著者
菅井 三実 Kazumi SUGAI 兵庫教育大学学校教育学部 Hyogo University of Teacher Education
雑誌
世界の日本語教育. 日本語教育論集 = Japanese language education around the globe ; Japanese language education around the globe (ISSN:09172920)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.175-191, 2002-06-28

本稿は、格助詞「が」の両義性を出発点として、 2種類の「構文スキーマ」を提案し、基本文型を具体的に範疇化するところにまで発展させたものである。まず、「ガ格」成分の基本的意味として述語レベルで 〈主体〉 と 〈対象〉 の 2つを認める。前者は 「太郎が走る」のような主語的なもので、後者は「水が欲しい」のように、むしろ目的語的なものである。 この両義性が 《意味と形式の一対一対応》 の原則に反することから、より高次のレベルにおいて「ガ格」を「述部内において最も顕著な成分」を標示するものとして同化させる。その上で、述語レベルにおける 2つの意味を分化させるために構文レベルに 2つの「構文スキーマ (constructional schema)」を導入する。この構文スキーマを導入することで、従来、その位置づけが確然としなかった 〈存在文〉 〈同定文〉 〈能力文〉 〈可能文〉 〈てある文〉 〈主観表現〉 〈形容詞文〉 などに対し、ガ格の意味に基づいて構文的特徴を明らかにするとともに、プロトタイプ効果を確認しながら、明示的な範疇化を試みる。具体的には、 存在文をプロトタイプ的メンバーとし、《存在のあり方》 を変数とする存在表現のバリエーションとして放射状に範疇化するというものである。同時に、〈存在のありか〉 が「ニ格」で標示されるかどうかという存在文に固有の特性に着目することで、〈(広義の)同定文〉 〈数量形容詞文〉 〈知覚文〉 〈関係文〉 が 1次的メンバーとして位置づけられ、〈情意・情態形容詞文〉 〈主観表現〉 〈能力文〉 〈てある文〉 が 3次的メンバーとして位置づけられることを例示する。