- 著者
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犬塚 康博
イヌズカ ヤスヒロ
INUDZUKA Yasuhiro
- 出版者
- 千葉大学大学院人文社会科学研究科
- 雑誌
- 千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
- 巻号頁・発行日
- no.28, pp.228-236, 2014-03-30
『志段味古墳群』(2011年)は、名古屋市教育委員会が計画する「歴史の里」のために実施された発掘調査等の報告書である。同書には、リテラシーの過失が複数認められた。ヘーゲルを参照するとき、同書の意味は「経験と歴史の断絶」にあることが仮説され、文化財保護の断絶、諸学との断絶に概括できるいくつかの徴証がこれを支持した。区画整理によって、地域の生活世界の経験と歴史が物質的、精神的に断絶されてゆくなか、古墳群を再編するのが「歴史の里」である。『志段味古墳群』の断絶性がこれを拘束し、さらに神話的世界の「尾張氏」が援用されてこの断絶を糊塗する。ここに、歴史のサブカルチャー化が予感されるとともに、天皇制を内面化した敗戦前の歴史の再演もが想起された。『志段味古墳群』のいわゆる「非科学的な考古学」は、現在の安倍政権等による、対中国を頂点とした戦争機運醸成ならびに戦争体制整備としての中央集権強化と同期するのである。