は最も悪く、 そのBERはわずか10%であった。 各病証型のBERに対し、 相互間の統計学的有意差はなかった。 一方、 治療終了2ヶ月後の効果判定では、 全体のGERは55.4%、 BERは38.5%にまで低下し、 治療効果の減少傾向が見られた。 特に虚証型のGERは統計学的有意な低下を示した。 結論として迷路性耳鳴に対する鍼治療を行うにあたって、 中医学的虚実弁証論の応用は大変重要であると考えられる。 65症例の臨床治療分析を通して、 虚証型や中間証型に比べて、 実証型耳鳴は鍼治療に最も高い反応を示すことが判明した。