著者
夏目 漱石 JAMET Olivier
出版者
天理大学
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.123-132, 2016-10

夏目漱石の「創作家の態度」は,(明治41)年2月15日,東京朝日新聞社が主催する,朝日講演会の第一回と(して,神田美土町の青年会館で行われた。他の講演者三宅雪嶺,内藤鳴雪,杉村楚人冠らであった。 「文芸の哲学的基礎」と「文学論」の論点とは異なり,この講演では「物」と「我」の対立ではなく,「我」と「非我」の対立として問題を立て直している。 「我」を主とするものを「主観的態度」,「非我」を主とするものを「客観的態度」として,文学の様態を,既存の文学史やジャンル分けに拘束されない形で再編成している。 本講演のテキストはかなり長いものであるため,今回は(第四段)を紹介する。この続きは次号以降に順次訳出する予定である。
著者
Jamet Olivier
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.51-71, 2011-02

1911年8月桂太郎内閣が弾圧政治を行っていた時代に,夏目漱石は関西で4つの講演を行った。それは今日まで色あせることのない捕われた人間の個人としての自立と保護を訴える鋭いヒューマニズムを表明するものであった。本論文では大阪で行われた4番目の講演「文芸と道徳」について考察する。最初に当時の社会において漱石が個人の価値を認めるに至った経緯を説明し,急激に変化する社会を示す概念,表現,「鍵」となる漱石の言葉に焦点を当てる。そして夏目漱石文学におけるこの講演会の重要性,特に自己の存在への不安と危機が生じた約10年の間に起こった漱石自身の大きな変化を述べ,社会政治的性格を有したメッセージの重要性を説く。